転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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森へ帰ろう

88.やっぱり規格外

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ファーマスは、感心していた。
これまでカンが、ここまで理路整然と自分の考えを述べた事があっただろうか。


『変わるもんだな。』


壊れ物を扱うように、リンを大事そうに抱きかかえる姿を見て、思わず笑みがこぼれる。

ーーー これなら、大丈夫そうか。

精神的にリンから自立出来た今なら、2人を離して訓練しても問題はないだろう。

そう思いながら、カンとケネックの話し合いを見守る。

ケネックは、カンの言葉を噛み締め、思い悩んでいる様子だ。


「カン君、君の言いたいことは良くわかった。地に落ちた信用は、それ以上の誠意と献身と態度で、回復せねばあるまいな。
では、どうやって腕輪を取る事を考えようか・・・時間はかかるが、団長とシグルドを、ここまで連れて来るようにするのが君達にとっての得策かい?」

「はい。この集落とまでは言いません。せめてミッドランドの冒険者ギルドであれば。私達の本拠地であるあの場でお願いします。
あと・・・私の方でも試したい事がありますから。」

「試したいこと?」


最後の台詞に、ケネックは首を傾げる。
カンはそれを見て、ニヤリと笑う。


「外す方法について、ちょっと色々。・・・師匠、良いですよね?」

「ん?あぁ、お前に策があるのなら、別に構わん。」


カンの申し出に、ファーマスは目を細める。
コイツが率先して何かをやろうとするのも珍しい、とそう思う。
そして、カンの話はこれで終わったのだろうと判断し、今度はファーマスがケネックに向き直る。


「・・・ケネック、アイザックの動向が決まれば、冒険者ギルドに連絡しろ。リンが使いモンにならない状況であれば、ニースの森限定依頼クエストは『グレイハウンド』内で処理しなきゃならんから、連絡が取りにくくなる。」

「分かりました。必ず団長に伝え、そのように対応させていただきます。」


そしてケネックは姿勢を正し、ファーマスとカンの顔を見やる。


「今回は、当騎士団の騎士の不始末で、不快な思いをさせ、しかもこんな不自由を強いてしまい、誠に申し訳ありません。早急に解決できるよう対応しますので、今しばらくお待ちください。」


そう言って頭を下げたケネックに習い、白鎧の騎士達も一斉に頭を下げた。


「・・・あぁ、分かった。
其方に要求するのは、リンに嵌められた腕輪の解除と馬鹿なことをしでかした第4部隊への対応だ。
道すがら起きた事に関しては、俺の方でもリンに確認するが、其方でも第4部隊の人間達に調書を取るように。
あと、他にも第4が無体を働いていないか確認はしろよ?」

「はい。もちろんそのように対応させて頂きます。」


ケネックは再度頭を下げた後に、右手を胸に当てた敬礼姿勢を取る。


「必ず、団長を連れお詫びに伺います。」

「あぁ。分かった。」




その言葉を合図に、ケネック達白鎧の騎士達は、捕縛したコルトを連れ、ミッドランドの街へ戻って行った。





遠ざかる背中が見えなくなった所で、カンは声をかける。


「ふぅ・・・ヴェル、もう良いよ?」


カンの声に、リンの腕の中の銃は淡く光り、子猫になる。


『にぃ。にぃ。』


子猫ヴェルは、鳴きながらサリサリとリンの頬を舐める。
そして、カンの顔を見上げた。


「大丈夫、疲れていたから眠ってもらっただけだ。」

『にぃ・・・』


再度頬を舐めると、子猫ヴェルはカンの顔を見てから飛び降りる。


「あ、こら。何処に・・・」


一目散に走って行った先は、横たわるクロフの元。


『にぃっにぃっ』


カンはリンを抱えたまま、先程よりも心配そうに鳴く子猫ヴェルに近寄り、確認する。

首近くを斬られているクロフ
息も荒く、一刻の猶予もない様子。

子猫ヴェルは、カンの足に擦り寄り、助けてと言わんばかりに必死に鳴く。


「もしかしてこの馬、リンさんを庇ったの、か?」

『にゃーっ』


カンの問いかけを肯定するように、激しく鳴く子猫ヴェル


「ヴェル、分かったよ。ちょっと待って。・・・師匠、リンさんをお願いします。」


カンは、ファーマスにリンを預けると、クロフのそばに寄り、傷口に手を当てる。
クロフは力無さげにカンを見やった。


「ありがとう、リンさんを守ってくれて。今治すから、ジッとしていてな。
ーーー 【洗浄クリーン】【回復ヒール】 」


カンは、思い切り力を込めて、回復魔法を唱える。

朝日が昇り始め、辺りの森がオレンジ色に輝く中、クロフの身体が金色の光に包まれた。
その光が消え去ると、クロフの傷口は完全に塞がっていた。


「おいおい、ちょっとした間に治療師スキルに、完全回復かよ。規格外すぎんだろ・・・」


呆れたように呟くイーベに、ファーマスは苦笑いを返すしかなかった。


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