転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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森へ帰ろう

75.執着(第三者視点)

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「お前、何考えてんだよ。」


ケネックはギルマス部屋で暴走したシグルドを治療室に連れ、ギルドの治療師に手当てを行なってもらっていた。


「・・・あの武器は、この国には無い物。あれだけの範囲攻撃が可能な上、近接戦闘も可能なのだぞ?あの武器があれば、戦い方も変わる。冒険者1人の持ち物にしておいて良い訳がない!」

「彼女は最初に、自分専用の魔道具だから誰にも取り扱えない、と、断ったぞ?構造、理論も秘匿だと。つまりは、複製が不可能だって事だろうが。」


はなから、あの武器の持ち主である『黒持ち』の彼女は、こちらに武器を貸すことを躊躇っていた。

交流を持ち、彼女と仲良くなればもう少し話を聞く事が出来たかもしれないが、こうなってはもう無理だろう。
話の持って行き方を間違えているだろう?と、ケネックはたしなめたつもりだった。


「やって見なくては分からんでは無いか!」

「あれだけ、防犯装置が働いたにも関わらずか?あの状態で、どう分析するって言うんだ。鑑定でも詳細が見えない代物を。」

「煩い!」


同僚の久々の武器狂いを見て、眉を顰める。

ーーー コレは、ちょっとヤバそうだ。

ケネックは、強めに静止する事とした。


「わかった。この件については、団長にも報告をあげさせてもらう。」

「何だとっ?私は騎士団のためにっ」

「だってそうだろう。あくまで俺たちは、合同演習中に人為的に起こされた魔獣暴走スタンピートの調査、そして、犯人の捕縛のために冒険者ギルド側と協力体制を敷いていた。ただ、それだけだ。
彼女の武器を回収する事は任務では無い。お前の知識欲による独断だ。
その所為で、これまで良好な関係にあった冒険者ギルド側と険悪になるのは、見過ごせない。
騎士団としての方針ではない事を、冒険者ギルド側に理解してもらう必要があるからな。」

「くっ。」


シグルドは、忌々しげにケネックを見やる。
そんな様子にも、ケネックはため息をついた。


「言われたくなければ、大人しく戦勝会に参加して、帰れ。」


その言葉に、シグルドは不服そうに頷くと、苛立たしげに治療室を出て行く。


ーーー 諦めていなさそうだな。


とりあえず、シグルドの動きをチェックしつつ、ファーマスには謝罪がてら注意を促しておこうと、考えていた。



***



ケネックに釘を刺されたシグルドは、イライラしながら会場に向かった。


「シグルド副隊長どうでしたか?・・・てか、ダメそうっスねぇ。」

「右手どうしたのですか?」

「お前らか・・・」


視線の先に居たのは、第4部隊の腹心たち2人。
彼らシグルドの右手に巻かれた包帯を見て、顔色を悪くする。


「あの武器の詳細は全く見えなかった。そして、剣の仕掛けを作動させようとしたら、爆発した。」

「何ですって?!」

「防犯装置と言っていたが、そうではない何かがある。持ち主にしか使えない、のであれば・・・」


シグルドの目が剣呑に光る。


「ダグ、コルト。どんな方法でも構わん。第4まで・・・」

「りょーかいっす。」

「分かりました。」


皆まで言わずとも、第4部隊の面子は、副隊長の意を理解する。
そもそも第4部隊自体が武器狂いの集まりであり、未知の武器に対する執着は凄い。


「先程、イズマと彼女の2名が会館を出たとの話。追います。」

「任せる。私はケネックの手前、身動きが取れない。」

「送っちゃって構わない、って事ですね。では。」


腹心2人は、イズマとリンがギルド会館を抜け出して程なくして、その姿を追い、雑踏に消えていった。



***



戦勝会は滞りなく進む。
ただ、『黒持ち』の彼女とイズマがいない。

付与付き料理の説明は、商業ギルドのレイン副ギルマスが行なった。あとは、『黒持ち』の彼が軽く話した程度。

ケネックは、あたりを見回す。
第4部隊副隊長のシグルドは居るが、彼の腹心である2名の騎士の姿が見えない。
第4部隊の懸念を伝えるべく、ファーマスに近寄る。


「ファーマス先輩。先程は申し訳ありません。」


ファーマスは目線をケネックに向ける事なく、周囲を警戒していた。


「現在進行形で、迷惑被ってっけどな。」

「それはっ・・・」


ケネックの目が見開く。
自分は、まだ何も伝えてはいない。


「お前には悪いが、さっきの状況から警戒しない方が無理だろ。リンにはイズマをつけている。すでに移動も開始している。
・・・案の定、騎士団も居ない奴がいるようだしな。」


静かな、それでいて圧倒的な威圧を持って告げられる。
ケネックの背中には、尋常じゃないほど汗が流れた。


「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。この件に関しては、騎士団としては動いていません。第4の暴走となります。私は戻り次第、我が部隊の隊長及び団長へ報告を行い、対処させて頂きます。」


内心ビビってしまっているのをおくびにも出さぬように、第3部隊副隊長として毅然と答える。

この人は身内には優しいが、義理を欠く行為はとても嫌う。
今回は、彼が特に大事にしていたであろう『黒持ち』に、第4がちょっかいを出した形だ。

状況によっては、彼が完全に騎士団と敵対してしまうという事。
敵対を表立っては提示しないだろうが、彼が冒険者として活動していることによる恩恵が、騎士団側として受けられない事となる。

それに。
目の前の彼は、自分の可愛い弟が尊敬し止まない人物。
この状況を打破できなければ、自分が弟に嫌われる。

ぶっちゃけ、シグルドも第4もどーでもいい。
弟に嫌われてしまうという未来は耐えられない。

そこまで考え、ケネックはファーマスに礼を取った。


「分かった、騎士団側についてはお前の対処に任せる。・・・万が一、リンに手を出してみろ。その時は、全力を持って相手すると、アイザックに言っておけ。」

「はい。」


ーーー 簡単に、団長の名前を出してくれる。

未だに衰えることのない影響力に身震いがする。
どんな事があっても、彼はその力を使う事は無かったが、今回は違うらしい。
・・・やはり、あの『黒持ち』は特別なのだろう。


ーーー 面倒くさいことしてくれやがって。


威圧を解き、その場を去るファーマスの背を見送りながら、ケネックは第4部隊が引き起こした事態に頭を抱えるしかなかった。


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