転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
143 / 393
ニースの森防衛戦

140.混迷(騎士視点)

しおりを挟む


先行部隊が戻らない状態にコルトは内心焦っていたが、グリオの怯えを見、冷静さを取り戻していた。

3人1班を編成し直し、6人1班にまとめる。


「グリオ、ダグ。出番です。3班を率いて探索を。」

「えぇっ!ホントに出るのか!?」

「・・・今更何を言っているのです?」

「だって、戦力も何も分からない状態だよ?」


グリオの弱気ヘタレな発言に、コルトは眉を顰める。


「それを見極めるための出動ですよ?」

「そうだぜ?グリオ。今更逃げられる訳ねーだろ。戦乙女ヴァルキリーを捕まえることが、俺たちの仕事だ。」

「・・・わかったよぉっ!行けばいいんだろっ。」


逃げ腰のグリオを、背後から首をロックするように抱えるダグ。
ヤケ糞だとでも言うように、グリオは叫んだ。


「・・・おい、コルト。状況では、コイツの力使うぞ?」

「捕縛方法は、貴方に一任しますよ。」

「へぇ。それはそれは・・・任せてもらえてどーも。グリオ、行くぞ。」

「わぁっダグっ、ちょっまっっ!」


ダグに引き摺られるように、グリオは森へと連れて行かれた。
その後を、物言わぬ18人がついて行った。



***



森を進行するダグ達は、霧深い中を慎重に進行していた。

3班別行動をとる予定だったが、グリオの訴えで、なるべく互いが見える位置で行軍する事とした。

途中4名程が、雷魔法と思われる罠にかかり、無力化されてしまった。
抱えていくことも出来ず、その場に置き去り、先へと進む。


ふ、とグリオの背筋に悪寒が走る。
霧は深いが、気温がそこまで下がった訳ではないはず。
どちらかといえば、この悪寒は自分の身に降りかかる何かへの予感だ。


「・・・なぁ、ダグ。一旦さっき置き去りにした奴の所に戻りたいんだが。」

「あ?何言ってんだ。」

「何か寒気・・・嫌な予感がする。」

「・・・ったく、しゃーねぇなー。」


渋々、といった様子で、ダグは戻る事を許可する。
進んだ道から50メートル程下った所に引き返す。


「・・・あれ?」


しかし、木の陰にもたれ掛けさせておいた騎士は、そこに居なかった。


「ん?道を間違えたか?」

「いや、ココで正しいよ。この木の幹に、僕が目印につけた傷がある。」


そう言って、グリオは騎士の近くにつけていた幹の傷に手をやった。


「でも・・・一体何処に?鎧で武装した大人の男1人を持っていけるなんて、相当デカイ獣のハズ。何かが通った後、といった痕跡が全くない・・・足跡すら無いなんて、何なんだよ一体っ!」

「つまりは、オレらの周囲には何かが居るってことだ。・・・成る程な。」


怯えるグリオの横で、ダグはニヤリと笑った。

その瞬間。


「「ぐぁっ」」


突然の短い悲鳴の後、殿に居た騎士2人が、どさりと音を立てて崩れ落ちた。


「何っ!?」

「誰だっ!出てこいっ!」


倒れた騎士の周囲で、直ぐに警戒を行う。


パンッ!パンッッ!



少しの間の後、破裂音が鳴り響く。
間髪を入れず、警戒するダグとグリオ、騎士達の足元で何かが弾けた。


「うわっっ!?」

「くっ、急に体が重いっ?魔法か?!」


目の前の茂みが、ガサッと音を立てた。


「動ける連中は、今の茂みへ!」


難を逃れた4人程の騎士達が、指示された茂みの向こうへ走って行った。


「くそっ何なんだ?」

「わぁ!!」


何が起きたか把握できっておらず、悪態を吐くダグに被さるように、グリオが悲鳴をあげた。


「何だ?」

「倒れた奴らが居ないっ!」

「何?」


グリオの声に視線を向けると、倒れて居たはずの騎士2人の姿が忽然と消えている。
茂みの揺れに、全員の意識が持っていかれていたらしい。倒れた騎士達の行方を知る者は誰も居ない。

漸く放たれた重力魔法の効力が切れ、辺りを探索するものの、倒れた騎士達は勿論、茂みの向こうへ行った騎士達も見つけられない。

行軍していた20人のうち、罠で無力化された4人が消え。
突然仕掛けられたかと思ったら、目の前から6人の姿が無くなった。
少しの間に、戦力を半分ごっそり削られた事になる。


「舐めやがって・・・」


ダグは、ぎり、と奥歯を強く噛み締めた。
この森に居るのは、忌々しいあの2人。

ーーー また、ヤられてたまるか。


「おぃっ!グリオ!」

「ひっ、な、何?」


ダグの怒りの剣幕に、思わずグリオは顔をひきつらせる。


「ヤれ!」

「な、何を・・・って、まさかっ!?」

「あぁ、お前の得意技をあそこに撃て!」


ダグは、4人の騎士が消えた茂みを指差す。


「だ、ダメだよ!それは出来ない!」

「煩えっ!さっさとヤれっつってんだ!ここまでしてヤられて、黙ってられっかっ!」


ダグはグリオの胸ぐらを掴んで、威圧をかける。


「今更逃げようなんて、出来るわけねぇよな?お前だって、選んだんだろうがよ!その為に戦乙女ヴァルキリーを連れて行く必要があんだからな。さっさとヤれ!」

「わっ・・・分かったよ!」


ダグの拘束から離されたグリオは、軽く咳払いをして呼吸を整えると、魔力を練り上げる。


「もう、知らないよっ!・・・【爆炎エクスフレイム】!!」


グリオの手から放たれた火球は、一気に茂みを、木々を、真っ赤に染めた。



**************

※ 余りに誤字が酷く、一旦引き上げて修正しました。
※ ご指摘頂いた皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...