転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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ニースの森防衛戦

155.迷い (+第三者視点)

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森の奥からのそりと現れたのは、赤茶髪の偉丈夫。

振り下ろされた2人の拳は、倒れこむ犯罪者共の頭上寸前で止められた。


「・・・師匠、止めないで貰えますか。」


瓦割りの打ち抜き姿勢のような格好のまま、怒気を滲ませたカンが顔を上げた。
コウラルは、何も言わず、す、と立ち上がる。


「狙ってる場所が悪ぃ。頭狙ってんだから、止めざるを得ないだろーが。」


大きく溜息をつき、ファーマスは続けた。


「どうせ狙うなら、回復しやすい腹とかにしとけよ。頭だと回復しても、後遺症なんか出やすいんだからよ。」

「でもっコイツら、リンさんにっ!!」

「言いたいこたぁわかる。でもな、後遺症の所為で、証言が出なかったらそっちの方が厄介だ。・・・ったく、コウ、お前まで便乗してんじゃねぇ。お前が止める役だろうが。」


頭をガリガリと掻きながら、暴走気味の弟子達に言い放つファーマス。
自分だって、リンが危険に晒されたこと、傷つけられたことは許せない。
だが、今回の案件は私刑で済まされる事ではない。


「・・・すい、ません。」


コウラルは目を伏せたまま、素直に謝る。
カンは納得しきれていないのか、不貞腐れている雰囲気だ。


「カンは兎も角、コウ、お前はどうしたってんだ?・・・まぁ、いい。カン、リンの怪我は?」


ファーマスは、犯罪者共の拘束現場から少し離れた位置で、ぺたり、と座り込んでいるリンを見遣る。


「さっき、【 完全回復パーフェクトヒール 】をかけています。身体的な怪我は回復してると思いますが。魔力と精神疲労は・・・」

「そうか、とりあえず集落に戻るぞ。リンを連れてこい。」

「はい。」


ファーマスの言葉に返事をし、カンはゆっくり立ち上がる。
地面に這い蹲る犯罪者共を冷たく一瞥すると、リンの元へ駆けて行った。

その背中を見ながら、ふぅ、と大きく息を吐いたファーマスは、コウラルの方へ顔を向けた。

コウラルは、俯き気味に目を伏せたまま、微動だにしない。


『何があった?』


カンの様子を見る限り、2人の間に何かがあったとは思えない。

ファーマスは静かに思い返す。


ーーー 思えば、レザリックの治療院で、今回の打ち合わせがてら飯を食った時から、様子が変だった。

シグルドの件でギルドに来た際も、コイツにしては、珍しく冷静さを欠いていたように思える。

そして、山火事を見た時。
カンの叫びの裏に聴こえた、悲愴な呟き。

ーーー『スズ』と。


今も、何かを痛みを堪えるような、そんな様子。


『まぁ、何かあれば、自分から言うか。』


ーーー 子どもじゃないんだしな。


そう結論付けると、ファーマスはコウから、リンを助け起すカンに目線を移した。






少し離れた所で、犯罪騎士キモイ奴 達が拘束されている。
右手を固めたカン君とコウラルさんの行動は、森奥から出てきた師匠が静止してくれた。

とりあえず、ホッとしたら力が抜けてしまった。
ぼんやりと、3人のやりとりを眺めていたら、カン君が1人こちらに向かって来るのが見えた。

彼は側まで来ると、屈み込み、左手を差し出してきた。


「リンさん、だいじょぶ?立てます?」

「あ・・・うん。」


差し出された手を掴むと、ぐい、と勢いよく引き上げられ、抱きとめられる。


「痛い所とか、具合が良くないとこ、ないっスか?」

「うん、大丈夫。・・・ありがとね。」


胸の中がもやもやしていて、彼にどう反応して良いのか、自分でも混乱していた。


助けられた、安堵と。

自分で片をつけられなかった、悔しさ、情け無さと。

そして。

知らぬ間に、強くなっていたカン君への思い・・・
自分があんなに手こずった相手を、いとも簡単に無力化してみせたその手腕。


ーーーーーー 嫉妬だ。これは。


自分の中の仄暗い感情を、彼に読まれたくなくて、思わず俯いてしまう。


「ヴェル、触るよ?」


その声に、はた、と引き戻される。
ふと見ると、地面に転がっていた猟銃相棒を拾い上げるカン君の姿。


「はい、リンさん。」


差し出された彼の手に、大事そうに乗せられた猟銃相棒は、抵抗することもなく、黙っている。


「ありがと・・・」


差し出された猟銃相棒を手に取った瞬間、銃身が光る。


『にゃみゃぁぁぁっ!』


叫ぶような鳴き声と共に、猫形態となったヴェルが、胸に飛び込んで来た。


『ゔみゃぁぃみゃぁぁんっ!!』


喉が鳴るのと、よくわからない鳴き声が混ざり、凄い声になる。

しんぱいしたの、
むちゃしないでよ、
こわかったよ、
だいじょぶなの?

そんな感情が一気に流れ込んで来た。


「うん・・・ゴメンね、ヴェル。君にも無茶させたね。」

『うみゃぁぁぅ』

『チチッ』

「って!」


甘えてくるヴェルを、複雑な気持ちのまま撫でていると、急に小鳥の声が聞こえた。
同時にカン君が痛みを訴える。

顔を上げると、カン君の頭の上に小鳥が乗っかっていた。


「・・・え?」

『ピッ』


固まる私とヴェルに向かって、カン君の頭の上から見下ろす小鳥は、『よっ!』とでも言うかのように、右翼を広げてみせた。


「あー、コイツ、ヴェルと同じく魔道具っス。」

「へ?」

「俺のカメラが魔道具化して、鳥形態になりました。名前は『アル』です。・・・ヴェル、ヨロシクな。」


カン君がそう言うと、『アル』と呼ばれた小鳥は羽ばたき、私の肩に乗った。


『チチッ!』
『みゃ?』
『チッ』
『にゃぁぅ』
『ピッピピ』
『うにゃぁ』


・・・うん、よく分かんないけど、何か通じて仲良くなってるから、まぁいっか。

小動物同士が戯れてる姿に、少しほっこりする。


「とりあえず、師匠が集落に戻るって言ってるんで、行きましょ?俺の【 回復ヒール 】では、傷と体力の回復しかできないっスから。まずはゆっくり休みましょう?」

「あ・・・山火事は?」

「ほぼ鎮火してるハズです。リンさんとイズマさんで、炎を分断してくれましたから、延焼の広がりは食い止められてますよ。まだ残ってたら、俺がやりますから。」

「うん・・・お願い・・・」


ポツリ、と呟いて俯く。
そんな私の顔を、カン君は覗き込んでくる。


「ねぇ、リンさん。しんどいんじゃ?おんぶするっスよ?」

「ううん。だいじょぶ。行こ。」


ふるふる、と頭を振り、迷いを振り切るように一歩踏み出した。


「はい。」


その後ろを、何処か、嬉しそうな様子でカン君が付いてきた。
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