81 / 393
森へ帰ろう
79.追撃(第三者視点)
しおりを挟む「なっ!!」
「待ちやがれ!!」
いきなりの『黒持ち』の逃走に、コルトとダグは呆気に取られる。
「させねーよっ!」
イズマはコルトの剣先を避け、『黒持ち』を追いかけようとしたダグを蹴り飛ばす。
「くっ!」
イズマの背の向こう、馬が遠ざかっていく。
イズマを2人で攻撃すれば、必ず『黒持ち』は助けにくる。
そこを拘束する算段でいたのに。
よりにもよって、逃げるとは。
仲間を守る矜持など、ないのか。
「騎士様の矜持にはない、って顔してんな。」
コルトの思いを読んだかのように、イズマがまた笑う。
「これだから、冒険者はっ!」
自分が良ければ、それで良いのか。
苦し紛れに、相手を下に見るように、呟く。
「冒険者、だからだよ。逃げても何しても、目的が果たせられるんなら勝ちなんだよ。今回は、アイツ自身がお前らに渡らなければ良いんだ。その為なら・・・俺が囮になる。そのつもりのリーダーからの指示だしなぁ。」
「ほざけぇ!!」
蹴り飛ばされたダグが、体制を立て直しイズマに突っ込んでいく。
それに合わせるように、コルトもイズマに襲いかかる。
いくら伝説級の元騎士、ファーマス率いる冒険者パーティー『グレイハウンド』の構成員とはいえ、騎士2人がかりなら。
コイツを倒して、『黒持ち』を追う。
コルトの剣戟と、ダグの拳撃。
イズマは体術メインの短剣使い。
受け流されながらも、2人は、徐々にイズマを押し始めた。
身体強化を使用していたのだろうが、15分近くも全力の2人相手に使い続けていたら、魔力枯渇に近いだろう。
徐々にダメージが通るようになってきた。
「オラァ!!」
「ちっ!」
「さっさと倒れなさいっ!」
「ガハッ」
ダグの頭部狙いのラッシュを捌いていたイズマの胴がガラ空きになった瞬間を狙い、コルトは剣で斬りつける。
イズマは斬りつけられた衝撃を緩和すべく、バックステップで下がるが、殊の外ダメージが大きかったのだろう。
腹部を抑え、片膝をついた。
「いい加減、先に行かせてもらいますよ。」
「おい、コルト。コイツ落としてもいいか?」
余程鬱憤が溜まっているのだろう。
ダグは、ゴキゴキと拳を鳴らし、イズマに向かう。
「勝手にしなさい。」
「へいへい。」
コルトは興味なさげに言い放つと、門兵が使用する馬を取りに行く。
背後からダグの楽しそうな声が聞こえてきた。
「散々コケにしてくれたなぁ。受け流すのが精一杯だったくせによぉ。」
「・・・はっ、受け流ししか、しない、冒険者1人に、手間取るとは・・・騎士様も・・・大したこと・・・ねぇなぁ。」
「っうるっせぇ!」
イズマの挑発に、ダグはまた怒りを露わにする。
ゴッ、という殴打音の後、倒れこむ音がする。
「けっ、時間稼ぎしたつもりだろうがな、無駄だよ。大事に庇ってたようだけど、存分に狩って、可愛がってやるからなぁ。」
「ダグ、行きますよ。」
まだ終わらない同僚のリンチに、辟易した様子でコルトは声をかける。
地面に倒れこんでいるイズマは、肩で息をしながらも、薄っすらと笑みを浮かべた。
まだ気持ちが折れていないその様子に、ダグの苛立ちが加速する。
「何がおかしい!!」
「なん、の、ために・・・時間を、かせ、いだと・・・」
「黙れぇ!」
ダグは、イズマを踏みつけようと、足を振り上げた。
その時。
「【暴風】!」
「ぐぁぁぁぁ!!」
ダグの身体が一瞬にして、竜巻に包まれ、風の刃に斬りつけられた。
コルトは何が起こったか分からず目を見開く。
「イズマ、だいじょぶ~?」
「・・・おせぇ、よ。ベネ・・・ゴホッ」
「第4部隊、ダグ及びコルト!冒険者イズマ殿への私闘を仕掛けた嫌疑で、身柄を確保する!」
そこに居たのは、『グレイハウンド』の構成員である魔法使いベネリ。そして、第3部隊の面々。
ーーー その為の時間稼ぎ。
『黒持ち』を逃がすだけでなく、増援を呼ぶ算段までしていた、とは。
手を出さないで、受け流ししかしなかったのは、私闘された、という証明にするため。
ーーー つくづく、面白く、ない。
「コルト殿、何故このようなことを?」
第3部隊の連中がにじり寄る。
ーーーこれが彼らの筋書きなのであれば。我々は、我々の筋書きを完遂するまで。
ぎり、と唇を噛んだコルトは魔力を練り上げる。
「【閃光】【拘束】!!」
コルトは、北門全体を範囲とした、足留め魔法を放つと、馬に飛び乗り、ニースの森へ向けて駆け出して行った。
***
コルトを取り逃がした第3部隊の面子は、追いかけるためバタバタと駆けずり回り始める。
衛兵が使う馬は、1頭はコルトに奪われ、2頭は先の閃光で使いものにならない。
そんな様子を傍目に見ながら、ベネリはイズマの側に寄り添い、回復魔法をかけ始めた。
「あーぁ、逃げちゃったねー」
「ベネ・・・追っかけ、ろ・・・よ・・・。」
地面に倒れ込んだまま、息絶え絶えにイズマは呟く。
「追っかけんのは、騎士団のお仕事でしょ?イズが身体張って、俺が一匹抑えてやったのに、逃したのはアイツらなんだから。・・・俺の今のお仕事は、お前に回復かけて、レザ先生のトコに連れてく事ですー。」
「おま・・・え・・・」
「まぁ、明日、森には向かうよ?俺かファーマスさんかは分からんけど。」
「そ、か・・・」
「だから、イズは寝てていーよ。任務お疲れ。」
「あぁ、たの・・・む・・・」
怪我と疲労と安心とで、イズマはふ、と、意識を飛ばした。
リーダーからの任務に忠実だった幼馴染を労うように、ベネリはそっと頭を撫でる。
「リンちゃんは、だいじょぶ。お前がぎっちり体術仕込んで、あの闘い方なんだからさ。一対一なら、あんな奴に引けを取らない、よ。」
リンの強さも、それを仕込んだ幼馴染の仕事ぶりも信じていると言うように、ベネリは微笑んだ。
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。



婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる