転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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新たな関係

158.真相(カン+コウ視点)

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「な・・・っ?」


何を言われたのか、理解が追いつかない。
リンさんの旦那さんは、5年前に死んだのだと聞いていた。

そして、目の前にいる人は、どう見ても、こちらの世界の人だ。


「・・・そちらの言葉で、有り体に言えば、僕の立場は『転生者』だろうね。」


彼は、自嘲するように呟く。


「転生・・・っスか。」


「そう。神様にも何にも会ってはいない。ただ、唐突に前世を思い出したんだ。・・・それは、自分が死に行く間際の光景だった。」


そう言って、月を見上げたコウさんは、深く溜息を吐く。


「そう・・・何から話そうか・・・
ずっと、家族にも、ファーマスさんにも言わないで来たことだし。僕の事情を話すとなると、無論君達の事にも繋がるけれど。それは良いかい?」


コウさんは、じ、と俺を見据える。

リンさんは気絶しているから、判断は俺に任されるんだろう。
師匠は部外者なのかもしれないけど、俺やリンさんの事情を知っている。
いてもらった方が良い。

俺は魔力を練り上げる。


「【睡眠束縛スリープバインド】 【完全遮音インスレーション】」


犯人達と、自分達に向けて、魔法を放つ。
師匠とコウさんが、少し驚いたようだった。


「・・・犯人達は拘束し直しましたし、俺達を囲んで遮音しました。
師匠はある程度、俺達の事情を知ってますから、このまま話してもらって構いません。
俺も、コウさんの事情が知りたいです。」


コウさんの顔を見つめ返す。
自分でも分かるぐらいに緊張している。
腕の中に居るリンさんを、無意識のうちにキツく抱きしめていた。

そんな俺を見て、コウさんは困ったように微笑む。
・・・隣の師匠は完全苦笑いだが。


コウさんは、静かに歩み寄ると、俺の隣に座る。
そして、そっと、リンさんの頭を撫でた。


「眉間のシワ、相変わらずスゴイなぁ。」


そう言って、クスクス笑いながら親指で眉間を伸ばす。

その仕草がとても自然で。
否が応でも、この人はリンさんと通じ合っていたのだと、認識させられた。


「ん・・・。」


眉間の皺が消えたリンさんは、俺の腕の中で少し身動ぐと、そのまますぅ、と眠り続ける。

そんな様子を見ながら、師匠が俺の斜め前に、どかり、と腰を下ろす。


「ホントに、何処から話そうかな・・・」


そう言って、ぽつりぽつりと、コウさんは話し始めた。



***



チェスター子爵家三兄弟の末っ子として産まれた自分は、平凡な貴族の三男として生きてきた。

兄達もそれなりに優秀で、家族も穏やか。爵位は長兄が継ぐので何も問題はなく。将来は次兄と同じく、騎士になるのだろうと、漠然と思っていた。

転機は、国立学園騎士科に在籍していた15歳の時。
野外演習の魔獣討伐だった。
アグウルグの群れに襲われ、仲間を庇った際に吹っ飛ばされ、脳震盪を起こしたらしい。

数日間意識が混濁していた。


ーーー 真っ白な部屋に、泣き叫ぶ女性。彼女はずっと、『ごめんなさい!』と。

ーーー 泣いて謝ってなんて欲しくなかった。寧ろ、『ありがとう』と伝えたかったのに。身体が、声が、言うことをきかない。伝えられない、悔しさ、切なさが渦巻く中、事切れた。


そんな夢をぼんやり見ていた。


そして、目覚める際に、佐伯康平としての前世の記憶を、取り戻した。

夢の中の女性は、自分の妻だった最愛の人。もう二度と会えない人。


コウラル=チェスターとして生きてきた自分と。
佐伯康平として生きた記憶と。
どちらも混在する奇妙な感覚。

現在生きるこの世界が、剣と魔法の世界であると認識した自分は、冒険者になる事を決意した。
家の柵もない、折角の転生人生。何処までやれるか試そうと思った。


学園が長期休みに入るとき、何かと理由をつけ、実家に帰らず。
ずっとミッドランドの冒険者ギルドに入り浸った。

ファーマスさんの後をくっついて歩いたのもその頃だ。
A級トップ冒険者の技を盗みたくて、必死だった。

前世の記憶も相まって、学園では座学、実地、家事(野営)+魔法と上手いこと色々できてしまった。

妬んだ上位貴族のボンボン達に嫌がらせも受けたが、何となくやり過ごし。

騎士団からもシツコイ勧誘を受けた。国からも、自領からも。

冒険者になる宣言をした所、多方面からストップがかかった。

学園の書棚で、《迷い人》の記述を見つけたのはその頃だった。
・・・もしかして、こちらから前世の世界に渡れないかと、そう考えて。
言い伝えや文献を調べる為には、やっぱり冒険者になる事が必須だった。

父と母を説得し、冒険者になる了解は得た。
長兄は、好きに生きろと後押ししてくれた。
次兄だけがウザかった。

18歳の卒業時、学校の寮から、まっすぐミッドランドまで逃げた。

レザ先生に匿ってもらったり。
ニースの森の集落に篭ったり。

まさか、次兄がファーマスさんに絡むとは思わなかったけど。

そんな事は、どうでもいいか。


・・・結局、コッチで生きていても、頭の何処かでは、鈴の事を考えていた。

前世でも、女の人と関わるの得意じゃなかったし。
鈴と出会うまで、付き合った事もなかった。
初めて一緒に居たいと思えたのは、鈴だけだったから。

今世は無駄に顔が良い所為で、群がってくる女性陣が多いけど。
鈴とは、余りにもかけ離れていたから、何も感じない。
鈴の面影を追ってしまって、この世界でも誰とも付き合う気が起きなかった。


そんな中、『黒持ち』の話を聞いたとき、凄くざわついた。

レザ先生に、鹿ザンギを食べさせられて、彼女の夫が、がんで死んでると聞いて。

まさかと思った。

カン君から聞く彼女の話は、自分の知る彼女の姿と重なって。確信に変わっていった。


・・・決定打は、あのスープだった。

上級回復ポーション並の回復力に、痛み軽減、食欲増進、安眠効果が満載だったあのスープ。

ーーー 死期が近かったあの頃、我儘言って、鈴に作ってもらったスープの味だったから。

あの頃は、抗がん剤も痛み止めも効かなくなり、眠りも浅い日が続いてたけど。
あのスープを食べた日だけは、痛みも和らいで、よく眠れた。

あの時の効果が、目の前に現れたようだったから。




***



「・・・本当はね、明かす気もなかったんだよ。カン君が、鈴の事、とても大事に思ってくれているのは分かってたから。」


そう言って、コウさんは俺の事を見た。


「でも、鈴の顔みたら・・・我慢出来なかったんだ。」


ーーー ごめん。


コウさんは、リンさんの顔を見て、ポツリ、と呟く。
その姿が痛々しくて。

俺は、何も、言えなくなってしまった。

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