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それぞれの成長(カンside)
98.小鳥?
しおりを挟む『ツィツィッ・・・』
今、俺の目の前には小鳥がいる。
10cm弱の薄いオリーブ色の身体に、頭頂部が黒く縁取られた黄色。
・・・キクイタダキ、だよなぁ、コイツ。日本最小の鳥。
昔、学校帰りに、近所の家の窓ガラスに激突して落ちてきたのを助けた事があったなぁ。
『ツィ?』
小鳥は、パタパタと手から飛び降り、膝に降り立つと、俺の顔を見上げ、首を傾げる。
・・・どうしてこうなった。
***
コウさんにお世話になるまでの2日間、俺は師匠とベネリさんに付いて、クラスA依頼を消化していった。
1対1の捌きは問題ない。
でも、全体を見通す力がない。
また、乱戦になると火力の強いベネリさんにタゲを移動させてしまう。
「くそっ。」
師匠の動きは無駄がなくスマートで。
大物の意識をベネリさんに向けさせることがなくて。
やればやるほど、遠ざかっていく背中。
ちょっとしたヒントになればと、俺はこっそりとカメラの動画機能で撮ることにした。
昼一ぐらいまで依頼消化がてら師匠達の訓練を受ける。
その後は先に帰ってもらい、森に一人残り、動画を見て凹む。
やりたい事のイメージはあるけど、身体も頭も付いていってないのがよく分かる。
そのあとは、素振りをしたり、D級程度の魔獣を相手に、立ち位置や捌きの練習をする。
繰り返し、繰り返し。
小休憩を取っていると、夕暮れが近づくのに気がつく。
「帰るか・・・」
ふ、と思い出し、カメラを取り出す。
画像データの中から、リンの姿を探す。
2日離れただけで、切なくなる。
頭を振ると、空を見上げた。
綺麗な夕焼け。
ーーー 見せてあげたい。
そうだ。
離れている間見たものを、撮っていこう。
そう思って、夕焼け空にカメラを向け、シャッターを切ろうとした。
その時。
手の中のカメラが、見覚えのある光に包まれ。
気がつけば、小鳥がそこに居た。
***
『チ?ツィ?』
「どー考えても、魔道具化したカメラだよな、お前。」
子猫の前例があるため、すんなりと受け入れられてしまう自分に呆れてしまう。
『ツィーツィー』
そうそう、とでも言いたげにパタパタ飛び跳ねる小鳥。
一応鑑定をかけてみる。
=======================
SONY α7Ⅱ (魔道具・鳥モード new!)
所有者:カン(限定)
異世界から神凪葵と共にやってきたデジタル一眼レフカメラ。
この世界で、空間収納にずっと入れられて、魔力に晒されていた事で魔道具となる。
感覚をリンクすることで、広範囲の遠視が可能。カラー望遠です。索敵でも見やすいですよ?
遠くに居ながら、鑑定もかけられます。なんて便利。
防水、防塵、耐ショック完備。水中でも使用可能。高いところから落としても、馬車に踏まれても、壊れません。
自浄作用ありますけど、手入れはしてね。あまり使わないと拗ねますよ?
ーーーnew!
リンから離れて寂しがりのカンの為に鳥型に進化。言うなれば付喪神。
餌は必要ありませんが、1日1回魔力は与えて下さい。頭に乗っけておけば勝手にいただきます。
カメラに戻す時は、念じればok。
名前をつけてあげると、絆が深まります。
=======================
「・・・大きなお世話だ。」
はぁぁと大きくため息をついてしまう。
何だろう。
鑑定さんにおちょくられている感が半端ない。
大男の頭の上に小鳥って。ギャグだろ。
『チィ?』
どしたの?と言うように、真っ黒い丸い目でこちらを見ながら首を傾げる小鳥。
その姿を見てしまうと、和むより他ない。
「名前、どうしようか。」
センスのある名前なんぞ、思いつきもしない。
「α7・・・アル、でいいか?」
安直すぎるが、名前としては問題無いだろう。
小鳥はパタパタとその場で跳ねて、名前を了承した様子。
「じゃぁ、“アル”。帰ろうか。」
『チィ!』
帰る!と言うように、鳴くと、パタパタと羽ばたき、俺の頭の上に止まった。
「・・・そこ、定位置?」
『ツィ!』
そう!と、元気よく答えられ、脱力する。
異議は認められないようだ。
仕方なく頭に乗せたまま、ミッドランドの街へ戻る事とした。
*
黒鎧の大男が、頭に小鳥を乗せて歩いている様子に、街中では遠巻きに衝撃が走り。
定宿の『陽だまり亭』に戻ったら、ベネリさんに指を指して笑われ、師匠に呆れられ。
そんな俺をほっといて、宿の女性従業員の間で、小鳥は大人気となり。
・・・解せない。
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