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森へ帰ろう
86.仇
しおりを挟む※ 主人公、前回に続き、ガラ悪め。言葉が汚いのでご注意。
※ 胸糞回です。
*******
とりあえず言い合いしたものの、なーんにも解決してませんね。
北門から勝手に奪ってきた(と、私は思っている)馬の弁償について、回答はもらえず。
私の武器を回収するための、明確な法的根拠もなく。
私が貸出したとした場合の、生活保障も明確ではない。
にもかかわらず。
私が騎士団に入りゃ万事解決、って。
アホか?
アホなんだな?
アホじゃなきゃ、こんな夜中に、街道に退治した魔獣を転がしてこないよな。
しかも、『コウラルと同じ』とか、何かよくわかんないキレ方してるし。
あぁ、ウゼェ。
コイツ、ウゼェ。
マジで、ウゼェ。
散々疲れてる最後にコレかよ。
コッチはさっさと片つけて、寝てぇんだよ!
・・・コイツほっといて、塀乗り越えて、家に入ってやろうか?
ダメか。クロフが迷惑するわ。
「・・・ん?」
何処かからか、馬の蹄らしき音が。
つい、と索敵に目をむけると、10個以上の青丸が見えた。
・・・やっと、引き取りに来たのかい。
って、コレが第4部隊なら、森に全力ダッシュだよなぁ。
まだ、気は抜けないかな。
と、思っていたら。
それが隙だったんだろう。
「【束縛】!」
「なっ?」
一瞬反応が遅れた。
振り返ると騎士が距離を詰めてきた。
「くっ!」
後ろに下がろうとしたが、左腕を取られる。
カ・・・シン
金属音がしたかと思ったら、急に身体から力が抜けていく感覚。
後ろに飛び退いたが、距離が取れない。
同時に、酷く揺れる船の上に乗っているような気持ち悪さが襲ってきた。
見ると、左手首に長さが10cm程の金属製の腕輪がつけられていた。
外そうと試みるも、繋ぎ目も分からず、取ることができない。
「なっ・・・」
「・・・やっと捕まえましたよ。それは、魔力制御の腕輪。タルマンに使ったモノよりも強力です。外せるのはシグルド副隊長のみ。」
「ふざっ・・・けんなっ!!」
アッタマきた。
命助けてやった人間にこれかよ。
騎士って何なんだよ。
騎士道精神とか、そんなん夢物語かよっ!
ふざけんな!!!
「魔力が使えなければ、身体強化も難しいでしょう?さて、一緒に来ていただきますよ。」
「だれが、いくかっ!!」
逃げようとしても、足がもつれる。
思わずよろけて、膝をついた。
「強がった所で無理ですよ。貴女が第4部隊に協力すると約束していただければ良いのです。サインを頂ければ、シグルド副隊長が腕輪を外してくれますから。」
形成逆転とばかりに笑みを浮かべ、にじり寄る騎士。
空間収納から、相棒が出て来そうな気配。
ダメだ。
私の魔力が制御されてたら、相棒も力が発揮できるかわからない。
ふ、と目の前に大きな影がよぎる。
『ブルル・・・』
クロフが私の前に立ち、騎士を威嚇しだした。
「クロフ!ダメだ!」
『ヒヒーンッ!!!』
騎士が剣を振りかざそうとしたのを、クロフは立ち上がり威嚇する。
「邪魔だ!!」
「クロフ!逃げて!!」
ザシュ・・・
肉を切る音が聞こえ。
甲高い嘶きが森に響いた。
『ブル・・・』
嘶きの後、クロフが脚を折る。
何だよ。
何なんだよ。
人間より、馬の方が情に熱いって。恩を返すって。
「・・・ざっけんなっ!」
身体がいつの間にか動いていた。
右拳が、騎士の左頬にクリーンヒットする。
「くっ、何を!」
怒りに任せた身体強化は、抜ける魔力以上のスピードで身体を覆ったらしい。
威力は弱いが、よろめかせるくらいはできた。
それも、乱発できるもんじゃない。
それでも、脚を踏ん張って叫んだ。
「馬鹿にすんなぁ!ぜってぇ、お前らなんかに協力なんかしてやらねぇっ!騎士団なんか知ったこっちゃねぇ!こんな卑怯クセェ真似しかできねえ騎士団なんかクソ食らえだぁっ!!!」
「なんだとぉ!!」
騎士が剣を振りかざす。
強化できてないが、腕を振りかぶり頭を庇う。
