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新たな関係
160.共同戦線(カン視点)
しおりを挟む「・・・忘れないで居てほしいと思わなかった、なんて言わない。むしろ、離れた事を気に病んでくれてるなら、嬉しいとも思った。思ったけどさぁ・・・それは無いだろ。」
彼は、大きな溜息をついて、頭をガリガリと乱暴に掻く。
その様子を見ながら、師匠が口を開いた。
「・・・リンは、元からそんな性格か?」
「あー・・・そうですね。頼まれたら嫌と言えない。自分の事は後回し。一生懸命で、不器用で、いつも他人の事ばかり考えて。甘えたいはずなのに、甘え下手で。助けられる事に慣れてなくて。1人で生きていく事を選択するような、そんな、感じでした。
・・・5年かかって、漸くデレてくれるようになったのに、なぁ。」
「おぃ・・・現状、振り出しに戻るよりも、面倒くさく悪化してんじゃねぇか。」
呆れたように、師匠が言い放つ。
「ですねぇ・・・拗らせたら厄介なのは分かってたけど・・・僕が死んだ所為なん?どーっすっかなー。」
彼の溜息は止まらない。
「とりあえず、お前の正体は明かすんだろ?」
「はい・・・まぁ、勢いであんな事しでかしてしまいましたからねぇ。でも・・・あぁ・・・絶対、警戒される。」
「警戒、ですか?」
「うん。だってこの顔、鈴の好みじゃ無いんだよ?そんなのに突然キスされたんだよ?絶対、カン君か、ファーマスさんの後ろに付いて警戒される。そんでもって、正体明かしたら明かしたで、何故ガチムチに転生しなかったって言われる。カ●オミニ賭けてもいい。」
「・・・コウさん、ネタが古いです。それ。」
「言っとくけど、僕、見かけ22歳だけど、中身38歳だから。31で死んで、コッチで記憶取り戻してから7年経ってるしね。いい加減、オッサンだよ?実の所、ファーマスさんと、さして変わらんよ?」
「うわー、見た目詐欺がここにも居たのなー。どーりで、考えが老けていやがる訳だ。若い癖に話しが合うのも不思議だったからなぁ。」
そう言い合い、コウさんと師匠は顔を見合わせ、ケタケタと笑いだした。
「・・・ま、それは置いといて。僕が正体明かしても、鈴の警戒が解けるのは、ちょっと先になると思います。人見知り発動するだろうから。その間は、カン君にクッション役をお願いしようかなと。」
「・・・それは必要なんですか?コウさんは旦那さんで、イケメンなのに。」
ホント、アイドルばりのイケメンなのに。
イケメン滅べ、って思う位に。
「あのね・・・言ったしょ?この顔は鈴の好みじゃ無いって。キラキラ系男子はお呼びでないの。彼女は、ガチムチで強面なオッサンを好むんだよ。丁度あそこにいるような。」
コウさんが指差す先には師匠。
指差されて、少しビックリした顔をしているのが珍しい。
「しかも、狡いぐらいの腰にクる低音イケボ持ちな?好みのど真ん中直球で、酷いコトこの上ないよ?実の所、僕ら3人の中で一番有利なの、あの人だからね?」
「・・・マジっスか?いや、師匠の事、好きそうなんだろなとは思ってましたけど・・・。え、それって、俺一番脈無くないです?」
「どぉだろなぁ~?まぁ、ガタイは良いからね、将来性を買う、かな?」
「・・・言い方、すげーテキトーっスね。」
ケタケタ笑い続けながら、話すコウさんを見てたら、俺も思わず吹き出してしまった。
「あーぁ、久しぶりに笑った。で、話戻すけど・・・きっと、このままだと、鈴は誰も選ばないし、選べない。」
す、と表情を戻したコウさんが、真面目に話す。
「《迷い人》として、この世界に来たのは事実。いつか、向こうの世界に戻るのか。こっちに居る事になるのか。それも考えなきゃならない。」
