転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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ニースの森防衛戦

144.拠点攻防(騎士視点)

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「おぃおぃ、マジかよ・・・」


突如燃え上がった火柱が、木々を赤く染め、一気に燃え広がる様子を見ながら、ラーンは呟いた。
あの火柱は、グリオの【爆炎エクスフレイム】だろう。


「あの、馬鹿・・・何しやがる。」


山で火を使うなんて、アホの極みだろう。
敵側に、仲間がとられてるかもしれないってのに、何を考えてる?


「それに、ファルコ領を潰す気か!?」


しかもここは、ニースの森。
ファルコ領の資金源でもある、各種水薬ポーションの原料の多くがここで取れている。

ラーンは、身を乗り出して怒りを滲ませる。
ざっとあたりを見回し、拠点防衛の為に残る騎士達から、水属性の者を選ぼうとした。

すると、背後からコルトに呼び止められる。


「・・・ラーン、何をしているのです?」

「何を、だと!?馬鹿野郎!アレはグリオの暴走だろっ!直ぐに鎮火しねぇと被害が甚大だ・・・」

「必要ありません。」

「あぁ?!」


コルトが被せて答えた言葉の意味が分からず、ラーンは眉を潜めた。


「お前っ!ニースの森を灰にする気かっ!」

「大丈夫ですよ。『の方』が、やってくれるでしょう。」

「何を言ってる?!」


じぃ、と、燃え盛る炎の森を見つめるコルトの横顔が、うっすらと笑みを浮かべた。
あまりに尋常じゃない様子に、ラーンは気持ち悪さを感じる。


「お前、何を考えてる?」

「見ていれば分かりますよ。」

「ふっ・・・っ?!」


ラーンが、巫山戯るな!と一喝しようとしたその時。

山から膨大な魔力の流れを感じた。

思わず顔を上げると、炎の森の一角に
巨大な氷の壁がそびえ立っている。

その氷の壁は異様な存在感を放ち、燃え盛る炎の中でも、溶ける様子がない。


「なんだ・・・ありゃぁ。」

「くっ・・・あははははははっ!」


訝しげに氷壁を見上げるラーンの横で、いきなりコルトが笑い声を上げた。
狂ったように、愉しげな笑い声を上げるコルト。緊迫したこの状況に似つかわしくない彼の様子に、ラーンは苛立ちを隠せない。


「何が、可笑しい!?」

「素晴らしい。素晴らしいですよ。アレ程の膨大な魔力量。炎に包まれても溶けない氷壁を作り上げる想像力。流石ですねぇ!」


コルトは、愉悦に浸るように、満面の笑みを浮かべて叫ぶ。
何処か道化を演じるように、芝居がかったような様子が、ラーンには奇妙に映った。


「・・・あそこに、誰か居るのか?」

「決まっているではないですか。『戦乙女ヴァルキリー』ですよ。」


恍惚な笑みを浮かべながら、コルトはラーンを見遣る。
その様子に、はた、とラーンは気がついた。


「まさか、山火事を引き起こさせたのはっ!」

「えぇ、流石ダグですねぇ。効率的にあの方を誘い出す方法を取ったのでしょう。そして、あの方は現れて下さった。」


くつくつと、笑いが止まらないままのコルトを見て、ラーンは心臓が冷えていく様に感じた。


ーーー コイツも、ダグも、狂ってやがる・・・!


精神干渉を受けた騎士達も、山火事も、コイツらにとっては、捨て駒、手段でしかない。

たかが1人の女性を手に入れる為だけに、こんな非人道的な方法を取るなんて。


「コルトっ貴様っ!」

「煩いですよ、ラーン。・・・あぁ、貴方に仕事です。」

「何を?!」


コルトは、す、と目を細め、集落の入り口を指差す。


「興が醒める輩が来る様なので、相手をお願いしますよ。私は『の方』を迎えに行きますのでね。

ーーー 総員っ!集落入り口から現れる敵を打て!生死は問わない!『戦乙女ヴァルキリー』に群がる者達蠅供を駆逐せよ!」


拡声器マイク』という魔道具を通して、コルトが騎士達に指示を出す。
魔道具にはシグルド元副隊長の魔力が込められているため、より、命令強化を行った、ということになる。


「では、ラーン。後は頼みましたよ。」


コルトはそう言って、満面の笑みを浮かべる。


「コルトっ!待て!!」


ラーンの制止も聞かず、コルトはまるで、これからデートにでも行くかのような軽快な足取りで、燃え盛る森の中へと入って行った。


「くそっ!」


ドドドド、と、背後から地響きの様な音が近づいてくる。
索敵上、ここに来るのは6人。


「ふざけろっっ!!」


コルトが居なくなった今、臨戦態勢にある騎士達操り人形は止められない。


戦乙女ヴァルキリー』が属するのは、『グレイハウンド猟犬

かつて『無限指揮者インフィニティコンダクター』と呼ばれた『英雄』ファーマスの率いるパーティー。

『英雄』直々に、ここに来るのであろう。


せめてもの、仲間達を死なせない様に。殺されない様に。

精一杯の対峙を。


ラーンは覚悟を決めて、集落の入り口を見遣った。


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