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ニースの森防衛戦
140.混迷(騎士視点)
しおりを挟む先行部隊が戻らない状態にコルトは内心焦っていたが、グリオの怯えを見、冷静さを取り戻していた。
3人1班を編成し直し、6人1班にまとめる。
「グリオ、ダグ。出番です。3班を率いて探索を。」
「えぇっ!ホントに出るのか!?」
「・・・今更何を言っているのです?」
「だって、戦力も何も分からない状態だよ?」
グリオの弱気な発言に、コルトは眉を顰める。
「それを見極めるための出動ですよ?」
「そうだぜ?グリオ。今更逃げられる訳ねーだろ。戦乙女を捕まえることが、俺たちの仕事だ。」
「・・・わかったよぉっ!行けばいいんだろっ。」
逃げ腰のグリオを、背後から首をロックするように抱えるダグ。
ヤケ糞だとでも言うように、グリオは叫んだ。
「・・・おい、コルト。状況では、コイツの力使うぞ?」
「捕縛方法は、貴方に一任しますよ。」
「へぇ。それはそれは・・・任せてもらえてどーも。グリオ、行くぞ。」
「わぁっダグっ、ちょっまっっ!」
ダグに引き摺られるように、グリオは森へと連れて行かれた。
その後を、物言わぬ18人がついて行った。
***
森を進行するダグ達は、霧深い中を慎重に進行していた。
3班別行動をとる予定だったが、グリオの訴えで、なるべく互いが見える位置で行軍する事とした。
途中4名程が、雷魔法と思われる罠にかかり、無力化されてしまった。
抱えていくことも出来ず、その場に置き去り、先へと進む。
ふ、とグリオの背筋に悪寒が走る。
霧は深いが、気温がそこまで下がった訳ではないはず。
どちらかといえば、この悪寒は自分の身に降りかかる何かへの予感だ。
「・・・なぁ、ダグ。一旦さっき置き去りにした奴の所に戻りたいんだが。」
「あ?何言ってんだ。」
「何か寒気・・・嫌な予感がする。」
「・・・ったく、しゃーねぇなー。」
渋々、といった様子で、ダグは戻る事を許可する。
進んだ道から50メートル程下った所に引き返す。
「・・・あれ?」
しかし、木の陰にもたれ掛けさせておいた騎士は、そこに居なかった。
「ん?道を間違えたか?」
「いや、ココで正しいよ。この木の幹に、僕が目印につけた傷がある。」
そう言って、グリオは騎士の近くにつけていた幹の傷に手をやった。
「でも・・・一体何処に?鎧で武装した大人の男1人を持っていけるなんて、相当デカイ獣のハズ。何かが通った後、といった痕跡が全くない・・・足跡すら無いなんて、何なんだよ一体っ!」
「つまりは、オレらの周囲には何かが居るってことだ。・・・成る程な。」
怯えるグリオの横で、ダグはニヤリと笑った。
その瞬間。
「「ぐぁっ」」
突然の短い悲鳴の後、殿に居た騎士2人が、どさりと音を立てて崩れ落ちた。
「何っ!?」
「誰だっ!出てこいっ!」
倒れた騎士の周囲で、直ぐに警戒を行う。
パンッ!パンッッ!
少しの間の後、破裂音が鳴り響く。
間髪を入れず、警戒するダグとグリオ、騎士達の足元で何かが弾けた。
「うわっっ!?」
「くっ、急に体が重いっ?魔法か?!」
目の前の茂みが、ガサッと音を立てた。
「動ける連中は、今の茂みへ!」
難を逃れた4人程の騎士達が、指示された茂みの向こうへ走って行った。
「くそっ何なんだ?」
「わぁ!!」
何が起きたか把握できっておらず、悪態を吐くダグに被さるように、グリオが悲鳴をあげた。
「何だ?」
「倒れた奴らが居ないっ!」
「何?」
グリオの声に視線を向けると、倒れて居たはずの騎士2人の姿が忽然と消えている。
茂みの揺れに、全員の意識が持っていかれていたらしい。倒れた騎士達の行方を知る者は誰も居ない。
漸く放たれた重力魔法の効力が切れ、辺りを探索するものの、倒れた騎士達は勿論、茂みの向こうへ行った騎士達も見つけられない。
行軍していた20人のうち、罠で無力化された4人が消え。
突然仕掛けられたかと思ったら、目の前から6人の姿が無くなった。
少しの間に、戦力を半分ごっそり削られた事になる。
「舐めやがって・・・」
ダグは、ぎり、と奥歯を強く噛み締めた。
この森に居るのは、忌々しいあの2人。
ーーー また、ヤられてたまるか。
「おぃっ!グリオ!」
「ひっ、な、何?」
ダグの怒りの剣幕に、思わずグリオは顔をひきつらせる。
「ヤれ!」
「な、何を・・・って、まさかっ!?」
「あぁ、お前の得意技をあそこに撃て!」
ダグは、4人の騎士が消えた茂みを指差す。
「だ、ダメだよ!それは出来ない!」
「煩えっ!さっさとヤれっつってんだ!ここまでしてヤられて、黙ってられっかっ!」
ダグはグリオの胸ぐらを掴んで、威圧をかける。
「今更逃げようなんて、出来るわけねぇよな?お前だって、選んだんだろうがよ!その為に戦乙女を連れて行く必要があんだからな。さっさとヤれ!」
「わっ・・・分かったよ!」
ダグの拘束から離されたグリオは、軽く咳払いをして呼吸を整えると、魔力を練り上げる。
「もう、知らないよっ!・・・【爆炎】!!」
グリオの手から放たれた火球は、一気に茂みを、木々を、真っ赤に染めた。
**************
※ 余りに誤字が酷く、一旦引き上げて修正しました。
※ ご指摘頂いた皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
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