転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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それぞれの成長(カンside)

94.出発

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次の日、リンの調子は元に戻り。

カンとファーマスは、ミッドランドの街へ戻る事となった。





カンとリンは向かいあい、パンと野菜スープに目玉焼きといった簡素な朝食を食べる。


「あ、そだ。レザリック先生に頼まれてた生姜とか、紫蘇とか持ってる?」

「あるっス。昨日、師匠と森に入った時に取ってきてます。」

「そっか。・・・今回の依頼は任せっきりで申し訳ない。」

「・・・パーティーで引き受けてる依頼っスから、問題ナイっスよ。お互い様、でしょ?」

「ん・・・ゴメンね。」


何処か、しゅん、と気落ちしている彼女を見ても、気の利いた言葉の1つもすぐにかけられない。
カンは必死で言葉を探す。


「・・・俺らが街にいる時は、むしろリンさんに頼りっきりになるんですから。気にしないで下さい。」

「ん。そっか。頑張るわ。」


気持ちを切り替えたのか、ふにゃ、と笑みが浮かんだ。
その笑顔が自分に向けられた事で、胸が暖かくなる。


「「ご馳走様でした。」」


食べ終わり、食後の挨拶をして、並んで食器を片付ける。
森で住んでいた頃の何時もの流れ。

・・・明日からは、これも無い。

森の守護は彼女に任された。
自分は、街場で師匠達と依頼消化。
そして、きっと前衛修行になる。

騎士団からの連絡も何時になるか、まだわからない。
自分がここに戻ってくるのは、それらが終わってから。


鼻歌を歌いながら食器を洗う横顔を眺めると、急に寂しさと不安を感じる。

そっと彼女から離れると、空間収納から久しぶりに取り出して、構える。
・・・この何気ない、幸せな空間を切り取れたら。


ーーー カシャ。


「!?」


バッ、っと音のした方へ、勢いよく振り向いた彼女。


「何撮ってんの!?」


慌てる様子もこっそり撮り。
『カメラ』はすぐに空間収納へしまった。


「写真苦手なんだから、やめてよっ!消してっ。」

「嫌です。」

「肖像権侵害ーっ」

「個人で楽しむだけですので。」


慌てる様子が新鮮で、思わず笑ってしまう。
もー、と膨れる姿も可愛らしい。

ダメだなぁ。末期だ。

ーーー 離れたくない。

ぐ、と言葉を飲み込む。


「リンさん、俺。」

「ん?」

「・・・頑張ってくるんで。待ってて下さい。」

「うん?ん。騎士団へのお礼参り、ヨロシクね?あ、後で証拠の黒豹も渡しとこかな。」


きょとん、としながらも、笑ってくれる。


今は相手にされなくても。
まだ諦めないんだ。






「ほいじゃ、道中気をつけてね。」

「はい。」

「イーベ、みんな、リンのお守りは頼んだ。」

「任せとけ。」

「お守りって私は子どもじゃないですよー。」


みんなに見送られる中、師匠の言葉にみんなが笑う。


「ヴェル、リンさんが無茶しないように、見張っててな。」

『にゃっ』

「ヴェルまで?!」


みんなひどいなー、とむくれる姿にまた笑いがもれた。


「じゃ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


馬に跨り、思いを振り切るように、出発した。





しばらく馬で駆けていく。
街道も半分くらい来た頃、一旦馬を止めて一休みする。
水袋を取り出し飲んでいると、師匠が近寄ってきた。


「カン、昨日は頑張ったかー?」


ぶっ、と飲んでいた水を吹き出して、咽せる。


「何っスか!」

「お前・・・あんなけお膳立てしたのに、まさか、まだ手ェ出してねーのか??」


ゲホゲホと咽せていると、呆れたような声が降って来た。


「・・・ほっといて下さい。」

「忍耐強いのは美徳かもしれんが、あんまりのんびりやってると、掻っ攫われるぞ?」

「分かってます。」


特に、貴方にでしょ、という言葉を飲み込んで。
じ、と顔を見据えた。


「師匠。向こうに着いたら、訓練お願いします。」

「あぁ、分かった。・・・そろそろアイツも来る頃だしな。」

「何ですか?」


最後の言葉が聞き取れず、聞き返すが流されてしまった。


「コッチの話だ。そろそろ行くぞ。」

「はい。」


立ち上がると、また馬に跨る。
そして、師匠の後について、ミッドランドの街へ向かった。

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