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それぞれの成長(カンside)
103.その頃、森では(リン視点) 後編
しおりを挟む温泉に行く途中で見つけた、カナルという花の実の汁が、オーガニックなシャンプー兼ボディソープもどきになると鑑定さん情報。
匂いは柑橘系の爽やかな中にちょっとバニラのような甘い香りが漂う。
結構集めて、空間収納へポイ。
索敵かけながら、魔獣がいないことを確認しつつ、滝まで急ぐ。
ドドドド・・・という滝の音に混ざり、硫黄の様な匂いが漂ってくる。
「ついたー」
目の前には、迫力ある温泉の滝。
ぶっちゃけ、知床のカムイワッカ湯の滝だ。
ちょっと登った所に滝壺があり、良い具合にお湯がたまっているんだ。
ウキウキしながら、私は流れに逆らい、滝を登る。
登りきって振り返ると、ニースの森の全容が見える。深い森林地帯。
絶景かな。
結界用魔道具を作動。
一応魔獣除けの香も焚いておく。
いそいそと家から持ってきた衝立を滝壺近くに立てる。
誰もこないけど、何となく目隠し。
「んと、その前に。」
未だに、【洗浄】をうまく使えない私は、諦めて、お風呂を作ることとした。
とは言っても、ミッドランドの街に居た時に見つけた、果実酒作りの仕込みに使うという、直径1.5メートル、高さ60センチの大桶を使い、お湯を張って入るという力技。
桶に湯を入れて、空間収納に入れて見たら、入るんだもの。ビックリさ。蓋しなくてもイケるんだね。
ってことで、桶にお湯をはり、空間収納へGO。
これで、お家分確保。
タオルを衝立にかけて、準備完了。
ちゃっちゃと服を脱いで、持ってきた木桶でかけ湯。
洗ってから湯船に入りたい派な私は、カナルの実を潰して泡立てると、頭や身体隅々まで洗う。
すすぎだけは、生活魔法で水を呼び寄せ、【加熱】で温めたお湯で流す。
「ヴェルも洗うよ~」
『にゃっ』
ヴェルはいそいそとやってきて、大人しく洗われる。
不具合は、ないんだろうか。
まぁ、気持ち良さそうならいいか。
ヴェルは洗い終わると、ぶるぶると水気を飛ばし、木桶に入ると丸くなる。
猫鍋かい。
ひと仕事終えた私は、滝壺の中に体を滑らせる。
滝壺の深さはちょうど、浅い湯船くらい。足伸ばして浸かると鎖骨辺りにお湯がくるくらい。
「ふぃ~」
日本人だし。やっぱりお風呂はいいよね。しかも源泉掛け流しの天然露天風呂ですよ。
乳白色のお湯は、40度程度で温め。
身体の臭いを嗅いでみて、パリルウッドの匂いはもう無いかなと思えた。
「ふぁふ・・・」
朝早起きして、身体いっぱい動かして、お風呂入ってあったまったからか、大欠伸が出る。
急に眠気に襲われ、そのまま、ふ、と意識が飛んだ。
***
ふわふわ、ゆらゆら、とお湯の中を揺蕩う感覚。
暖かくて幸せな感覚が蘇る。
ぽつん、ぽつんと、映像が浮かぶ。
冬の青空に堂々とそびえる真っ白な旭岳。
能取湖の真っ赤に染まるサンゴソウ。
十勝川の河川敷で見た、迫り来る様な花火。
海沿いを真っ黄色に染めるエゾカンゾウ越しに、凛と佇む利尻富士。
松前公園の咲き乱れる桜並木。
藻岩山から見た光り輝く夜景
彩り鮮やかな美瑛の四季彩の丘と青い池
真ピンクに染まる滝上公園の芝桜
いつか見た景色。
また、見ることは有るのだろうか。
ぽろ、と、目尻から何かが落ちる。
・・・あの景色を、隣で一緒に見た人が、もういない事を知っているから。
『・・・!・・・・ン!』
遠くで誰かの声が聞こえる、気がする。
ふわふわと揺蕩う意識が戻ってくる。
