転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
139 / 393
ニースの森防衛戦

136.戦乙女捕縛作戦(騎士視点)

しおりを挟む

昼3の刻を過ぎた頃、ニースの森の集落に、物々しい一行が向かっていた。

精神干渉を受けている騎士48名。
其れを統制するのは、コルト=ラギル
そして補佐する3名の騎士、ダグ=ネルキオ、ラーン=リグルパルド、グリオ=シェルパ。

彼ら4人は、第4部隊副隊長であったシグルドの子飼い達。

シグルドの思考統制の術を受けているわけではない。
彼の思考に共感した、言わば共犯者達である。

シグルドの術式では、48名に対し、本日の昼2の刻より1刻を過ぎてから森に向かう、との暗示がかけられていたが、コルトの一存で、行軍が進められていた。

ミッドランドの街から、ニースの森まで、馬車で4時間。

しかし、ミッドランドは戦乙女ヴァルキリーが属する冒険者ギルドのホームである。
何か不穏な動きがあれば、即座にギルドへ連絡がいくであろう。
そのため、彼らが謹慎を受けていた騎士団本部のあるファルコ領の領都ファルクスから、闇に紛れ、ミッドランドを通らずに直接ニースの森へ進んでいた。

本日の会談に、戦乙女ヴァルキリーは姿を出さず、森に囲われている事を彼らは想定していた。
だからこそシグルドは術式を組んだのだが、コルトは居ないと分かったら直ぐに集落へ踏み込む事を選んだ。

戦乙女ヴァルキリーがギルドにいると判断された場合、シグルドから連絡が入ることになっていた。
一方通行でしか使えない魔道具。魔力を流せば対となる石が破壊される、ただそれだけのもの。

石が壊れれば、行軍を止める。
シグルドの魔力が入った魔道具、拡声器マイクを用い、【中止キャンセル】と唱えるだけで“森へ向かう”という命令は止められる。

しかし、その石は未だコルトの手の中にある。
即ち、戦乙女ヴァルキリーは森に居る。

戦乙女ヴァルキリーを森から連れ出すための戦力である行軍の騎士達は、馬車に揺られながら、次第に表情が抜け落ちていき、使える手駒へと変貌を遂げる。

そして3の刻を過ぎた今、集落前に到着した。


ダグは馬を降りると大きく伸びをする。


「漸く着いたなー」

「あぁ。しかし、集落内が静かだ。何か有ると思った方が良いだろう。コルト、どうするんだ。」


同じく馬を降りたラーンは、即座に集落内に索敵を向ける。
人の気配がない事を察知し、コルトへと確認する。


「先ずは、集落内の住居を探索。確保対象がいない事を確認した後、森へ探索に入ります。一応地図は確保していますが、索敵が効かないため、慎重にならざるを得ないでしょう。」

「わかったよ。そいじゃ、君たち集落内を見てきて。人がいれば確保して連れてくること。」


コルトの指示を受け、グリオは騎士達に指示を出していく。
騎士達は即座に行動を開始した。


「しかし・・・エラく戦乙女ヴァルキリーにご執心だなぁ、コルトもシグルドさんボスも。」


ラーンがため息混じりに呟く。
側にいたダグは、思い出すようにそれに応えていく。


シグルドさんボスは、『ケルベロス』の捕縛に同席していた。

俺はあの時戦っている姿をちゃんと見れてねーから、いまいち分からねぇけど。未知の武器を振るい、剣術と体術が合わさった動きをしていたとさ。魔力もダダ漏れる程の多さらしい。
見ていた他の騎士達も大騒ぎしていたからなぁ。

そんなんだからシグルドさんボスについては、未知の武器の使用者を囲う事が一番の目的だろうさ。」

「ふむ・・・」


記録映像で見ただけだが、あの武器は脅威になる物であり、量産できれば軍力増強になるのだろう。
納得して、ラーンは頷く。


「コルトについては、夜道でレグルパードに襲われた所を助けられたらしい。その後に、騎士団こちらに来てもらうことの話をしたそうだが、断られたと。

それにより『例の』腕輪を嵌めたらしいが、“魔力を使わずに”未知の魔道具を動かした、と。
それで自分の命を狙われたってのに、コルトの奴は取り憑かれたように戦乙女ヴァルキリーにご執心さ。」


グリオと共に、騎士達に指示を出して体制を整えていくコルトの背を見ながら、ダグは答えていく。


「魔道具なのに“魔力を使わない”?」

「あぁ、そうらしい。」

「益々不可解だな、その武器は。非戦闘員まで、戦わせる事が可能になる。」

「そうだなぁ。」


ラーンの見解に、そこら辺は興味は無いと言わんばかりにダグは適当に返す。


「ところで、お前は?」

「俺か?俺は・・・舐めた真似してくれた事に、お礼がしたいだけさ。」


ダグはそう言って、ニタリ、と笑う。


「北門に至るまでに、色々あったもんでなぁ。イズマと『黒持ち』には。このままだと、俺の気が済まねぇだけだ。」

「・・・まぁ、やり過ぎるなよ。」

「どーだかな。」


ラーンの忠告を、ダグは鼻で笑い流した。


「ダグ、ラーン!森に入る編成を組みますよ!」

「お、リーダーがお呼びだ。やはり、集落内に誰も居ないようだな。」

「へいへいっと。・・・俺は、好きにヤらせて貰いたいけどな。」


ラーンとダグは、打ち合わせるために、集落の中央に向かう。
誰もが今回の捕縛の成功を信じて疑わない。そんな空気だった。

しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...