転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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それぞれの成長(カンside)

108.魔法

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敵意、嘲り、悪意・・・
混ぜこぜになった様な魔力の流れ。

見回すと、訓練初日にコウさんに付きまとっていた男性冒険者の集団だった。

折角の決意に水を差され気分が悪い。


「おいっ、お前っ!」

「・・・何か?」


あからさまには出さない様にしなきゃ、と思ったが、顔は無表情になってしまう。


「どうやって、ギルマスに取り入った!」

「は?」

「お前みたいな新人が、すぐにB級なんておかしいだろう!不正をしなければ無理だ!」


・・・あぁ、異世界テンプレ。新人いびりですか。
いいよもう。
その下り、納品倉庫で一通りやったし。

思わず半眼になる。


「それに、お前の所為で、コウさんにあんなっ・・・!!」

「そうだっ!お前があんな所にいなければ、コウさんは俺らとっ!」


・・・それ、俺の所為じゃないし。
ってか、コウさんの話聞いていたんだろうか?
彼等の面倒を見る義理はない、とあれだけキッパリ言われていたのに、都合の良い解釈できるもんだなぁ。


・・・あぁ、何かあっても面倒だ。
午前中試した事を使ってみよう。

思った瞬間に、アルが姿を消し、俺から離れ、ベンチの背もたれに移動した。

うん、そこ、撮りやすい位置だもんな。


「聞いているのか!?」

「聞こえていますよ。・・・何を言ってるか意味が分かりませんが。」

「何だと?」


俺の一言で、敵意と憎悪が増したようだ。

何時もなら、この場を何とかやり過ごそうと考えるのに。
好戦的になっている自分に驚く。

・・・性格、伝染したのかな。

思わずくすり、と笑みが漏れた。


「・・・何笑ってやがる!」

「良い気になりやがってっ!こんな奴潰してやろうぜ!」


・・・はい、傷害の意図のある発言、頂きました。

そっと、身体強化をする。
状態異常はそもそも完全無効の身体ではあるけど。
物理、魔法攻撃への耐性も改めて意識する。
精神攻撃は完全に抵抗レジスト

集団と対峙していても、師匠やコウさんの恐さには全く及ばない。
まだビグベルー熊モドキの方が怖いくらいだ。

男達の只ならぬ雰囲気に、大広場に居た人達が離れ始め、遠巻きにコチラを伺っていた。


「舐めるなぁ!!」


リーダーと思しき男の声に、一斉に彼等は襲いかかってきた。


ーーー 遅い。

明らかに遅い。
イズマさんや師匠、リンさん、そしてこの数日のコウさんの動きに慣れてしまっている所為で、彼等の動きはゆっくりに見える。

俺は盾だけを装備して、彼等の攻撃をいなすだけに留めた。

ふと、魔力が動く気配。


「【束縛バインド】!!」


仲間の魔法使いが放つ、拘束系の呪文。
それすらも、ベネリさんの速さと強度には遠く及ばない、か細く見えてしまう。

避けるまでもなく、簡単に抵抗レジストする。


「なっ!」
「何で【束縛バインド】が効かない!」
「畜生!何か魔道具を持ってやがるな!?」


ーーー 持ってませんて、そんなもん。
強いて言うなら、アルが証拠映像撮ってるだけですって。

ちょっといなしたら引いてくれるかと期待したけど、そんな訳にはいかなかったよう。
まだ、衛兵も来ないようだ。
街の人、誰か報せに行ってくれてないかな?

ふと、周りを見ると、ギャラリーが増えている気がした。

ーーー 見世物ですかね。


そろそろどうしようかと考える。
衛兵が来ないなら、物理的に伸すか、全員束縛バインドで捕まえるか。


「くそっ!!」


思った様に俺を退治できずに、焦り始めている彼等。
苛立ちを抑えられなくなった魔法使いの攻撃が荒くなり・・・


「【火球ファイアボール】!!」

「きゃぁ!」「うわぁ!?」


俺に向けて放った火魔法が、ギャラリーに向けて飛んで行った。
大人達は逃げたが、子どもが1人倒れていた。

ヤバイ。
間に合えっ!