『リン!?おいっリン!起きろ!!』
くぐもったような声で、名前を呼ばれた気がする。
「ん・・・?」
うっすらと目を開けると、目に飛び込んできたのは赤茶の髪。
厳つい顔の鋭い目が、心配そうに揺らいでいた。
「・・・あ、ししょーだ。おはよーございますー。」
へらり、と笑顔をみせてみる。
その途端、大きな溜息を吐かれ、呆れた顔に変わる。
「お前はなんつー所で寝てんだ。しかも、こんな匂いを漂わせて、素っ裸って!」
頭を鷲掴みにされ、ギリギリと力を込められる。ガチのアイアンクローだ。
「いたっ!いたい~っ!」
痛みに悶えて暴れると、バシャバシャと水面が波立った。
「ーーーっ!」
ひゅ、と息を飲む音が聞こえたかと思ったら、頭を掴む指先の力が増した。
「っく!【洗浄】!!」
「ひゃぅんっ」
一気に身体を、師匠の魔力が通り過ぎる。
ぜー、ぜー、と息も荒く、呪文を吐き出した師匠が一息つく。
「お前なぁ・・・パリルウッドの匂いにカナルを掛け合わせるなんて、・・・阿保か。」
「ふぇ?」
やっと鷲掴みから離された頭をさすり、湯船の中から師匠を見上げる。
何を言われたのか分からなくて、涙目で、凄くマヌケな顔をしてたと思う。
「ーーーっ説教は後だ、さっさと上がれっ。」
「ふぎゃっ」
最後にデコピンを一撃落とし、師匠は立ち上がると、衝立の向こうへ歩いていった。
「痛いなぁ、もぅ。」
おでこをさすりながら、湯船から上がる。
タオルを取り、無造作に身体を拭いて、軽く【乾燥】をかける。
手早く着替えて、防具も付け直す。
衝立も仕舞うと、こちらに背を向けて胡座をかいてる師匠がいた。
「お待たせしましたー?」
「・・・帰るぞ。」
軽く息を吐き、師匠は立ち上がると、さっさと滝を降りていってしまう。
なんでまた、御機嫌斜めなんざましょ?
沈黙が重たいまま、大人しく、後をついて行った。
*
結局何だかよく分からないまま、集落に戻ってきた。
ピオッティさん達が、私の姿を見つけ駆け寄ってくる。
「お帰り!遅かったから心配してたんだよ?」
曰く、パリルウッドの花の採取は、かなり状態異常耐性が高くないと色々とマズイのは、鑑定さんの言う通りで。
どんなに耐性が高くても、一時間程度の作業で限界を迎えるため、早々に帰って来るもんなんだとか。
私があまりに帰ってこず。
心配したピオッティさん達が、ちょうど集落に戻ってきた師匠とイズマさんに相談して、師匠が迎えに来た、と。
・・・2時間作業しても、何ら問題ナッシングな《迷い人》の身体。ハイスペック過ぎね?
状態異常耐性ではなく、異常無効だもんねー
「ゴメンなさい。私【洗浄】使えないから、温泉滝で身体洗って、浸かってたら、寝てた。」
頭を抱える集落の皆さん。
・・・あるぇ?
どうやら、パリルウッドの匂いは、水で洗い流さないといけなかったらしく。
熱が加わると、その芳香は強くなる、らしい。
つまり、匂いを感じてなかったのは、単に私の鼻がバカになってただけでした。
ちなみに、カナルの匂いも催淫効果があったらしく。
掛け合わせると、中々なお薬になるそうで。
・・・と、言うことは?
ぶっちゃけ、据え膳状態、だった訳、だ。
ーーー 師匠。耐えたんだ。
凄いっすね。
【洗浄】は、掛け合わさった媚薬の効果を消すため、でしたか。
・・・何かほんと、色々スンマセン。
************
※ ホントに耐えたかどうかは、皆様のご想像にwww真実は闇の中。
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