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それぞれの成長(カンside)
99.訓練初日
しおりを挟む約束の日時、俺とベネリさんは冒険者ギルドへ向かった。無論、小鳥は頭に乗ったまま。
師匠は、街で諸々の用事を足し、イズマさんとニースの森へ向かうとのこと。
数日は、コウさんと、ベネリさん、俺の3人パーティーになる。
朝一の混雑を避けた9の刻のハズだったのだが。
「うわー、アソコ行きたくないねー。」
思わずベネリさんが呟いた言葉に同意する。
A級ライセンストップを甘くみてました。
・・・カウンターの前がすげぇ人だかり。
尊敬の念で遠巻きに眺める冒険者達。
きゃあきゃあと声を上げている、野次馬な街のお嬢さん達。
それを休憩所から苦々しく見ている男性冒険者達。
そして、色気を振りまく女性2人組らしき冒険者と、男性冒険者が何名かが、彼の近くに群がっている。
見た所、B級ライセンス持ちのようだ。
「コウさん!是非僕らと一緒にクエストをして下さいっ!」
「最近のご活躍のお話が聞きたいですぅ~っ」
「ご指導を貰いたいので、同行させて下さいっ!」
聞こえてくるのは、彼の恩恵に預かろうとする懇願。
・・・でもそれは、自分もだ。
「待ち合わせ、ギルマス部屋にして貰えば良かったですね。若しくは現地集合。」
「ホントだねぇ。」
側から見たら、あんなに、浅ましく見えるのか。
師匠が頼んでくれたとはいえ、やってる事は同じだ。
「カン・・・お前さぁ、自分がアイツらと同じだ、とでも思ってる?」
どき、とする。
隣にいる兄弟子は、気持ちの機微を読み取るのが上手い。
「アイツらとお前の立ち位置はそもそも違うでしょ。魔力量も実力も。何せ『グレイハウンド』に居ることが許されている。ウチのリーダーが、お前はコウの指導を受けるに値した、と判断したんだ。・・・謙虚と卑屈は違う。胸を張りな。」
「・・・はい。」
ほんの少しの事だけど、
肯定されるのは、嬉しい。
「だ・か・ら、コウを迎えに行っといで~。俺、適当に依頼見繕ってくるから~。」
・・・ktkr
やっぱり、タダじゃ済まなかった。
ヒラヒラと手を振り、ベネリさんは 依頼ボードの前に行ってしまった。
ずっけぇっス、ベネリさん。
『チ?ツィツィ。』
行かないの?行こうよ?、とアルが頭から離れる。
「あ、こら。勝手にっ・・・」
パタタ・・・と羽ばたいたアルが、一直線にコウさんの元に向かった。
冒険者達に囲まれているコウさんは、その端正な顔に薄い笑顔を張り付かせたまま、何も答えない。
寧ろ、不機嫌オーラが見えるのに、あの冒険者達は食いついて離れない。
特に女性冒険者達。美人だし、身体のラインもご立派。色気で押せ押せしてるけど、コウさんのスルー力が半端ないんだが。
・・・すげぇな、あの胆力。
逆に感心するわ。
『チチッ』
「ん?小鳥?」
飛んでったアルに気がついたコウさんは、す、と左手の人差し指を差し出す。
アルは、とーぜん、とばかりにそこに止まった。
『チッ!』
「おはよう?どこの子、かな?」
片翼を上げ、おはよ、と馴れ馴れしい。
コウさんの纏う不機嫌オーラが、す、と静まり、アルを眺める顔が優しくなる。
周囲の女性陣から、ほぅ、と溜息がもれる。
ヒソヒソと、『小鳥にまで好かれるなんて、ステキ~!』『絵になるわぁ~』なんて聞こえてくる。
・・・あぁ、俺といるより、随分と絵になるよ。緑で色合い似てるし。
コウさんは、アルの首筋をくすぐっている。満更でもなさそうなのが、何だかなぁ。
「いやぁん、可愛いっ。私も撫でて良いですかぁ?」
不躾なぶりっ子声が聞こえ、女性冒険者の手が伸びた。
その姿にハッとする。
ヴェルの一件を思い出す。
意としない相手に対しての防御。
