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森へ帰ろう
83.人体実験
しおりを挟むとりあえず、レグルパードは倒した。
意外に呆気ない。
大分身体の使い方に慣れたから、かなぁ?
単独でもイケるようになってきたよ。
さて、本題。
例の騎士は、どうしたかなぁ?
と思って振り返ると、『ドサッ』という音と共に、ちょうど倒れるのが見えた。
・・・気絶かよ。マジかー。
誰が安全地帯まで運ぶんだよ。
悲しみにサヨナラしてやろうか、この野郎。
・・・ダメだ。
疲れてるから変なテンションだ。
まぁ、あの極限状態だったから、救援がきて、安心したんだろうなぁ。
仕方ねぇ。運ぶかぁ。
さら、と索敵で見渡し、この周囲には何もいないことを確認する。
レグルパードと馬の死体は回収し、生活魔法で水を集め、地面を洗い流す。
・・・なーんか、800m程先の街側の道に、赤い点がわらわらしてきているなぁ。
この騎士、道すがらエンカウントした魔獣を倒して、そのままにしてきたな?
ご飯一杯だねぇ。バイキングし放題だ。
「・・・そこまで面倒見きれるかぁっ!」
セルフ突っ込みを入れて、考えを切り離す。
多分この騎士を追っかけて来るであろう後続の騎士達に、後始末を任せる事にする。
この街道の終着点はニースの森の集落。もう途中に村なんかはない。
集落の人たちは、みんな森にいるし、基本外部から人は来ない。集落の人が移動する時は、『グレイハウンド』の誰かが護衛につくし。
と言うわけで、この道を近々通るのは、騎士団絡みの人達と判断する。
まぁ、頑張れや。
部隊が違おうが何しようが、私から見りゃ『騎士団』で括られるんだ。
尻拭いしたらいいさ。
今私がする事は、この騎士をクロフの居る安全地帯まで連れて行くこと。
ザンギ食べてきたから、まだ体力、魔力に余裕はあるけど、一応魔力回復ポーションは飲んでおく。
「相棒、このまま空間収納に入れるね。」
一応断りをいれて、銃形態の相棒をしまう。
「さて、いくかぁ。」
大きく息を吐き、身体強化をかけ直すと、完全脱力中の騎士を肩に担ぎ、元きた道を走り始めた。
***
10分ほど走り沢に戻ると、結界の中でクロフが寛いでいた。
私の顔を見ると立ち上がり、ブルル、と嬉しそうに鳴く。
「ただいまクロフ。調子どうかな?痛くない? 」
私の言葉を完全に理解しているのか、問題ない、とでも言うように、クロフは頭を擦り付けてくる。
後脚を確認すると、ほぼ怪我は治っている。
元気そうでなにより。
で、だ。
この騎士の治療、どうしよう。
レグルパードに襲われて、あちこち傷だらけ。
身体強化は使っていただろうから、致命傷はないみたいだけど。
脱がして処置するのも、癪に触る。
起きてポーション飲んでくれるのが、手っ取り早いけど。
回復魔法使えりゃ、テキトーにかけれるのになぁ・・・
「あ。」
クロフの治療の際に、思ってたこと。
ーーー 回復魔法を、撃つ。
「・・・試してみようか、な。」
うん。そうしよう。
今日の打ち上げ、参加できなかったし。
『陽だまり亭』で休めなかったし。
こんな時間に、森に行かなきゃなんなくなったし。
思い返すと、腹立ってきた。
よし、実験に付き合って貰おう。
許可はとらんが、な。
いそいそと、相棒と弾を取り出す。
弾に込める魔法は、ゲームでよくあるような【治癒】をイメージする。
私が直接使えるのは生活魔法と身体強化。
攻撃魔法がダメなのかと思いきや、回復魔法もダメだった。
ポウ、と手の中で光った金色の光が弾に集束される。
つくづく不思議。
弾には吐き出せるのに、人間相手には無理って、ねぇ?
相棒の銃身を折り、手にある一発の弾を込める。
カチリ、と銃身を戻すと、相棒を構えた。
・・・どこに向けよう。
構えたまま、銃口が彷徨う。
頭、ないなぁ。
心臓、効きそうだけど、気分的になぁ。
やっぱり、足?心臓から遠いし。
・・・エグい事になっても、ポーションで処置の仕様があるから、ね?
心の中で言い訳を羅列し、照準を傷だらけの左脚に向ける。
・・・やっぱり、銃口を人に向ける抵抗感が強いなぁ。
猟銃は、基本的に殺傷の道具だし。
先輩達から人に向けんなって、口酸っぱくして言われてたから。
回復魔法を疑っちゃダメだ。
私が迷ったら、相棒も困る。
何度か深呼吸して、構え直した。
「いきますっ。」
自分自身に言い聞かせるように宣誓し、引き金を引いた。
タン・・・
魔獣を倒す時とは違う、柏手のような 軽い音が鳴り、金色の光が左脚までの軌道を描いた。
左脚に着弾した光は、瞬時に全身を駆け巡る。
そして、何か所かが強く光り、やがて吸い込まれるように消えていった。
「【発光】」
生活魔法に分類される光を呼び出すと、小型LEDライトのような丸い光が指先に現れる。
狙った左脚の怪我を確認する。
薄っすらとした引っ掻き傷は残っているが、血は止まり、ほぼ治っている。
鑑定をかけてみると、『疲労による衰弱』とある。怪我の影響はなくなったようだ。
「よかった・・・」
失敗しなくて。ホントに。
さ、これで引き出しが増えたぞ?
回復や支援魔法を相棒で飛ばせるってことだ。
有効射程範囲が広がれば、ベネリさんの支援が届かない所もカバーできるから。
コルトさん?ってお名前の騎士さん。
お身体の提供、ありがとうございました。
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