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それぞれの成長(カンside)
104.盾役であるわけ
しおりを挟むコウさんに指導を受けるため、パーティーを組んで一週間。
ベネリさんが別行動したりで、2人きりで教わる事も多くなった。
退治した獲物の処理や素材の説明から、戦術説明、冒険者としての役割とか、様々な事を教わった。
コウさんは博識で。
『黒持ち』や《迷い人》の事も色々知っていた。
そんなんだから、俺が《迷い人》である事もバレた訳で。
「元の世界に、帰りたい?」
問われた時、何とも答えられず。
思わず質問返しをしてしまった。
「帰る方法は、あると思いますか?」
「・・・あるんじゃないかな。」
淀みなく答えたコウさんの顔は、確信しているのに、何処か寂しそうな、そんな風に見えた。
「この方法、という確たるものは無いけど。色んな文献でキーワードとして出てくるのは“心残り”。《迷い人》の気持ちに整理がつくと、元の世界に帰っていると推察できたんだよね。」
ーーー 心残り。
と、言われても、思い当たる節はなく。
首を捻っていると、コウさんが続ける。
「君に思い当たる節が無いのなら・・・顕在化していないだけか。
もしくは、一緒に来た彼女の方に何かあるか、かな?」
ふ、とリンさんの顔が浮かぶ。
あの人の心残りって、なんだろう。
トラブル寄せ体質のこと・・・自分の所為で、旦那さんが死んだと思ってること、とか、かな。
魔獣暴走の前に言われたこと。
ーーー君を、あの人のようには死なせない。
だから、俺は。
死なないために強くなって。
彼女を守りたいんだ。
1人で居なきゃいけないって思っている彼女の側に居たいんだ。
唇を噛む俺に、ふと、コウさんが尋ねてきた。
「ところでカン君。君は何で、盾役になりたいんだい?」
その答えを、思いを探す。
「・・・守りたいんです。」
「守る?」
絞り出した答えを必死に紡ぐ。
「・・・ここに来てから、俺は、彼女に守られてばっかりで。
俺が戦う力を持ってなかったから。俺が傷つかないようにって。
ここに来たのも、自分の所為だって、俺の事を巻き込んだって思ってる。
・・・あの人が巻き込んだんじゃない。あの日、俺が一緒に居たかったから、巻き込まれに行ったんです。
1人で居なきゃいけないと思い込んでるあの人の事を、守りたいんです。
だから。」
「だから、盾役?」
コクリ、と頷く。
でも。実際は。
「・・・でも、実際は、上手くいかなくて。守りたいのに。守れない。目の前で気絶したり。結局は、助けられる事になって・・・情けないんです。」
「ふぅん・・・そっか。」
肯定でも、否定でもなく。
そのまま受け止められる。
「そういや、兄から聞いたけど。その彼女、変わった武器使ってるみたいだね?」
「あ、はい・・・そうですね。」
「聞かせてもらっても?」
俺はコウさんに頷くと、とつとつと話し始めた。
そもそもの猟銃のこと、
改造して銃剣にしたこと、
元の世界のゲームを元にバトルスタイルを確立したこと、
単独も範囲攻撃も何でもありで、嬉々として魔獣にぶっ込んで行ったりしてたこと、
終いにはアルと同じように、猟銃が自律式魔道具になり、猫として一緒にいること、
所々くすくすと笑いながら、コウさんは聞いてくれる。
「俺はいつも驚かされてばっかりで。
ここに来て真っ先に襲われたビガディールを倒してから、その後の冒険者としての活動も。肝が座っていて・・・座りすぎて、どんどんバイオレンスになっている気もしますけど。」
「そうか・・・」
コウさんは、何処か遠い目をして、何かに思いを馳せるように、空を見上げた。
少しの間の後、彼は呟く。
「カン君・・・その彼女、“リン”さんは、笑って、いるかい?」
「笑って・・・ですか?」
ふ、と思い浮かべるリンさんの顔は、笑顔で。
冷静沈着そうに見えて、激情型で。
慌てふためいたり、照れ笑いしたり。
喜怒哀楽でくるくる変わる表情が、可愛くて。
思いだして、くす、と笑ってしまう。
「笑ってる、と思います。『ケルベロス』のことや、騎士団の第4部隊の事があったから、泣いたり、怒ったり、疲れてもいたりしたけど。ニースの森にいた頃なんかは、ニコニコしてました。」
「そう・・・そっか。」
ホッとしたように呟いたコウさんが、すぃ、と俺の方に顔を向けた。
そして、思いがけない言葉を口にした。
「ねぇ、カン君。・・・その人、前衛というか、盾役必要?」
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