転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
102 / 393
それぞれの成長(カンside)

99.訓練初日

しおりを挟む

約束の日時、俺とベネリさんは冒険者ギルドへ向かった。無論、小鳥アルは頭に乗ったまま。
師匠は、街で諸々の用事を足し、イズマさんとニースの森へ向かうとのこと。
数日は、コウさんと、ベネリさん、俺の3人パーティーになる。

朝一の混雑を避けた9の刻のハズだったのだが。


「うわー、アソコ行きたくないねー。」


思わずベネリさんが呟いた言葉に同意する。
A級ライセンストップを甘くみてました。

・・・カウンターの前がすげぇ人だかり。 

尊敬の念で遠巻きに眺める冒険者達。
きゃあきゃあと声を上げている、野次馬な街のお嬢さん達。
それを休憩所から苦々しく見ている男性冒険者達。

そして、色気を振りまく女性2人組らしき冒険者と、男性冒険者が何名かが、彼の近くに群がっている。
見た所、B級ライセンス持ちのようだ。


「コウさん!是非僕らと一緒にクエストをして下さいっ!」
「最近のご活躍のお話が聞きたいですぅ~っ」
「ご指導を貰いたいので、同行させて下さいっ!」


聞こえてくるのは、彼の恩恵に預かろうとする懇願。
・・・でもそれは、自分もだ。


「待ち合わせ、ギルマス部屋にして貰えば良かったですね。若しくは現地集合。」

「ホントだねぇ。」


側から見たら、あんなに、浅ましく見えるのか。
師匠が頼んでくれたとはいえ、やってる事は同じだ。


「カン・・・お前さぁ、自分がアイツらと同じだ、とでも思ってる?」


どき、とする。
隣にいる兄弟子は、気持ちの機微を読み取るのが上手い。


「アイツらとお前の立ち位置はそもそも違うでしょ。魔力量も実力も。何せ『グレイハウンド』に居ることが許されている。ウチのリーダーが、お前はコウの指導を受けるに値した、と判断したんだ。・・・謙虚と卑屈は違う。胸を張りな。」

「・・・はい。」


ほんの少しの事だけど、
肯定されるのは、嬉しい。


「だ・か・ら、コウを迎えに行っといで~。俺、適当に依頼見繕ってくるから~。」


・・・ktkrキタコレ

やっぱり、タダじゃ済まなかった。
ヒラヒラと手を振り、ベネリさんは 依頼クエストボードの前に行ってしまった。
ずっけぇっス、ベネリさん。


『チ?ツィツィ。』


行かないの?行こうよ?、とアルが頭から離れる。


「あ、こら。勝手にっ・・・」


パタタ・・・と羽ばたいたアルが、一直線にコウさんの元に向かった。



冒険者達に囲まれているコウさんは、その端正な顔に薄い笑顔を張り付かせたまま、何も答えない。

寧ろ、不機嫌オーラが見えるのに、あの冒険者達は食いついて離れない。
特に女性冒険者達。美人だし、身体のラインもご立派。色気で押せ押せしてるけど、コウさんのスルー力が半端ないんだが。

