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森へ帰ろう
82.戦乙女(コルト視点)
しおりを挟む北門を抜け、ニースの森までの道を馬に跨りひた走る。
自分の今の姿は、街での警戒用の軽鎧であり、装備も物品も心許ないが、『黒持ち』である彼の女性を【拘束】する程度で有れば問題がない。
どんなに素早く動こうが、自分の無属性魔法である【拘束】は、どんな者でも絡め取る事が可能だ。
副団長以上のレベルであれば、力任せに振り切る事ができるが、それでも足留めは可能。
それがために、イズマの動きを阻害し、ダグに削らせる事ができた。
今までに全く効かなかったのは、ファルコ領騎士団団長であるアイザックくらい。
あんな化け物は、自領内では団長と『グレイハウンド』の生ける伝説ファーマス位であろう。
しかし、そのファーマスであっても、近年はB級ライセンスで燻っていると聞いていた。
衰えた過去の英雄に囲われていた所で、彼の女性に、そこまでの力はあるまい。
【拘束】の後に、魔道具である魔力制御の腕輪を付ければ問題ない。
魔力制御した状態で、騎士団に、強いては第4部隊に協力すると、契約できれば良いのだ。
きっと、自分の後を第3部隊が追ってくるであろう。
それまでに片を付ければ良い、
勝算はある。
そう考えながら、先を急いだ。
***
ニースの森に近づくにつれ、街道が鬱蒼とした木々に囲まれていく。
薄曇りの月明かりの元、馬を走らせる。
索敵を最大限まで広げる。
自分の索敵範囲は半径300m。
この範囲は、自領騎士団の中でも指折りだ。
索敵のかけっぱなしは魔力枯渇に結び付くため、あまり魔力を使わないで済む気配探知も併用する。
この付近に出る魔獣は、クラスCのアグウルグ程度。
襲いかかってくるアグウルグを都度倒して捨て置き、先へ急ぐ。
順調だった。
森への道のりの半分までは。
次第に、アグウルグの気配がなくなっていく。
馬も疲れが出てきたため、速度を落として進む事とした。
その時。
急に背後に悪寒を感じる。
慌てて索敵をかけようとしたが、黒い影に襲われた。
辛うじて馬から飛び降り、体制を立て直す。
馬の嘶きが暗闇に響く。
そのまま絶命した馬の首元に、黒い魔獣が喰らい付いている。
「そんな・・・」
そこにいるのは、黒いレグルパード。
クラスBの魔獣。
単独討伐など、無理だ。
ーーー せめてダグが居てくれれば。
2人なら、何とかなったかもしれないのに。
思わず唇を噛み締めた。
「ここで諦められるかっ!」
すら、と剣を抜き、魔獣に向けて構える。
気配を感じたのか、黒のレグルパードは、馬から口を離すと、ゆらりと自分の方に向き直る。
ーーー どんなことになっても、最後まで足掻いてやる。
『グァルルル!!』
黒のレグルパードは、血塗れの牙を剥き出しにして、襲いかかってきた。
【拘束】を使っても、即振り払われ、襲いかかる爪を凌ぐのに精一杯。
魔力も枯渇に近い。
けれど、ポーションを飲む暇はない。
段々と追い詰められるのが分かる。
レグルパードは、一気に仕留めようとせず、甚振って遊んでいるようだ。
苛だたしいのに、手も足も出ない。
意識も、朦朧としてきた。
ーーー ここまで、か。
構えていた剣が落ちそうになった、その時。
「ふっせろぉっっ!!!」
背後から、女性らしき声での怒号が聞こえた。
振り返ると、凄い勢いで接近する人が見える。
呆然としていたら、片手で街道脇に吹っ飛ばされた。
尻餅をついた先で見たのは。
自分が手も足も出せなかった黒のレグルパードが、見たことのない体術と剣で蹂躙されていく様子。
凄まじいまでの魔力を纏うその人は、レグルパードを蹴りつけると、一気に距離を置いた。
苛立ち、今にも飛びかかろうとするレグルパードの前に自然体で立ち、その見たことのない剣の様な武器を担ぐように構える。
次の瞬間。
ガァン・・・
雷鳴の様な、凄まじい音が鳴り響く。
その後の静寂を、薄雲の間から差し込む月明かりが照らし出した。
ーーー 自分は、夢を、見ているのだろうか。
氷像のような氷の杭に穿たれたレグルパードの前に佇むのは。
一本に纏めた黒髪を靡かせて、月明かりのスポットに立つ、女性。
「・・・戦乙女・・・」
あまりに神々しいその姿に、思わず呟いた。
ーーー 女神に救われた。
そう思った途端、意識が途切れた。
**************
※ 明日は本編お休みして、ちょっと設定説明です。
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