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それぞれの成長(カンside)
106.『黒持ち』の思い(コウ視点)
しおりを挟むこの数日、ベネリさんに断り、カン君とのマンツーマンの訓練をする事とした。
一週間見て感じるのは、彼のバトルスタイルは、あくまで『模倣』。
片手剣と盾で戦う、彼の師匠ことファーマスさんのバトルスタイルだ。
ただ、それはあくまで『模倣』に過ぎない。
一般のBクラスパーティーであれば十分すぎる技量。
しかし、その先を目指すには足りなさすぎる。
『無限指揮者』
ファーマスさんの騎士団にいた頃の二つ名。
刃がある武器は何でも使える。戦場で屍が握っていた武器すらも拾って戦い続ける、黒鎧の騎士につけられた仇名。
自分が出会った時のファーマスさんは、大剣を使っていた。
1人で仕事するには最適だと。
盾と片手剣のスタイルは、イズマさんとベネリさんと一緒に、『グレイハウンド』として活動するようになってからだ。
刃のある武器の取り扱いに慣れている彼の1スタイルを真似た所で、彼を越す事は到底無理だ。
それに、ファーマスさんが彼に仕込んだバトルスタイルは、『自分が死なない』だ。
・・・らしくない。
ファーマスさん自体は『積極的討伐』タイプだから。
きっと、敢えてそうしたんだろうと思う。
・・・理由ぐらい、教えておいてもらいたかったけどな。
カン君の話からは、《迷い人》として、一緒にこの世界に渡った『リン』という彼女を守りたい、という一途な思いは伝わってきた。
でも、方向性が間違っているんだよなぁ。
この数日、どうしたら伝わるのか考えていた。
盾役にこだわる理由を少し聞き出せて。
上手く行っていないことに悩んでいることもわかり。
ふと、彼が気にする『彼女』のことを尋ねてみた。
猟銃持ち。銃剣への魔改造。
演劇(多分ゲーム)を元にした、バトルスタイル。
・・・そうか。孫市か。
『くぅ~!やっぱ、孫カッコいい~っ!カチ上げ撃ち込みの顎ライン堪んないねぇ!』
・・・幻聴が聞こえた気がした。
この世界は魔法がある。
身体強化で、スタントマン的な動きも、ワイヤーアクション的な動きも可能。
ーーー やる。アイツなら、絶対にやる。
嬉々として、銃剣ぶん回して、魔獣の群れに突っ込んでいく姿が想像できた。
思わず、笑ってしまう。
彼は『彼女』が笑顔でいると言った。
・・・ホントに、鈴なのかは、わからないけれど。
だとしたら、この『彼女』への、彼の献身は悪手だろうな。
そう思ったら、つい口をついて出てしまった。
『盾役必要?』
だって、アイツは、護られるより、背中預けて自分から行くタイプだから。
俺に任せろ、後ろにいろ、は愚策。
言うこと聞くわけないじゃないか。
本当に一緒に戦わないと、パートナーとして振り向いてもらえないよ?
若しくはバックアップで、至れりつくせりしないとね。
・・・時々ポカやらかすから、さ。
折角、得意なモノあるのに。勿体ない。
この世界は、宝の持ち腐れでやっていけるほど、甘くはないから。
使えるものは何でも使い、「自分を」確立する必要があるんだ。
自分の話を聞き終わった彼は、思うところがあったのか、考えて、ファーマスさんに会うことにしたようだ。
その姿は、何処か吹っ切れたような、清々しい様子だった。
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