転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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ニースの森防衛戦

152.種明かし

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「遅かったな、コルト。」

「おや、あれだけの大口を叩いていたんですから、既に捕まえていたのかと思っていたのですがねぇ?」

「うっせ。・・・まぁ、お前が来たんなら、コトは進めやすくなるんだろ?」


くすくすと笑いながら、犯罪騎士ダグ=ネルキオを見遣る、統括者コルト=ラギル

犯罪騎士ダグは、悪態をつきながらも、何処かホッとした様子で立ち上がり、素早く水薬ポーションを飲み干した。


「さて、と。形成逆転だな、『戦乙女ヴァルキリー』さんよ。」


犯罪騎士ダグは急に強気になり、下衆い笑みを浮かべてくる。
そんな様子を見て、統括者コルトは溜息をついた。


「全く貴方は。淑女レディーへのお誘いではないでしょうに。 
・・・さて、“『戦乙女ヴァルキリー』、リン様。貴女様の居るべき所は此処ではありません。貴方様が奉られる場所へ、私達と、ご一緒していただきます。”」


統括者コルトの作り笑顔から放たれる、私に向ける声だけが二重音声。
1人で喋っているのに、エコーがかかっているような、左右から入ってくる声が違うような気持ち悪さ。

きっと、精神干渉用の何かなんだろう。

あの腕輪は、シグルドしか認証されていなかった。
なのに、コイツが動かせるのはおかしい話。その裏ワザがこの声なんだろう。



「・・・居るべき、所?」

「“ええ。貴女様が、本来居るべき場所で御座います。それは、こんな国ではない。”」

「・・・くに?」

「“えぇ。そこが、貴女様、黒髪の『戦乙女ヴァルキリー』が、本来居られるべき所です。”」


へぇ?
国、とキたもんだ。
その言い方は、このモースバーグ国、という事になるよね?

この世界の地理とか、外交状況とか、あんま勉強してないから、わっかんないけど。
コイツらの背後に居るのは、どうやらこの界隈の別な国。

何かの宗教的な信仰でもあるのだろうか。
私の容姿が、神話的なモノにでも引っかかったんだべか。

統括者コルトが妙に拘る『戦乙女ヴァルキリー』と黒髪。
私を連れて行けば、コイツらには何か旨味があるんだろう。
・・・こちとら、『戦乙女ヴァルキリー』なんてガラじゃねぇ、Age.35なんだがなぁ。


何にせよ。

・・・クッソ面倒くせぇ話だなぁ、おい。


「・・・どこの国に、行くと?」

「“それは、着いてからのお楽しみ、という事で。もう時間もありません。貴女様を狙う下賎な輩が迫っております。さぁ、参りましょう。”」


作り笑い微笑みを浮かべ、手を差し出しながら近寄ってくる統括者コルト。その後ろを、ニヤニヤしながら犯罪騎士ダグが付いてくる。


私は、ふぅ、と一つ息を吐いて。
猟銃相棒に魔力を込める。


「ーーー っ!」


ダン!ダン!ダン!!


猟銃相棒の引き鉄を引き、 ショットガンのイメージで、近寄って来た統括者コルトの足元を穿つ。

  
「っ!?」

「なにっ!?」


奴等と私の間の地面には、3発分の穴が空いた。


「・・・アンタらさぁ、この領の騎士のクセに、別な国と繋がってるっつーこと公言して良いワケ?
しっかも堂々と民間人の誘拐宣言までしくさってからに。ついでに国外逃亡企んでると?ったらありゃしない。
オマケに、この領の財産であるニースの森を燃やしやがって。これさ、どんなけの損害になんだべかな?
・・・おめでとう、言い逃れできねぇ犯罪者に昇格じゃね?」


奴等に銃口を向けたまま、私は思ったことを口にする。
そして、握りしめた猟銃相棒に再度魔力を込める。銃弾の属性はまだ半分以上は残っているから、問題ない。


「おいっ、コルト!話が違うぞ!?思考統制されてるんじゃなかったのかよ!」

「な、何故?何故効いていないっ!」


明らかに焦り出す犯罪騎士馬鹿共。
私は、す、と左腕を上げる。
私の前腕にあるのは、イサカ爺に整備してもらった小手。あの時の腕輪に似ているが、全く違うモノ。


「ざーんねんでした。あの腕輪なら、とっくの昔に解除済み、ってか、魔力全開でぶっ壊したけど?」

「「何?!」」


ずざ、と、奴等は即座に私から距離を置き、身構えた。


「どうすんだよっ」

「どうするも何も、物理的に捉えるしか無いでしょう。・・・幸い、はまだ有りますから。」

「成る程・・・何にせよ捉えることには変わりねぇな。」


そう言って、奴等は直列のフォーメーションを取る。
統括者コルトが後衛、犯罪騎士ダグが前衛だ。


「何にせよ、如何なる理由があろうとも、我々と共に来ていただきますよ、『戦乙女ヴァルキリー』!!」


統括者コルトのその声を合図に、犯罪騎士ダグが飛びかかって来た。



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