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森へ帰ろう
84.お話し、しましょうか
しおりを挟む状態が落ち着いた騎士の様子に安堵し、次にやる事を考える。
現在夜の9の刻を過ぎたあたり。
香を焚き始めたのは8の刻前。
効果が切れるのが、夜中2の刻頃。
結界も3m立方だし、本来なら1人用。今すっごい、きゅうきゅうな状態。
移動するしかないよなぁ。
クロフの背中に、この騎士括り付けて。
結界と魔獣除けの香も、クロフを起点にしといて貰おう。
クロフには速歩程度で走ってもらって。身体強化かけた私が、それに伴走する形でいいか。
方針が決まれば、善は急げ。
「ゴメンね、クロフ。これから森まで移動します。背中にこの人括っていい?」
グルル・・・と、少々不満そうだけど、しかたねーなぁ、という雰囲気。
すまんのぉ。苦労かけるね。
と、言うわけで、さっさと準備して、出発することといたしました。
*
休憩場所から出発して約2時間。
約20kmジョギングしましたともさ。
香と結界のおかげか、道中何ともエンカウントせず。
快適なまでの夜間ジョグでした。
月明かりに照らされた、ニースの森の集落。
帰ってきたーって感じ。
こんな夜中じゃ、不審者だけどな。
集落のみんなの寝る時間は早い。
こんな時間帯に帰ってくる人間なんてそう居ないしね。
だもんで、門はピッタリ閉められております。
まぁ、開くのは5時間後くらいかな。
日が昇ったら、誰彼か起きてくるでしょ。
門の隣でビバーク決定。
空間収納にある、野営道具を出す。
寝袋っぽい敷物を敷くと、クロフの背に括っていた騎士を下ろした。
適当に薪を集めると、焚き火を作る。
異世界道具を使いたいけど、この騎士に見つかると面倒だからね。
色々整えて、一息つく。
クロフも座り、寛いでいる。
集落を囲う塀は、魔獣除けの原料になる木で作られているので、門外でも塀の近くに居れば問題ないだろう。
明日の朝には、騎士団の人達回収に来るといいな。
*
クロフの背に持たれながら、ボーッと焚き火の番をしていたら、視界の端で、動く影が見えた。
どうやら、例の騎士が起きたらしい。
「ここは・・・」
「ニースの森の集落入口。門が開くのを待ち中。」
顔も見ずに、抑揚なく答えてやる。
答えが返って来ると思っていなかったんだろう。凄いビクッ、として、私の方を見た。
「あな、たは?」
「まず、自分から名乗ったら?」
ワザと横柄な態度で接する。
迷惑かけられているんだ。これくらいいいだろう。
あたりを見回して、ちょっとは状況を理解したのか、騎士は佇まいを直す。
「私は、ファルコ領騎士団 第4部隊所属 コルト=ラギル、と申します。貴女が助けて下さったのですか?」
「不本意だったけどね。」
焚き火に枝をくべながら、言いすてる。
さて、どんな反応してくるかな?
明らかに自分より年下に見えている女に。
「あ・・・ありがとうございます。それで失礼ですが、貴女のお名前は?」
おや、一応私がレグルパードから助けた人間なのは理解しているのね?
「私は、リン。冒険者ギルド・ミッドランド支部所属。パーティーは『グレイハウンド』」
「ーーー!!」
相手が息を飲むのが分かる。
面倒だから、嫌味も言っちゃえ。
「今日、『ケルベロス』掃討後に、アンタ達に追っかけ回されて、いらん時間にここまでくる事になった、被害者ですー。」
「それは・・・」
「その上、街道沿いに打ち棄てられた魔獣の臭いに引き寄せられた、レグルパードに襲われた人を助ける羽目になった、タダ働きの人の良い冒険者ですよ。
・・・あぁ、あの街道、今頃魔獣の皆さんが楽しくお食事中じゃないかしら?多分貴方を追っかけてくる騎士団の皆さんがお片づけするだろうから、知ったこっちゃないけど。キレイにしてくんないと、この森の人達が困るんだよね。」
ホントに自分がしでかした事で、多方面に迷惑かけてんの分かってんのかな?
「打ち棄てて、って、貴女は!?貴女だって、打ち棄ててきたのではないですか!?」
「・・・アンタが通ってきた街道に、魔獣の死体はあったの?血の臭いはしていた?」
ぐ、と言葉を飲む騎士。
「してないよね?そんな事したら呼び寄せるの知ってるから、私は全部回収してきてるし。」
「全部?!そんな事ありえるか!」
真夜中に騒ぐなや。近所迷惑だ。
あの街道でアグウルグ何体倒したっけなぁ?
空間収納を覗いてみる。
・・・34体入ってんなー。10体くらいはそもそも持ってたから、20体ちょっとかな?
これに、黒豹と馬の死骸。
大人気なく、全部出してやった。
「と、まぁ、全部もってきてるけど、何か?あ、ちなみにその死んだ馬、北門の衛兵さんたちの馬でしょ?ちゃんと弁償するんでしょうね?第4部隊さんは。」
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