・・・すげぇな、あの胆力。
逆に感心するわ。



『チチッ』

「ん?小鳥ピアル?」


飛んでったアルに気がついたコウさんは、す、と左手の人差し指を差し出す。
アルは、とーぜん、とばかりにそこに止まった。


『チッ!』

「おはよう?どこの子、かな?」


片翼を上げ、おはよ、と馴れ馴れしい。
コウさんの纏う不機嫌オーラが、す、と静まり、アルを眺める顔が優しくなる。

周囲の女性陣から、ほぅ、と溜息がもれる。
ヒソヒソと、『小鳥ピアルにまで好かれるなんて、ステキ~!』『絵になるわぁ~』なんて聞こえてくる。


・・・あぁ、俺といるより、随分と絵になるよ。緑で色合い似てるし。

コウさんは、アルの首筋をくすぐっている。満更でもなさそうなのが、何だかなぁ。


「いやぁん、可愛いっ。私も撫でて良いですかぁ?」


不躾なぶりっ子声が聞こえ、女性冒険者の手が伸びた。

その姿にハッとする。

ヴェルの一件を思い出す。
意としない相手に対しての防御。
あんなのが出たらマズイ。


「アル!!」

『チィッ?』


女性冒険者に触れられる直前、俺の声にビックリしたように、アルは羽ばたき、コウさんの指から離れた。

ほっと胸を撫で下ろしていると、アルはそのまま俺の頭の上に着地する。


『チィ?』


どしたの?と、頭の上で鳴く。
この衆人環視の中、それかよ。
思い切り脱力する。


「あ、カン君おはよう。その小鳥ピアル、君の子だったんだね。呼びに来てくれたのかな?」
 
「お、おはようございます。お待たせして申し訳ありません。・・・コイツが先に飛んでいってしまって、お手を煩わせまして。」

「いやいや。そんなに待ってないし、可愛い子だったから構わないよ。ところで、ベネリさんは?」

依頼クエストを見てくると。」

「あー、了解。じゃ、行こうか。」


ふんわりと笑った彼は、周りに目もくれず、俺だけを見ると、先に進む。

モーゼの十戒のように、人垣ができる。コウさんの後ろに付いた俺に刺さる視線が痛い。
・・・何、この針のむしろ感。


「ちょっと待って下さい!」


先程、コウさんに纏わりついていた冒険者達が呼び止めてきた。


「何でその男と一緒に行くんですか!俺らが先に声かけしていたのに!」

「コウさんともあろう方が、たかだかC級になったばかりの男なんかと?!」


口々に、俺を貶める発言が飛んでくる。
自重しない事にしたから、ある程度覚悟はしてたけど。
・・・ヘコむなぁ。

ぽん、と肩に手を置かれて、ハッとする。
見ると、踵を返したコウさんが、俺の横に居た。


「僕は、君たちと馴れ合うためにこの支部に来たわけではないよ?仕事をしにきたんだ。
ギルマスの依頼で、この支部で塩漬けになっているクラスA依頼クエストを消化しにきただけ。そのパートナーとして、先日A級ライセンスに昇格したベネリさんと、彼が選ばれている。それが何か?」

「そんなっ、だったら、そのC級なんかより、俺らの方が使えます!」

「だから?」


俺の横で、にっこりと微笑むコウさん。
端正な顔立ちに浮かぶ笑みに、背筋が寒くなる。


「使える使えないは、ただの君の思いだよね?それが事実かどうかなんて、僕にはどうでもいいことだ。
それに何を勘違いしているのか知らないけど、彼はすでにB級ライセンス持ちだ。僕とベネリさんがいて、クラスAの依頼クエストを行うのに何ら支障はない。
ギルマスから僕への依頼は、となった『グレイハウンド』のバックアップも含まれている。
そのパーティー構成員ではない、君達の面倒を見る必要義理は、僕には無いんだけど?」

「なっ?!」


優しそうな物腰と笑顔から繰り出されるのは、辛辣な言葉達。
絶句する冒険者達。
周囲も息を潜めて成り行きを見守る。
す、とコウさんの顔から笑みが消える。


「・・・これ以上の問答は、仕事の邪魔だ。君達は、君達の冒険者としての役割を果たしたらどうかな?」


ひっ、と怯んだ冒険者達が、そそくさとその場を離れていった。


・・・凄い。
この人、確固たる信念とプライドを持って、冒険者として活動しているんだ。コツコツと真面目に積み重ねて、今があるんだろう。
本当に、賢人だよ。

また、彼の顔にふんわりとした笑顔が戻る。

周囲のざわめきが戻ってくる。
『カッコいい~!』
『アイツら調子に乗ってたから、いい気味だ』
『けっ、お高く止まりやがって』
『冒険者の鏡よね~』
色んな声が聞こえてくる。


そんな中、ちっ、という舌打ちが俺の隣から聞こえた。


「・・・媚び売ってるヒマあんなら、一つでも多く仕事クエストこなせっつーの。」


笑顔を張り付かせたまま、ポツリと呟く。

・・・訂正。
この方、笑顔の鬼軍曹でした。

ともかく、真面目に依頼クエストしよう。
改めて、そう思った。

しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...