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新たな関係
163.事の顛末の擦り合わせ
しおりを挟む「ーーーそれでは、今回の経緯について、こちらからお話していきます。リンさん、貴女が知っている事や、疑問に思う点がありましたら、その都度止めていただいて構いません。」
部隊長さんが神妙な口調で話す内容に、意義はないので頷いて同意する。
「では・・・」
ーーーシグルド=オーファが取り仕切った武器集めの一件は、彼が秘密裏に行なっていた、精神干渉を行う術式の開発にまで問題が広がっていた。
リンを狙ったのは、やはり未知の武器を使用していた件、また、精神干渉を受け、極限まで身体能力を上げられた騎士達の部隊を統制する旗印として、祭り上げるつもりだったとのこと。
ただ、一介の騎士団副部隊長程度に今回の騒動を起こすだけの力・・・財力も含め・・・が有ったとは思えず。
しかし、実家の子爵家や、騎士団での金の流れを洗い出しても、何も見つからない。
その為、現状では、シグルド=オーファ及びその子飼いであるコルト=ラギル、ダグ=ネルキオの、騎士団内の単独反乱と見られている。
今回腕輪や足輪を付けられて、精神干渉を受けていた者については、隔離しその後の影響を確認。
魔道具を付けられるに至った経緯等を調査後、副作用などなく条件がクリアされると、騎士団に復帰となる。
首謀者であるシグルドについては、背後関係の確認後、重くて処刑、軽くて流刑の厳罰となると予測される。
実働部隊であった、コルト、ダグ、グリオ=シェルパ、ラーン=リグルパルドについても流刑以上の厳罰となると予測されているーーー
そんな話を時系列と共に説明される。
「・・・と言った流れです。何か不明な点、気になる点などありますか?」
部隊長さんの眼鏡の奥の表情が、何処と無く曇って見える。
きっと、この状態に納得はしていないんだろう。
だったら、まず伝えるべきことは。
頭の中で事実と推察を並べ、伝えるべき事を整理する。
「私は、この国、この世界の情勢に疎いです。そんな中で感じた事を話させていただきますが、よろしいですか?」
「あぁ、是非とも頼む。」
目の前の団長さんが食い入るように見つめてくる。
責任重大だ。
一つぐっと深く、深呼吸する。
「シグルド=オーファの背後には誰かが居るのと同時に、コルト=ラギル、ダグ=ネルキオの命令系統は別と推察します。しかも、近隣国が関与している可能性が高い。そして、その国は、『戦乙女』に纏わる何かを信仰している。そう、考えます。」
団長さんと、部隊長さんの目が見開かれる。
「その、根拠は?」
団長さんの声が、重く引く響く。
若干の威圧がこもっているようだ。
・・・師匠程じゃないから問題ないけど。
「助けたグリオさんと話をした後に、ダグと対峙をした際、すでに違和感がありました。
『腕輪作製のお金の出所が不明である』事。『仲間達が大勢、私達に捕まっているのに、不自然な迄の余裕があった』事。そして、『多くの騎士達を犠牲にし、『私』だけを捕まえようとする意味が分からない』事。
精神干渉し、思考統制をした騎士達で新たな部隊を作り、私をクーデターを起こす旗印にしようとしても、今いる騎士達を捨て駒にする理由が分からない。
彼らを捨て駒にする、ということは、大量の腕輪も使い捨てると言う事でしょう?
