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森へ帰ろう
76.逃走ついでにお使いも
しおりを挟む※ 未だ森に帰れず。
章名変更しておりますm(_ _)m
**************
『陽だまり亭』の周りで、不審に動く青丸を探知はしていた。
外に出ると、騎士っぽい格好をした人がこちらに向かって来るのが見えていた。
「ねぇ、お兄様?本日中に村に行けますでしょうか?」
「あぁ、あとはレザリック先生に頼んでいた薬の引き換えだけだから、大丈夫だろう。」
「ふう。これで、おじい様が元気になってくれると良いのですけれど。」
治療院を目指し、街中を通り過ぎて行く仲の良い兄妹。
・・・という、設定の私達。
イズマさんとの、即興芝居も慣れてきたなぁ。
楽しくなってきたよ。
お兄様呼ばわりは、某魔法科で劣等な高校生とか、言わないよ?
とりあえず鼻にかかるような感じで、声のトーンは上げてみた。
イズマさんは、心持ち低い感じな声。
「まさか薪割り中に腰を痛めるとはなぁ。」
「元気なうちはあの村で、とは言っていましたが、そろそろ限界かもしれないですね。とりあえず、私が数日様子を見ますね?」
「あぁ、すまんが頼むな。」
騎士達は、私達を一瞥し、入れ違う形で『陽だまり亭』の中に入っていく。
それを視線の端で確認すると、イズマさんが呟く。
『少し早足で。』
『了解。』
私達は不自然にならない程度に、治療院まで急いだ。
***
治療院までは、まだ追われてはいない様子。
中に入ると、レザリック先生が患者さんの対応をしていた。
「こんにちは~レザリック先生、薬を取りに来ました~。」
変装中なので、勘違いされても困ると思い、声のトーンは戻して声かけしてみる。
「はいはい・・・・・・薬だね。こちらの対応が終わったら出すので、奥に行って待っていてくれるかな?」
「わかりました。お邪魔しまーす。」
レザリック先生は、一瞬目を丸くしたものの、他の患者さんの手前、何食わぬ顔をしてプライベートスペースに行くように促してくれる。
私達は、すんなり居間に向かう。
*
「そろそろ、『陽だまり亭』の状況がバレる頃ですかね・・・変装したまま、街出た方が良いんでしょうか?」
「一応、設定のまま行く。馬は1頭相乗りで。攻めがあれば、俺が囮になる。リンお前はどんな事があっても、戦わず森に行け、良いな?」
「でも・・・」
そもそも、私の銃が発端で。
戦うなら、私も。
そう言いかけたのを、イズマさんが遮る。
「ファーマスさんも言っただろう?お前の仕事は森に戻ることだと。
『ケルベロス』は、ある意味冒険者ギルドが発端の問題だったから、あの結末で問題ない。
でも今は騎士団が絡む。お前が直接手を出したら、お前が拘束される理由を提供することになる。
俺達の勝ちは、お前と銃・・・ヴェルが騎士団の手に墜ちず、ニースの森に入る事。・・・いいな?」
「わかり、ました。」
いつになく真剣で饒舌な様子のイズマさんの迫力に、大人しく頷く。
少し待っていると、レザリック先生が慌ててやってきた。
「2人とも、何があった?」
先生の心配に、イズマさんが現状を端的に伝える。
話を聞いているうちに、レザリック先生は眉間を抑え始めた。
「はぁ、次から次へと忙しいな、君らも。」
「ですねぇ。」
「仕方ない。とりあえず、設定用の腰の薬はコレな。あと、守護者への直接依頼状。期限はないから、ゆっくりやってくれ。」
先生から渡された依頼状には、数多くの薬草類や素材が書かれている。
通常ニースの森の素材については、商業ギルドが一手に引き受けることとなっているが、先生だけは領主権限により、先生が使う分だけ直接やりとりが可能らしい。
これで、私が森に行った後の仕事が出来たこととなる。
「分かりました。頑張ります。」
「リン、そろそろ出るぞ。」
ちょっとほのぼの仕掛けた空気をイズマさんが遮る。
索敵範囲を広げると、怪しい青丸がこちらに向かっているのがわかる。
「馬は裏にいる。裏口から出て行きなさい。」
先生は、それだけ言い、治療院受付に戻っていった。
言われた通り裏口から出ると、毛並みの良い馬が一頭。
イズマさんは手早く鞍を付けると、馬に飛び乗る。
「来い。」
差し出された手を取り、馬の背によじ登ると、イズマさんの前で横座りの姿勢をとった。
索敵上、治療院の中に不審な動きをする青丸が2つ入る。
「敵影2。建物内1、外周に1と思われます。」
「あぁ。出発しよう。」
私の報告にイズマさんは頷くと、静かに馬を歩かせた。
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