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それぞれの成長(カンside)
110.想う強さ
しおりを挟む『『“持っている”為に、繋がる人間を不幸にする』と思い込んでいるアイツに、お前は何をしてやれる。』
その言葉を聞いて、ひゅ、と息を飲んだ。
「知って、たんですか?」
「あぁ。」
「いつ、から。」
リンさんに聞きたくても、聞けなかったこと。
この人は、どうして知ってるんだ。
思わず顔を歪めた俺に、師匠は苦笑いを返す。
「そもそも、お前らの関係が歪だったんだよ。
お前は、好意を前面に押し出してんのに、リンは、あくまでも『使命感』からお前を守ろうとしていた。
ずっとそこが気になっていた所に、あの魔獣暴走だ。
本人がお前には言うな、っつったから、言ってなかったが・・・お前がビグベルーの一撃を食らって倒れたとき、アイツは狂戦士化したんだよ。」
何を言われているのか。
狂戦士なんて、聞いて、ない。
処理が追いつかなくて、パニックになる。
「・・・正気に戻った時、アイツは『自分のせいだ』と取り乱していた。どう考えても、お前が馬鹿やっただけのあの場面でなのに。
アイツは・・・『お前を巻き込んでしまった所為で、怪我をさせた』とな。」
「なっ、なんでっ!?リンさんが、巻き込んだんじゃないっ!俺は・・・俺が意図的に巻き込まれにいったんだっ!」
ダンッ、と、思わず机を叩いてしまった。
師匠は動じずに、言葉を続ける。
「・・・あとな、お前達の本来の年齢の事も聞いている。そして、リンが結婚していて、その夫が病気で死んだ事もな。」
そこまで。
そこまで師匠に話していた、の、か。
師匠の存在の大きさに、愕然とする。
「その所為でアイツは、自分と関わった人間が死ぬことに異様に怯えている。
その最たるものは・・・お前だ。」
ぎ、と師匠の顔が険しくなった。
「お・・・れ・・・?」
「あぁ。だから、前衛やりたがるお前のバトルスタイルは『お前自身の身を守る』に特化させていたんだ。
リンは、お前が生きてりゃ、どうにでも動けるからな。」
「それは・・・」
ぐるぐると思考が彷徨い、まとまらない。
俺の動きが、弱さが、枷だったという現実。
「《迷い人》の『心残り』の話は、聞いているか?」
「・・・はい。コウさんから少し。『《迷い人》の気持ちに整理がつくと、元の世界に帰っていると推察できる』と。」
「・・・アイツの『心残り』が何なのかは、正確には分からん。
でも、ただ一つ言えるのは、お前がここで死にでもしたら、アイツはこの世界から帰れなくなるのは確実だ。」
「あ・・・」
・・・そんな事、考えても見なかった。
だから。
・・・だから、師匠は魔獣暴走の後、あんなにも怒って。
彼の対応は、『リンさんのため』
彼女の思いも、思い込みも、俺の弱さも、我儘も、何もかもすべて引っくるめて、彼女を『守る』術を取ったんだ。
彼女の心残りは、旦那さんの死。
それは分かってたのに。
一緒に渡った俺に何かあって、俺が傷つくのは、彼女の枷。
・・・ここに来た時、ビガディールの前に立った時と、俺は何にも変わってなかった。
あの時、彼女に『死ぬな』って言われていたのに。
俯き、拳を握り、唇を強く噛みしめる。
ーーー 俺の『役目』。
『チ?』
アルが、机の上で俺を見上げる。
そうだった。
お前がいた。
お前は、俺だけの能力。
師匠や、イズマさん、ベネリさんにも、ましてやコウさんにも、ない。
リンさんにとってのヴェルの様に、俺には相棒が居る。
そして、自分の思うように魔法が使える。
媒介に頼らない魔法使用。
しかも、回復を含めた全属性。
索敵も、付与も、回復も、攻撃も。
彼女と『一緒に』戦うために、使うことが出来る。
「どうした?」
黙ってしまった俺に、師匠が怪訝そうに声をかけてきた。
ふぅ、と大きく息を吐き、俺は顔を上げた。
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