費用対効果を考えても得策では無いはずです。
ダグの様子からも、シグルドはいても居なくてもどっちでも良さそうな、というか、寧ろ居ない方がやりやすい、という感じも受けました。
なので、『シグルドの下についてるフリして、命令系統は別なのか』とカマかけましたら、案の定。」
「なんと・・・」
部隊長さんが絶句する。
私は、紅茶を一口、口に含んで一息つく。
「その後、コルトに合流された際、精神干渉を受けていると思い込んでいた奴は、私に対し命令しようとしました。
その内容は『私が居るべき場所は、この国ではない。黒髪の『戦乙女』が、本来居るべき所へ連れて行く』と言うもの。」
「!?」
「武器の一件があって、最初に集落で対峙した時、奴は自領の騎士団に力を貸さない私に憤っていたはずです。
しかし今回対峙した時は違った。
気持ち悪い程に『戦乙女』に執着していると感じたのと、何故、別な国が絡むような事をしているのか、とも思いました。」
ふと、膝にある左手が、そっと大きな手に包まれた。
視線を感じ左隣を見ると、カン君が心配そうにこちらを見ていた。
私の手が膝の上で堅い拳を作っていた事に気づく。
自分で思っている以上に、緊張していたんだろう。
彼の顔を見、大丈夫、と笑ってみせる。
少し泣きそうな顔をしたカン君は、手を握ったままコクリと頷いた。
「・・・その為、敢えて『この領の騎士であるのに、他国と繋がっていると公言した』事、『民間人の誘拐宣言をした』事、『国外逃亡を企んでいる』事を口にした所、否定はありませんでした。」
「・・・そうでしたか。」
団長さんと部隊長さんの顔が険しくなる。
「最初にお伝えした通り、私は、地理や、この国と界隈の国との力関係や、宗教的な事、歴史的な事には疎いので、よく分かりません。ですから、お伝えした事の、自分が見聞きした事だけが事実です。後は推察です。ですから、後の調査は宜しくお願い致します。」
・・・昔、こーくんにも言われたっけな。
推察だけで突っ走るなって。
引っ掻き回すだけになっちゃうから、裏は取りなさい。自分でやるだけじゃなくて、専門部署に任せられるなら、その方が良いって。
私は深々と頭を下げて、団長さん達の返事を待った。
ふぅ、と大きな溜息が聞こえ、沈黙が破られる。
「・・・分かりました、ご協力有難うございます。」
団長さんが頭を下げ、また部隊長さんもそれに続いて頭を下げた。
「『黒髪の戦乙女』の信仰なぁ・・・イリューンで当たりじゃねぇのか?」
「まぁ、そう思うけどネ。俺らが決められる話じゃないだろ。ファルコ領、強いてはモースバーグ国として、どうすんのか、だろうしねぇ。」
師匠とレザ先生が、溜息を吐きながら核心に触れるだろう話をしているが、さっぱりわからない。
「とりあえず、ファルコ領騎士団としては、領主に今回の一件を伝えた上、国へ報告となります。・・・集落の皆さんまで巻きこみ、この領の財産であるニースの森を燃やしたという罪もありますから。」
「まぁ、一部の騎士団の団員が何かやらかすのは、今に始まったことじゃないし、この集落の面子もそれは分かっている。ただなぁ今回は森を燃やされたってのと、狙いがリンだったってのがデカイ。俺やコウは、騎士団に関わってたり、貴族だったりしてるから仕方ねぇが。リンは全くの平民冒険者だからな。
集落側の要望としては、今回の首謀者は絶対に逃がすな。騎士団の中で、なぁなぁに済ますな。それだけだ。」
「はは、全く耳が痛いですね・・・民を守るべき騎士団の人間が、一体何を馬鹿な事をしてるのかって話ですよ。再度規律を引き締めにかかります。」
2人の話を聞きながら、ふと、グリオさんの顔が浮かぶ。
結局は彼も重い罪に問われるのだろうか・・・
「アイザック、とりあえず処遇が決まれば、冒険者ギルドに連絡をくれ。きっと、リンについても色々あるだろうからな。」
師匠を見ると、ん、と頷きを返してくれた。私が処遇を気にした事に気づいてくれたらしい。有難い。
「えぇ・・・私も含めた処遇が決まり次第、ご連絡致します。また、調査結果についても、逐一ご報告させて頂きます。
リンさんについては、出来れば騎士団で身柄を確保させて頂きたいとお願いしたい所ではありましたが、リンさんにとっては、此方は現在一番信用ならない場でもあるでしょうから。先輩の元が一番安全でしょう。ただ・・・」
「・・・国からの招集は免れんか。」
「はい。イリューンが絡みそうなら、殊更に。」
「リンもカンも、この国の人間ではないんだがなぁ。・・・分かった。何かしら考えておく。」
・・・うん、話が見えない。
まぁ、今の話をまとめて見ると、兎に角、真相はまだ分からないが、私の話を裏付ける必要は出た様子。
調査結果が出たりとか、ファルコ領騎士団内の処遇とか決まったりすれば、連絡はもらえる、と言うこと。
本当に他国・・・師匠達はイリューンとか言う国と断言してるけど・・・が絡めば、モースバーグ国として、何らかのアクションを起こす必要があるみたい。そうなると、私は呼び出しを受ける、のかなぁ?
・・・それは、めんどいなぁ。
「それでは、私たちはこれで失礼させて頂きます。本日はお時間を頂きまして、ありがとうございました。」
何時の間にか立ち上がっていた団長さん達が、帰るアクションを起こした。
慌てて立ち上がり、見送ることにする。
解説は後で師匠にしてもらおう。
「こちらこそ、ありがとうございました。調査の方、宜しくお願いします。」
「分かりました。それでは、失礼します。」
再度礼をし、去っていく団長さん達の背中を見送ると、私は大きく息を吐いた。
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