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新たな関係
164.国とか信仰とか
しおりを挟む「リンさん、お疲れ様。」
「あ、うん。ありがとね。」
カン君から声をかけられ、少しホッとする。
でも、事態は思った以上に面倒くさい話なんだろうか。
だとしたら・・・ますます、巻き込めないよなぁ。別々に動いた方が、カン君の安全は守れる。
ぐるぐると、そんな事を考えていたら、カン君が師匠に問いかけていた。
「師匠、レザ先生。後半の話、意味が分からなかったので、解説をお願いしてもいいでしょうか?」
「あぁ、国の関係と『黒髪の戦乙女』の信仰の事だな。・・・この国にいる分には問題ねぇから言ってなかったんだがな。」
「まぁ、これを期に、2人に周辺のことも分かっておいてもらった方が良いでしょ。」
そう言って、師匠とレザ先生は、ダイニングテーブルへと移動し、師匠がテーブルいっぱいの地図を広げた。
そこにあるのは、何となくヨーロッパを思い出すような地図だった。
ヨーロッパから、北欧の出っ張りをとって、ポーランドの国境沿い位からロシアとの境のウクライナが真ん中辺りでぶつ切り、といった感じだろうか。
「これが、この国と界隈の国の地図になる。」
師匠の説明によると、この国と周辺国は全部で5つ。
私たちが現在居るモースバーグ国。
実の所い5国の中で一番大きいそう。
西端がフランスから、東端がドイツ・チェコ・オーストリアの国境ライン、イタリアも含むって感じ。
しかも、他4国と全て国境を接してる状態とのこと。
ポルトガルとスペインの辺りにある、アーリエタ国
東ヨーロッパ側の上半分を占めるブルノ国
その下半分にあるシャルテロ国
そして、イギリスにあたる場所にある島国が、イリューン国
モースバーグ国としては、アーリエタ国とは懇意であり、アーリエタの魔道具技術と、モースバーグ国の食料庫及び医療技術のやり取りが盛んであるとのこと。
東の2国は可もなく不可もなく、普通な貿易関係であるそう。
ただ、イリューンについては、海に面する3国ともに、稀な交易であると。
陸地続きの4国は、主に精霊信仰をしているそう。見える訳ではないが、魔法が使えること自体が至る所にいる精霊のおかげ、という捉え方。
日本でいう八百万の神様がいる感じ。
イリューンについては、「黒髪の月の女神」を信仰しているとのこと。
昔話に、人類の危機に助けを出した黒髪の月の女神の話があるそうで。
1人の少女が月の神様に願い、黒髪の女神の力を借り受け、『魔物』を倒したと。その後、その少女は『黒髪の戦乙女』と呼ばれるようになった。
イリューンはその舞台であり、その由来から女神とその少女を信仰対象にしている。
そして、当時の王様とその少女が結婚したため、現王族は少女の末裔であるという事らしい。
ふーん。
・・・変なフラグ立たなきゃ良いなぁ。
ボンヤリと、そんなことを思う。
「・・・師匠、黒髪の人間って、そのイリューンには居るんですか?」
「いや、いねぇよ?つか、この世界で黒髪はほとんど見かけない。俺も過去1人だけ見たことあるが、お前らみたいな真っ黒じゃなくて、灰色っぽかった。だから、真っ黒は御伽噺レベルなんだよ。」
「だから、『欲しい』んだろうな、と推察出来るワケ。」
私のボンヤリとした思いを無視する感じで、ポツリと、レザ先生が物騒な事を言う。
「・・・何にしても、国の思惑に巻き込まれないための力と立ち位置が必要だ。下手すると、この国と、イリューンとの交渉材料にされる。」
「この国自体が、味方とは限らない、という事ですか?」
「あぁ、 何処にだって、自分の益しか考えない奴はいる。騙されないようにしろ。」
私の懸念は、あっさりと肯定される。
カン君も話に参加する。
「イリューンの交易材料って何なんですか?」
「主に鉱物や宝石・・・色んな物が出るが、中でも『月の瞳』と呼ばれる希少な宝石に群がる輩は多い。」
「その利権と、『黒持ち』の交換・・・なーんて考える馬鹿も居そうだからね。注意しなよ?」
レザ先生の言葉に、ぐ、と息を呑む。
このまま、ココで引きこもって居た方が良いのかも・・
でもそれじゃ、帰還方法が見つからない。
「とりあえず、お前達2人はA級ライセンスに昇格することだ。それにより、冒険者としての活動は保証される。A級は本人が望まぬ限りは『国付き』にはできないからな。」
冒険者ギルドも商業ギルドも、国直轄ではなく、独立組織。
冒険者自身、ギルドに守られるものの、貴族には強く出られない一面もある。
但し、A級ライセンス持ちは、騎士と同等またはそれ以上の力を持つと認定され、有事の際には、国を超えて迅速に対応できるようになっているとのこと。
その為、貴族や国が勝手な依頼ができないこととされている。
身を守る為には、それが良いのだろう。
師匠の言葉にコクリと頷いた。
「あとは・・・旅に出るとした時の後見だな。」
「後見、ですか?」
後見人、であれば、師匠ではダメなのかな?と思い、首を傾げる。
すると師匠は、少し困ったような顔を見せた。
そして、眦を下げて溜息を吐くと言葉を続けた。
「・・・カンにも言ったが、俺は基本森からは、離れらんねぇからな?旅には付いてけねぇぞ?」
「あ・・・」
そっか、師匠はそもそも、ニースの森の守護者だ。
『グレイハウンド』の一員として、ここに居るのが当たり前に感じていて。
居心地よすぎて。
ここから離れる事が、時々頭から抜けてしまう。
旅のイメージも、カン君と2人というより、5人で移動してるイメージの方が、心の奥で強くなっていたのかもしれない。
それと、さっきの話を聞いたら、1人行動の方が良い気もするし・・・
また、ぐるぐると考えていたら、師匠がトンデモ提案をしてきた。
「お前達に付くなら、旅慣れてる強いA級が必要だ。それを踏まえると、やっぱりコウに頼むしかない。」
「・・・へ?」
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