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それぞれの成長(カンside)
94.出発
しおりを挟む次の日、リンの調子は元に戻り。
カンとファーマスは、ミッドランドの街へ戻る事となった。
*
カンとリンは向かいあい、パンと野菜スープに目玉焼きといった簡素な朝食を食べる。
「あ、そだ。レザリック先生に頼まれてた生姜とか、紫蘇とか持ってる?」
「あるっス。昨日、師匠と森に入った時に取ってきてます。」
「そっか。・・・今回の依頼は任せっきりで申し訳ない。」
「・・・パーティーで引き受けてる依頼っスから、問題ナイっスよ。お互い様、でしょ?」
「ん・・・ゴメンね。」
何処か、しゅん、と気落ちしている彼女を見ても、気の利いた言葉の1つもすぐにかけられない。
カンは必死で言葉を探す。
「・・・俺らが街にいる時は、むしろリンさんに頼りっきりになるんですから。気にしないで下さい。」
「ん。そっか。頑張るわ。」
気持ちを切り替えたのか、ふにゃ、と笑みが浮かんだ。
その笑顔が自分に向けられた事で、胸が暖かくなる。
「「ご馳走様でした。」」
食べ終わり、食後の挨拶をして、並んで食器を片付ける。
森で住んでいた頃の何時もの流れ。
・・・明日からは、これも無い。
森の守護は彼女に任された。
自分は、街場で師匠達と依頼消化。
そして、きっと前衛修行になる。
騎士団からの連絡も何時になるか、まだわからない。
自分がここに戻ってくるのは、それらが終わってから。
鼻歌を歌いながら食器を洗う横顔を眺めると、急に寂しさと不安を感じる。
そっと彼女から離れると、空間収納から久しぶりに取り出して、構える。
・・・この何気ない、幸せな空間を切り取れたら。
ーーー カシャ。
「!?」
バッ、っと音のした方へ、勢いよく振り向いた彼女。
「何撮ってんの!?」
慌てる様子もこっそり撮り。
『カメラ』はすぐに空間収納へしまった。
「写真苦手なんだから、やめてよっ!消してっ。」
「嫌です。」
「肖像権侵害ーっ」
「個人で楽しむだけですので。」
慌てる様子が新鮮で、思わず笑ってしまう。
もー、と膨れる姿も可愛らしい。
ダメだなぁ。末期だ。
ーーー 離れたくない。
ぐ、と言葉を飲み込む。
「リンさん、俺。」
「ん?」
「・・・頑張ってくるんで。待ってて下さい。」
「うん?ん。騎士団へのお礼参り、ヨロシクね?あ、後で証拠の黒豹も渡しとこかな。」
きょとん、としながらも、笑ってくれる。
今は相手にされなくても。
まだ諦めないんだ。
*
「ほいじゃ、道中気をつけてね。」
「はい。」
「イーベ、みんな、リンのお守りは頼んだ。」
「任せとけ。」
「お守りって私は子どもじゃないですよー。」
みんなに見送られる中、師匠の言葉にみんなが笑う。
「ヴェル、リンさんが無茶しないように、見張っててな。」
『にゃっ』
「ヴェルまで?!」
みんなひどいなー、とむくれる姿にまた笑いがもれた。
「じゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
馬に跨り、思いを振り切るように、出発した。
*
しばらく馬で駆けていく。
街道も半分くらい来た頃、一旦馬を止めて一休みする。
水袋を取り出し飲んでいると、師匠が近寄ってきた。
「カン、昨日は頑張ったかー?」
ぶっ、と飲んでいた水を吹き出して、咽せる。
「何っスか!」
「お前・・・あんなけお膳立てしたのに、まさか、まだ手ェ出してねーのか??」
ゲホゲホと咽せていると、呆れたような声が降って来た。
「・・・ほっといて下さい。」
「忍耐強いのは美徳かもしれんが、あんまりのんびりやってると、掻っ攫われるぞ?」
「分かってます。」
特に、貴方にでしょ、という言葉を飲み込んで。
じ、と顔を見据えた。
「師匠。向こうに着いたら、訓練お願いします。」
「あぁ、分かった。・・・そろそろアイツも来る頃だしな。」
「何ですか?」
最後の言葉が聞き取れず、聞き返すが流されてしまった。
「コッチの話だ。そろそろ行くぞ。」
「はい。」
立ち上がると、また馬に跨る。
そして、師匠の後について、ミッドランドの街へ向かった。
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