畜生。
悔しい。
諦めかけた、その時。
ヒュッ・・・
風を切る音が聞こえた。
「ぎゃぁぁ!!」
顔を上げると、剣を持つ手が矢で射抜かれていた。
「リン!!」
「コルト=ラギル!そこまでだ!!」
私を呼ぶ声と、騎士の名前を呼ぶ声が聞こえる。
見ると、集落の入り口で、ここの世話役のイーベさんが弓を構えていた。
そして、私と騎士の間に、白鎧が割り込んで来る。
何人もいる白鎧の騎士たちは、奴を取り囲んで抑えつけた。
その姿を見て少し気が抜けたのか、膝から崩れ落ちそうになった。
「危ない!」
がっちりとした腕が差し出され、それに引っかかるようにして、落下が止まる。
「すいません・・・」
顔を上げると、騎士団第3部隊の副隊長さん・・・ケネックさんだっけ・・・が、私を支えていた。
「大丈夫か・・・って、コレは!?」
彼は私の左手首の腕輪を見て、眼を見張る。
「魔力制御の腕輪じゃないか!何でこんなもんを!!」
イーベさんも側に来て、腕輪を見て憤慨する。
ケネックさんは、私の身体をイーベさんに預けると、縛り上げられた騎士に近寄ると、胸倉をつかんだ。
「コルト=ラギル、この腕輪を外せ!」
「無理ですよ。シグルド副隊長しか外せない特別製ですからね。第4部隊に来ない限りは外せませんよ。・・・戦乙女は、騎士団にこそいるべきなのですから。」
薄ら笑いを浮かべ悪びれもせず、言い切る騎士。
マジでムカつく。
不意に相棒が私の手の中に現れた。私が望んだ訳ではないのだが。
魔力を通して剣先を出そうとしても、上手くいかない。
ストックしている魔法弾はあるけど、上手く出るかは分からない。
魔力が通せない。
だとしたら。
イーベさんから身体を離し、銃を眺める。
「ヴェル、普通のスラッグ弾撃ってもいい?」
いいよ、という感覚が頭を流れる。
それと同時に、スラッグ弾が手に現れた。
魔力がなくても、人をも殺せる道具。
それが銃。
銃身を開放し、スラッグ弾を1発込める。
ガチャン、と若干乱暴に閉め、大きく息をついた。
白鎧の騎士たちに囲まれても、どこか勝ち誇ったような騎士に向かう。
「そいつ、下ろして。」
胸倉を掴み持ち上げているケネック副隊長に声をかける。
完全に目が据わっているだろう私の様子に気圧されたのか、彼は奴を下ろした。
「命を助けた恩人を、ここまでコケにするとは思わんかったよ。・・・アンタなんか助けなきゃ良かった。」
私は静かに銃口を向けた。
奴は顔を引攣らせる。
「私が助けた命だ。私が奪っても問題無ぇだろ?どうせ、あの時レグルパードに殺られてたんだ。その時に戻るだけ。」
「何を言う!やめるんだ!」
「外野は黙ってれ!!」
ケネックさんが止めようとするが、私は止まらない。
死が隣り合わせのこの世界で。
私達は、ぬくぬくと守られてきた。
集落のみんな。
ロイドさん、ザイルさん、レインさん。
ミーナちゃんにオヤジさん。
レザリック先生。
イズマさんに、ベネリさん。
そして、師匠。
でも。その加護から離れれば。
悪意を向けられ、正義を振りかざされ。
ちょっとしたことで、自由が効かなくなる。
ーーー 私でこのザマだ。
全属性持ちで、治療師のスキルまで生えたカン君なら?
・・・もっともっと、危険に晒される。
ココは、日本じゃ無い。
覚悟を決めよう。
「ま・・・魔力が無いのに、どう使える?」
「この子は魔力が無くても使う方法があんだよ。まぁ、アンタの知ったこっちゃ無ぇけどな。」
カチャリ、と安全機を外し、相棒を構える。
「そんなの・・・できる訳ないだろう!」
「煩ぇ。試してやんよ。」
深呼吸して、ゆらりと構える。
頭痛はするが、揺れは止まった。
辺りが白々としてきた。
日は登ってはいないが、撃つには問題は、無い。
引かない私に、奴の顔が恐怖に歪む。
「や、やめてくれぇ!」
「黙れ。」
短く言うと、私は引き金に手をかける。
少しの遊びの後、重い引き金を引いた。
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