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ニースの森防衛戦
136.戦乙女捕縛作戦(騎士視点)
しおりを挟む昼3の刻を過ぎた頃、ニースの森の集落に、物々しい一行が向かっていた。
精神干渉を受けている騎士48名。
其れを統制するのは、コルト=ラギル
そして補佐する3名の騎士、ダグ=ネルキオ、ラーン=リグルパルド、グリオ=シェルパ。
彼ら4人は、第4部隊副隊長であったシグルドの子飼い達。
シグルドの思考統制の術を受けているわけではない。
彼の思考に共感した、言わば共犯者達である。
シグルドの術式では、48名に対し、本日の昼2の刻より1刻を過ぎてから森に向かう、との暗示がかけられていたが、コルトの一存で、行軍が進められていた。
ミッドランドの街から、ニースの森まで、馬車で4時間。
しかし、ミッドランドは戦乙女が属する冒険者ギルドのホームである。
何か不穏な動きがあれば、即座にギルドへ連絡がいくであろう。
そのため、彼らが謹慎を受けていた騎士団本部のあるファルコ領の領都ファルクスから、闇に紛れ、ミッドランドを通らずに直接ニースの森へ進んでいた。
本日の会談に、戦乙女は姿を出さず、森に囲われている事を彼らは想定していた。
だからこそシグルドは術式を組んだのだが、コルトは居ないと分かったら直ぐに集落へ踏み込む事を選んだ。
戦乙女がギルドにいると判断された場合、シグルドから連絡が入ることになっていた。
一方通行でしか使えない魔道具。魔力を流せば対となる石が破壊される、ただそれだけのもの。
石が壊れれば、行軍を止める。
シグルドの魔力が入った魔道具、拡声器を用い、【中止】と唱えるだけで“森へ向かう”という命令は止められる。
しかし、その石は未だコルトの手の中にある。
即ち、戦乙女は森に居る。
戦乙女を森から連れ出すための戦力である行軍の騎士達は、馬車に揺られながら、次第に表情が抜け落ちていき、使える手駒へと変貌を遂げる。
そして3の刻を過ぎた今、集落前に到着した。
ダグは馬を降りると大きく伸びをする。
「漸く着いたなー」
「あぁ。しかし、集落内が静かだ。何か有ると思った方が良いだろう。コルト、どうするんだ。」
同じく馬を降りたラーンは、即座に集落内に索敵を向ける。
人の気配がない事を察知し、コルトへと確認する。
「先ずは、集落内の住居を探索。確保対象がいない事を確認した後、森へ探索に入ります。一応地図は確保していますが、索敵が効かないため、慎重にならざるを得ないでしょう。」
「わかったよ。そいじゃ、君たち集落内を見てきて。人がいれば確保して連れてくること。」
コルトの指示を受け、グリオは騎士達に指示を出していく。
騎士達は即座に行動を開始した。
「しかし・・・エラく戦乙女にご執心だなぁ、コルトもシグルドさんも。」
ラーンがため息混じりに呟く。
側にいたダグは、思い出すようにそれに応えていく。
「シグルドさんは、『ケルベロス』の捕縛に同席していた。
俺はあの時戦っている姿をちゃんと見れてねーから、いまいち分からねぇけど。未知の武器を振るい、剣術と体術が合わさった動きをしていたとさ。魔力もダダ漏れる程の多さらしい。
見ていた他の騎士達も大騒ぎしていたからなぁ。
そんなんだからシグルドさんについては、未知の武器の使用者を囲う事が一番の目的だろうさ。」
「ふむ・・・」
記録映像で見ただけだが、あの武器は脅威になる物であり、量産できれば軍力増強になるのだろう。
納得して、ラーンは頷く。
「コルトについては、夜道でレグルパードに襲われた所を助けられたらしい。その後に、騎士団に来てもらうことの話をしたそうだが、断られたと。
それにより『例の』腕輪を嵌めたらしいが、“魔力を使わずに”未知の魔道具を動かした、と。
それで自分の命を狙われたってのに、コルトの奴は取り憑かれたように戦乙女にご執心さ。」
グリオと共に、騎士達に指示を出して体制を整えていくコルトの背を見ながら、ダグは答えていく。
「魔道具なのに“魔力を使わない”?」
「あぁ、そうらしい。」
「益々不可解だな、その武器は。非戦闘員まで、戦わせる事が可能になる。」
「そうだなぁ。」
ラーンの見解に、そこら辺は興味は無いと言わんばかりにダグは適当に返す。
「ところで、お前は?」
「俺か?俺は・・・舐めた真似してくれた事に、お礼がしたいだけさ。」
ダグはそう言って、ニタリ、と笑う。
「北門に至るまでに、色々あったもんでなぁ。イズマと『黒持ち』には。このままだと、俺の気が済まねぇだけだ。」
「・・・まぁ、やり過ぎるなよ。」
「どーだかな。」
ラーンの忠告を、ダグは鼻で笑い流した。
「ダグ、ラーン!森に入る編成を組みますよ!」
「お、リーダーがお呼びだ。やはり、集落内に誰も居ないようだな。」
「へいへいっと。・・・俺は、好きにヤらせて貰いたいけどな。」
ラーンとダグは、打ち合わせるために、集落の中央に向かう。
誰もが今回の捕縛の成功を信じて疑わない。そんな空気だった。
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