あんなのが出たらマズイ。
「アル!!」
『チィッ?』
女性冒険者に触れられる直前、俺の声にビックリしたように、アルは羽ばたき、コウさんの指から離れた。
ほっと胸を撫で下ろしていると、アルはそのまま俺の頭の上に着地する。
『チィ?』
どしたの?と、頭の上で鳴く。
この衆人環視の中、それかよ。
思い切り脱力する。
「あ、カン君おはよう。その小鳥、君の子だったんだね。呼びに来てくれたのかな?」
「お、おはようございます。お待たせして申し訳ありません。・・・コイツが先に飛んでいってしまって、お手を煩わせまして。」
「いやいや。そんなに待ってないし、可愛い子だったから構わないよ。ところで、ベネリさんは?」
「依頼を見てくると。」
「あー、了解。じゃ、行こうか。」
ふんわりと笑った彼は、周りに目もくれず、俺だけを見ると、先に進む。
モーゼの十戒のように、人垣ができる。コウさんの後ろに付いた俺に刺さる視線が痛い。
・・・何、この針のむしろ感。
「ちょっと待って下さい!」
先程、コウさんに纏わりついていた冒険者達が呼び止めてきた。
「何でその男と一緒に行くんですか!俺らが先に声かけしていたのに!」
「コウさんともあろう方が、たかだかC級になったばかりの男なんかと?!」
口々に、俺を貶める発言が飛んでくる。
自重しない事にしたから、ある程度覚悟はしてたけど。
・・・ヘコむなぁ。
ぽん、と肩に手を置かれて、ハッとする。
見ると、踵を返したコウさんが、俺の横に居た。
「僕は、君たちと馴れ合うためにこの支部に来たわけではないよ?仕事をしにきたんだ。
ギルマスの依頼で、この支部で塩漬けになっているクラスA依頼を消化しにきただけ。そのパートナーとして、先日A級ライセンスに昇格したベネリさんと、彼が選ばれている。それが何か?」
「そんなっ、だったら、そのC級なんかより、俺らの方が使えます!」
「だから?」
俺の横で、にっこりと微笑むコウさん。
端正な顔立ちに浮かぶ笑みに、背筋が寒くなる。
「使える使えないは、ただの君の思いだよね?それが事実かどうかなんて、僕にはどうでもいいことだ。
それに何を勘違いしているのか知らないけど、彼はすでにB級ライセンス持ちだ。僕とベネリさんがいて、クラスAの依頼を行うのに何ら支障はない。
ギルマスから僕への依頼は、クラスAパーティーとなった『グレイハウンド』のバックアップも含まれている。
そのパーティー構成員ではない、君達の面倒を見る必要は、僕には無いんだけど?」
「なっ?!」
優しそうな物腰と笑顔から繰り出されるのは、辛辣な言葉達。
絶句する冒険者達。
周囲も息を潜めて成り行きを見守る。
す、とコウさんの顔から笑みが消える。
「・・・これ以上の問答は、仕事の邪魔だ。君達は、君達の冒険者としての役割を果たしたらどうかな?」
ひっ、と怯んだ冒険者達が、そそくさとその場を離れていった。
・・・凄い。
この人、確固たる信念とプライドを持って、冒険者として活動しているんだ。コツコツと真面目に積み重ねて、今があるんだろう。
本当に、賢人だよ。
また、彼の顔にふんわりとした笑顔が戻る。
周囲のざわめきが戻ってくる。
『カッコいい~!』
『アイツら調子に乗ってたから、いい気味だ』
『けっ、お高く止まりやがって』
『冒険者の鏡よね~』
色んな声が聞こえてくる。
そんな中、ちっ、という舌打ちが俺の隣から聞こえた。
「・・・媚び売ってるヒマあんなら、一つでも多く仕事こなせっつーの。」
笑顔を張り付かせたまま、ポツリと呟く。
・・・訂正。
この方、笑顔の鬼軍曹でした。
ともかく、真面目に依頼しよう。
改めて、そう思った。
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