77 / 393
森へ帰ろう
75.執着(第三者視点)
しおりを挟む「お前、何考えてんだよ。」
ケネックはギルマス部屋で暴走したシグルドを治療室に連れ、ギルドの治療師に手当てを行なってもらっていた。
「・・・あの武器は、この国には無い物。あれだけの範囲攻撃が可能な上、近接戦闘も可能なのだぞ?あの武器があれば、戦い方も変わる。冒険者1人の持ち物にしておいて良い訳がない!」
「彼女は最初に、自分専用の魔道具だから誰にも取り扱えない、と、断ったぞ?構造、理論も秘匿だと。つまりは、複製が不可能だって事だろうが。」
はなから、あの武器の持ち主である『黒持ち』の彼女は、こちらに武器を貸すことを躊躇っていた。
交流を持ち、彼女と仲良くなればもう少し話を聞く事が出来たかもしれないが、こうなってはもう無理だろう。
話の持って行き方を間違えているだろう?と、ケネックはたしなめたつもりだった。
「やって見なくては分からんでは無いか!」
「あれだけ、防犯装置が働いたにも関わらずか?あの状態で、どう分析するって言うんだ。鑑定でも詳細が見えない代物を。」
「煩い!」
同僚の久々の武器狂いを見て、眉を顰める。
ーーー コレは、ちょっとヤバそうだ。
ケネックは、強めに静止する事とした。
「わかった。この件については、団長にも報告をあげさせてもらう。」
「何だとっ?私は騎士団のためにっ」
「だってそうだろう。あくまで俺たちは、合同演習中に人為的に起こされた魔獣暴走の調査、そして、犯人の捕縛のために冒険者ギルド側と協力体制を敷いていた。ただ、それだけだ。
彼女の武器を回収する事は任務では無い。お前の知識欲による独断だ。
その所為で、これまで良好な関係にあった冒険者ギルド側と険悪になるのは、見過ごせない。
騎士団としての方針ではない事を、冒険者ギルド側に理解してもらう必要があるからな。」
「くっ。」
シグルドは、忌々しげにケネックを見やる。
そんな様子にも、ケネックはため息をついた。
「言われたくなければ、大人しく戦勝会に参加して、帰れ。」
その言葉に、シグルドは不服そうに頷くと、苛立たしげに治療室を出て行く。
ーーー 諦めていなさそうだな。
とりあえず、シグルドの動きをチェックしつつ、ファーマスには謝罪がてら注意を促しておこうと、考えていた。
***
ケネックに釘を刺されたシグルドは、イライラしながら会場に向かった。
「シグルド副隊長どうでしたか?・・・てか、ダメそうっスねぇ。」
「右手どうしたのですか?」
「お前らか・・・」
視線の先に居たのは、第4部隊の腹心たち2人。
彼らシグルドの右手に巻かれた包帯を見て、顔色を悪くする。
「あの武器の詳細は全く見えなかった。そして、剣の仕掛けを作動させようとしたら、爆発した。」
「何ですって?!」
「防犯装置と言っていたが、そうではない何かがある。持ち主にしか使えない、のであれば・・・」
シグルドの目が剣呑に光る。
「ダグ、コルト。どんな方法でも構わん。第4まで・・・」
「りょーかいっす。」
「分かりました。」
皆まで言わずとも、第4部隊の面子は、副隊長の意を理解する。
そもそも第4部隊自体が武器狂いの集まりであり、未知の武器に対する執着は凄い。
「先程、イズマと彼女の2名が会館を出たとの話。追います。」
「任せる。私はケネックの手前、身動きが取れない。」
「送っちゃって構わない、って事ですね。では。」
腹心2人は、イズマとリンがギルド会館を抜け出して程なくして、その姿を追い、雑踏に消えていった。
***
戦勝会は滞りなく進む。
ただ、『黒持ち』の彼女とイズマがいない。
付与付き料理の説明は、商業ギルドのレイン副ギルマスが行なった。あとは、『黒持ち』の彼が軽く話した程度。
ケネックは、あたりを見回す。
第4部隊副隊長のシグルドは居るが、彼の腹心である2名の騎士の姿が見えない。
第4部隊の懸念を伝えるべく、ファーマスに近寄る。
「ファーマス先輩。先程は申し訳ありません。」
ファーマスは目線をケネックに向ける事なく、周囲を警戒していた。
「現在進行形で、迷惑被ってっけどな。」
「それはっ・・・」
ケネックの目が見開く。
自分は、まだ何も伝えてはいない。
「お前には悪いが、さっきの状況から警戒しない方が無理だろ。リンにはイズマをつけている。すでに移動も開始している。
・・・案の定、騎士団も居ない奴がいるようだしな。」
静かな、それでいて圧倒的な威圧を持って告げられる。
ケネックの背中には、尋常じゃないほど汗が流れた。
「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。この件に関しては、騎士団としては動いていません。第4の暴走となります。私は戻り次第、我が部隊の隊長及び団長へ報告を行い、対処させて頂きます。」
内心ビビってしまっているのをおくびにも出さぬように、第3部隊副隊長として毅然と答える。
この人は身内には優しいが、義理を欠く行為はとても嫌う。
今回は、彼が特に大事にしていたであろう『黒持ち』に、第4がちょっかいを出した形だ。
状況によっては、彼が完全に騎士団と敵対してしまうという事。
敵対を表立っては提示しないだろうが、彼が冒険者として活動していることによる恩恵が、騎士団側として受けられない事となる。
それに。
目の前の彼は、自分の可愛い弟が尊敬し止まない人物。
この状況を打破できなければ、自分が弟に嫌われる。
ぶっちゃけ、シグルドも第4もどーでもいい。
弟に嫌われてしまうという未来は耐えられない。
そこまで考え、ケネックはファーマスに礼を取った。
「分かった、騎士団側についてはお前の対処に任せる。・・・万が一、リンに手を出してみろ。その時は、全力を持って相手すると、アイザックに言っておけ。」
「はい。」
ーーー 簡単に、団長の名前を出してくれる。
未だに衰えることのない影響力に身震いがする。
どんな事があっても、彼はその力を使う事は無かったが、今回は違うらしい。
・・・やはり、あの『黒持ち』は特別なのだろう。
ーーー 面倒くさいことしてくれやがって。
威圧を解き、その場を去るファーマスの背を見送りながら、ケネックは第4部隊が引き起こした事態に頭を抱えるしかなかった。
10
お気に入りに追加
1,008
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる