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森へ帰ろう
89.休息と策略
しおりを挟む怪我の治った馬は、ゆっくりと立ちあがると、カンに頭をすり寄せた。
カンは再度馬の身体をチェックし、怪我が治っていることを確認した。
子猫は、嬉しそうに馬の脚に擦り寄って行く。
「よしよし、大丈夫そうだな。・・・イーベさん、コイツ休ませてやってもらっても良いですか?」
「あ、あぁ、構わねえよ。連れてこい。・・・とりあえず、リンもそんなんだし、話も聞きてえから、2人とも俺んちに来い。」
「あぁ、分かった。」
ファーマスは、イーベの後に付いて、集落に入っていく。
『みゃぁ』
カンも付いて行こうとしたが、子猫が、もう一体の馬の死体の側で鳴く。
「その馬が、どうした?」
大事そうに鳴く子猫の様子から、死体に鑑定をかける。
「北門の馬、か。回収しとけってことかな?」
足に擦り寄る子猫の様子から、判断が正しいのだろうと思い、カンは馬を空間収納へしまった。
『みゃぁう』
「どういたしまして。」
カンが手を出すと、子猫はピョンと飛び乗り肩に登る。
「ヴェルも、お疲れ様。」
そっと撫でると、子猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
彼女が大事にしている相棒が、少し気を許してくれている気がして、カンの口角が緩む。
「じゃ、行こう。」
肩に子猫を乗せたまま、カンは久しぶりに戻ってきた集落に入って行った。
*
イーベの自宅に行くと、ファーマスは客間のベッドにリンを寝かせた。
後から入ってきたカンは、すぐに【洗浄】をかけたのち、【診察】をし、リンの容態を探る。
外傷自体は擦り傷程度。疲労及び腕輪による常時魔力放出での魔力枯渇傾向を確認する。
「腕輪を外さないと、【回復】かけても治癒力は上がってかないなぁ。まぁでも擦り傷程度なので、とりあえずピオッティさん、ポーションで手当てをお願いします。腕の2か所と、お腹のここら辺。あと、ふくらはぎです。」
恥ずかしさなどおくびにも出さず、的確に指示を出す様子に、イーベとピオッティは目を見張る。
「おやまぁ、レザリック先生みたいだねぇ。分かったよ、任せておきな。
男達は話し合いだろ?さっさとやっといで。」
ピオッティが処置を請け負ってくれたため、3人は居間に移動する。
他の集落の面子も集まったため、早速ファーマスが、今回の騒ぎの概要を説明した。
「・・・つまりは、嬢ちゃんのあの武器狙いの馬鹿が騎士団に居て、魔力制御の腕輪付ける暴挙に出、迷惑被ってると。」
「そういう事だ。『ケルベロス』掃討のこともあり、リンは目立ちすぎた。ほとぼりが冷めるまで、しばらく、ここの守護を任せる事にするので、みんなよろしく頼む。」
「あぁ、分かったよ~。今の話聞いてただけで働きすぎ。ちょっと休んだら良いわぁ。」
「魔力使えなくても、私たちの手伝いは出来るし。問題ないって。」
口々に女性陣が話し、男性陣も、うんうんと頷く。
大概この集落の者たちは、《迷い人》の2人に甘い。
だから、安心して任せられる。
ファーマスはそんな事を思い、一息ついた。
イーベが腕組みしたまま尋ねる。
「腕輪は、いつ取れるんだ?」
「騎士団の出方によるが。団長の都合がつき次第だろうな。まぁ、アイツなら、すぐ来そうな気もするがな。
ま、そういうことで。」
「分かった。それまでは無理させないように、だな。」
話の内容を理解した住民たちは、自分の仕事に戻るべく、それぞれ散っていった。
居間に残ったのは、ファーマスとカンのみ。
ファーマスは、カンに尋ねる。
「・・・ところで、カン。」
「はい。」
「腕輪について何か、考えがあったようだが?」
「上手くいくかは分かンないっスけど、まぁ。・・・師匠、あの腕輪の基本構造を教えてもらってもイイっスか?」
「基本構造?」
首を傾げるファーマスに、カンは言葉を続けた。
「はい。あの腕輪を付けると、何故魔力が使えないのか、その仕組み、っスね。」
「そういうことか。確か、常時魔力を吸い上げ、外に放散してしまうんだ。」
「腕輪の中に溜め込む、とかではなく、放散、っスか。」
「あぁ。だから、魔力を練り上げようとしても、その前に出続けてしまうから、結果魔法が発動されない。」
顎に手を当て、カンは考える。
ーーー つまりは、穴の空いた風船みたいな状態か。
「・・・あの腕輪、本来なら、外す際はどのような手順を踏むんスか?」
「キーとなる魔力を登録しておく事になる。基本、各部隊の副隊長以上だな。この領の部隊は現在8部隊があっから、隊長、副隊長の16人に団長の17人分が登録されている。その内の誰かが魔力を流せば外れる、ってこったな。」
ーーー 指紋認証とかみたいな感じか。
「リンさんに嵌められたのは、改造されてるから、認証が第4部隊の副隊長だけ、って事なんスね?」
「そうなるな。」
ーーー じゃぁ、考えられる方法は。
「何か、方法があるのか?」
「何個か。ま、とりあえず、リンさんが起きてからにします。」
「そうか、ならお前も軽く仮眠を取っておけ。俺も夜通しはキツイわ。一旦家に行く。」
大きく伸びをしたファーマスは、イーベの家から出ていった。
カンは、ピオッティにリンの看病を任せることを伝え、ヴェルをリンの枕元に置く。
そして、左手首に鈍く光る銀の腕輪に手を添える。
しばらく何か考えた後、集落で借りていた家に向かった。
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