「コウさんが居るなら、それは・・・」
思わず口を突いて出た言葉を、唇を噛んで飲み込む。
結婚していたこと、知らなかった。
旦那さんが、死んでると知った。
そんな中で、惹かれてしまった気持ちを、俺は諦められるだろうか。
師匠にまで啖呵を切ったのに。
「・・・諦めるとか、考えなくて良いよ。」
言い澱む俺の様子を察してか、コウさんが、静かに口を開いた。
「この世界に来て、同郷の人として、2人で支え合ってきたんでしょ?・・・向こうじゃ、僕は死人だったんだ。その所為で、メンドクサイ性格に磨きがかかってしまった鈴のこと、カン君が支えていてくれたんだから。そこは、諦める必要、ないよ。」
思っても見なかった言葉を彼から告げられ、ビックリすると同時に。
思わず頭が振らさった。
「だって・・・だって、コウさんが居るなら、解決じゃないですか。」
震える声でそう言いながらも、リンさんを抱える腕に力が入ってしまう。
やっぱり、離したくないんだ、俺は。
「いや・・・前に《迷い人》の『心残り』の話をしたよね。」
「『心残り』が解決すると、元の世界に戻るって・・・話ですか?」
「ん。結局の所、鈴の『心残り』が解決しない事には、どうにもならないと思う。そして、それは鈴自身が折り合いをつけないとならない。それはきっと・・・僕だけの関わりでは解決できないんだ。死んだ僕が転生してたからって、鈴は・・・納得しないだろうから。」
コウさんは、何処か諦めたように、ふぅ、とため息を吐く。
こんなに、リンさんのこと熟知しているのが、何か、悔しい。
「だからさ、気を遣わせず、コッチは普段通りにするのが一番だと思う。勝手に落ち込んだりしてるけど、下手に励ますのは悪手。やりたい事させて、さり気にバックアップしてあげて欲しい。」
「リンは、甘え下手だからなぁ。ホントに。」
「・・・分かりました。難しそうですけど、俺が出来る事、全力でやります。」
俺は、すぅすぅ、と、眠り続けるリンさんを覗き込む。
穏やかに眠るこの姿を守りたい、と改めて思った。
「ま、お前らが精々頑張れ。ダメだったら俺が出てきゃ良いだろ。最後まで1人で居るつもりなら、俺のトコに来いって言ってあるから、大丈夫だ。」
「うわ!何の王者の余裕かっ!」
「くっそっ!改めて言われると、イラっとしますねー」
何だかわからないけど、眠るリンさんを囲んで、男3人で馬鹿笑いして。
腹を割って話した所為か、俺達3人には奇妙な連帯感が生まれて。
コウさんは、この世界で、この姿で、夫という立場を使うのは微妙だから、1からの勢いでスタートするよ、と、師匠と俺にライバル宣言した。
リンさん相手には、抜け駆けしようもないと、共通理解し。
兎に角、彼女の頑なさを解す為に、共同戦線を張る事となった。
先ずは、コウさんの正体を明かして、リンさんの反応を確認する事にして。
その反応で、パーティーの事とか、旅の事とか、今後についてを考えていく事にした。
あと一つ。
俺にはどうしても、『死んだ、リンさんの旦那さん』に、聞きたかったことがあった。
俺は、口を開く。
「・・・コウさん、あの。」
「ん?何だい?」
「・・・あのですね?・・・リンさんの所為で死んだ。なんて、思った事、ありましたか?」
コウさんは、目を見開いた後、ふ、と微笑んだ。
俺の言わんとした事を、汲んでくれたのだろう。
「・・・思うワケないべさ。一緒に居てくれた事に感謝こそすれ、鈴の所為だなんて思うワケない。・・・僕はあの頃、側にいられて、ホントに幸せだったんだから。」
そう言って笑うコウさんは、偽りなく本当に幸せそうな、綺麗な笑顔だった。
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