「くっ!【保護プロテクト】!!!」


ガシュンッ・・・!

間一髪。
火魔法が届く寸前、俺の防御魔法が子どもの前に届いた。

あっぶねぇ。

見境いのない攻撃で、一般人を巻き込むなんてもっての外だ。
5歳くらいの男の子は、びっくりして泣いているが、大事になってなさそうで安心する。

その時、後頭部を誰かに殴られた。
身体が少し揺らめく。

ギャラリーから、悲鳴が聞こえた。


「今だっ!」


再度男達が一斉に襲いかかるのが見える。

ーーー うっぜぇ。

卑怯くささも、
街の人を巻き込むような杜撰さも、
人の迷惑の顧みなさも。

何か、ぷつ、とキレた気がした。


「・・・【重力グラビティ】【束縛バインド】」


5人全員に向けて、重力魔法と拘束魔法を一気に放つ。
動けないように、地面に縫い付けるイメージだ。

ズン・・・と、5人共が地面にめり込む様にして動きが止まった。


「何だ、これっ!」
「くそっ離しやがれ!」


俺は、彼等の声をガン無視し、男の子に近寄る。
尻餅をつき、えぐえぐと泣いていた男の子は、怯えた顔で俺を見上げた。
火魔法の影響はなかった様だが、保護プロテクトのイメージが甘かった所為か、風圧や巻き上げられた小石などが当たったのかもしれない。
転んだ所為もあり、膝が赤くなっている。

なるべく威圧しない様にしゃがみ込む。
男の子は涙目を丸くした。


「大丈夫かい?ちょっとゴメンね。
・・・【診察スキャン】」


骨などには異常がない。
膝や手の擦過傷くらい。

それよりも、目の前に火の玉が迫ったんだ。そちらの方が怖かっただろう。


「怖かったね、ビックリさせてゴメン・・・【洗浄クリーン】【回復ヒール】」


傷周囲だけ洗うイメージで洗浄クリーンを使い、回復ヒールで綺麗に傷を治した。


「・・・これで、大丈夫、かな。他に痛いところはあるかい?」


俺の問いに男の子はきょとんとし、身体を眺めたり、立ち上がって身体を動かしているが、問題はなさそうだ。


「いたくないよっ!?おにーちゃんっ、ありがとうっ!!」

「どう、いたしまして。」


満面の笑みでお礼を言われ、ちょっとくすぐったい気持ちになる。
 


「一体、何の騒ぎだっ?」


そうこうしていると、衛兵さん達が到着したようだ。
男が5人、地面に這いつくばる光景に目を見張っている。

説明しなきゃ、と立ち上がろうとしたら、ギャラリーの皆様が口々に衛兵さん達に説明しだした。

曰く、俺が言いがかりをつけられていたこと。
1対5という卑怯な状態だったのに、俺は相手に怪我させないように、盾だけで応戦していたこと。
流れ魔法に被弾しそうになった子を、保護魔法で助け、尚且つ怪我も治してしまったこと。
その隙を突いて攻撃を仕掛けた男達が、呆気なく伸されたこと。

みんな口々に同じことを言うもんだから、衛兵さん達も信じてくれる。

5人組の男達は連行されていったが、その際も盾のくせに魔法使うなんて詐欺だ、だの、卑怯者だの、正々堂々勝負しろだのと、色々喚いていた。

1対5は、卑怯じゃないんだろうかな??

事情聴取を求められたが、此方は被害者であること、先約があることから、後に回してもらう事とした。
何かあったらと宿名は伝え、そのまま帰らせてもらう。

途中、街角の皆さんに凄かっただの、何やかんやと言われ、捕まりそうになったので。
アルにかけたステルス迷彩を自分に向けてみた。
身体はデカイのに存在が薄くなったようで、一気に逃げる事に成功した。

・・・うん、使えるな、これ。


ふと、何の抵抗もなく、魔法を使いまくって、ほくそ笑んでる自分に気がつく。
何とも複雑な気持ちで、宿までの道のりを目指した。

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