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森へ帰ろう
77.焦燥(第4部隊視点)
しおりを挟むダグとコルトは焦っていた。
『黒持ち』がギルド会館を後にし、『グレイハウンド』が定宿としている『陽だまり亭』に入ったことは分かっていた。
出て行った様子がないのに、宿の中には居ない様子である。
店員の娘に呼び出しを頼んだが、「呼び出したが出てこない。部屋を確認したが居なかったので、出かけたのでは?」と返される。
おかしい。
コルトは、娘に頼んでみることとした。
「娘、済まないが、彼女の部屋を改めさせてもらいたい。」
「え、でも。お客様の許可なしに勝手はできません。」
「事件に巻き込まれる可能性があるのだ。頼む。」
「ですが・・・」
押し問答を繰り広げていると、店の奥から店主らしき男が出てきた。
「騎士様、一応こちらも客商売だ。正当な理由が無い限りは、客の部屋に入れられない。一体あの子が何をやらかしたってんだい?」
「彼女の持つ武器について、ちょっとした嫌疑がありましてね。それを解決するためにも、早く彼女と連絡を取りたいのですよ。」
心底心配している風の顔でそう告げ、店主の顔を伺う。
「分かった・・・ただ、俺も立ち会わせてもらう。あの子やファーマスの旦那たちが戻ってきたら、アンタ達が入ったことは報告させてもらうからな。」
「あぁ、それで構わない。」
店主は、厳つい顔で告げ、娘から鍵を受け取る。
中に入れてしまえば、とりあえずはなんとでもなる。
ダグに入り口を張っているよう告げ、コルトは店主と共に客室へ向かう。
*
店主に案内され入った部屋は、さっきまで人が居ただろう雰囲気だった。
テーブルには水差しに水が入って、飲みかけのコップが置かれている。
ベッドの寝具は少し乱れており、横になっていたのか、と思われた。
しかし、違和感を感じる。
あえて、部屋を作ったような・・・
「騎士様、あの子は空間収納使えるようだし、荷物は置いてねえと思いますよ?」
店主がコルトに話しかける。
コルトもこれ以上の収穫がないと思い、ため息をついた。
「そうか・・・ん?」
ふ、と見やったテーブルの上。
西日に照らされ何かが光った。
コルトはテーブルに近づいて、それを手に取る。
「髪の・・・毛?!」
手に取った1本の長い髪の毛は茶色。
先程の店員の娘の髪色は緑系。
ここの部屋の主は黒。
ーーー まさか!
先程、宿の前ですれ違った兄妹を思い出す。
ーーー やられた!
あの兄妹の変装をし、この宿を抜け出たのであろう。
街を出られると、確保は難しい。
ぎり、と唇を噛む。
「店主すまない。助かった。また別な所を探す。」
コルトは慌ただしく部屋を出ると、ダグを連れて、『陽だまり亭』を後にした。
その様子を見た、店主親子はため息を吐く。
「少しは時間稼ぎになったか。」
「だといいけど・・・。しかし、上手いこと言うもんなんだねぇ。」
部屋に押し入るための口上を思い出し、ミーナは頬を膨らませた。
店主は娘の愚痴を頭を掻きながら聞く。
「まぁ、向こうも仕事だからなぁ。」
「でも、これは、仕事ではないじゃない?ふざけてるわぁ。」
「とりあえず、俺たちのやれる事はやった。全て終わったら、話を聞こう。さ、仕事仕事。」
「はぁーい。」
娘の怒りは最もだ、と思いながら、店主はいつも通りの仕事に戻っていった。
***
「変装だって?!」
「あぁ、多分。宿に入る前にすれ違った兄妹。アレだ。」
宿を出てからコルトに説明されたダグは、一瞬すれ違った兄妹を思い出す。
伏し目がちだった妹の色彩が違うと感じたのは。
「何か違和感があったが・・・思い返せば、目が黒目だったんだ。畜生っ!バカにしやがって!」
ダグは、声を荒げ悪態を吐く。
コルトはそんなダグの様子を見て、逆に冷静になっていく。
「ここから移動したとなれば、例の治療院ではないか?乗合馬車はもう無い。移動にしても馬が必要な筈だ。」
「くっそ!ぜってー捕まえる!」
「とりあえず、急ぐぞ。“森”に行かれては手が出せなくなるからな。」
2人は、『グレイハウンド』に協力しているとされる治療院を目指して、走り出した。
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