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森へ帰ろう
74.変装
しおりを挟む夕暮れ間近の人波をすり抜け、イズマさんと私は、定宿の『陽だまり亭』へたどり着く。
「いらっしゃ・・・リンさん!!」
宿に入ると、私の顔を見たミーナちゃんが飛びついてきた。
おう、美少女に抱きつかれちゃったよ。可愛いなぁ。
「リンさんっ、もう、お身体大丈夫なんですか?!」
「うん。もう大丈夫。ごめんね、すぐ来れなくって。」
「魔獣暴走大変だったんでしょう?この街を守ってくれて、ありがとうございます。」
「ううん、ミーナちゃん達が何でもなくて何よりだよ。」
ぎゅ、と抱きしめて、頭をなでなでする。柔らかくていい匂い。
「あ、約束のアグウルグ持ってきたよ~」
「ほんと!?お父さんに言ってくる!」
「ミーナ、親父さん何処に?」
駆け出そうとしたミーナちゃんを、イズマさんが止めた。
「奥の厨房で仕込み中ですよ?」
「ちょい、話もあるから、入れてもらっても良いか?」
「分かりました。こっちです。」
イズマさんの真剣な顔に、きり、と仕事モードになるミーナちゃん。
私達は、彼女の後について店の奥に入った。
*
「おとーさーん。イズマさんが用事ってー。」
「お、イズマにリンちゃんか。どうし・・・奥で話すか?」
「スンマセン。」
私達の様子から何かを察してくれたオヤジさんは、厨房奥に招き入れてくれた。
「で、どうした?『ケルベロス』は片付いたのか?」
「それは、首尾よく。ただ、それにより、リンが騎士団に目を付けられました。」
オヤジさんの顔が曇る。
「また、難儀な。で、ウチは何をしたらいい?」
詳しい話は聞かなくても、即座に協力してくれる。『陽だまり亭』はそんな場所。
「とりあえず、俺らが部屋で休んでいるということにしといて下さい。万が一踏み込まれても、知らぬ存ぜぬで通してもらえれば良いです。」
「わかった。森に帰るのか?」
「はい、準備を整え次第。」
「わかった。おい、ミーナ着替え用意してやれ。」
「はーい。」
オヤジさんから、指示されたミーナちゃんは、その場を離れる。
「着替えですか?」
「あぁ、隠密的なことする時に借りたりしてるんだ。とりあえず今は、レザ先生の所に行くのに、な。」
「あまり、細かい話は聞かないが。まぁ、便宜図ってると思ってくれていればいい。」
なる。着替えもここで済ます事が出来ると。ある種のアジトですね。
「なるほど、ありがとうございます。あ、そうだ。ミーナちゃんと約束していたアグウルグ、もらってくれませんか?解体してないそのまんまですけど。」
「本当か?もらうもらう。コッチに出してくれるか?」
指示されたのは、肉倉庫。枝肉とか吊るされてるよ。熟成肉とかの概念あるのかなぁ?
「何体要ります?」
「何体、ってそんなにあるのか?」
「そこそこに。」
「はぁ、伝え聞いてはいたが、規格外だなぁ・・・3体貰えたら有難い。宿代に還元させてもらうな。」
「じゃ、これからもヨロシクって事で、オマケで4体出しときますねー。」
ぽぽい、と倉庫にそのまま出す。
オマケのオマケで、ラジュに
スーピーも何羽か出しておいた。
「おいおい、出しすぎだろ・・・イズマ、いつも、あんななのか?」
「少し自重を覚えたくらいですが、基本あんな奴なんで。・・・色々、お願いします。」
なんか、オヤジさんとイズマさんが変な事言ってる気もするけど気にしなーい。
私は、身内には甘いんだもん。
*
ミーナちゃんから服を渡され、宿の部屋に入り着替えを済ます。
ウィッグまであるなんて、用意がいいと感心しきり。
普段は絶対に履かない薄緑のロングスカートに、白いカットソーに、茶系のベスト。この世界によく居る町娘的な格好。ウィッグも茶系で地味な印象。軽く編み込んで左肩から下ろしてみた。
準備が出来て部屋を出ると、イズマさんも準備が終わっていた。
いつものイズマさんの碧色の髪ではなく、薄水色のウィッグに、銀縁眼鏡。腰にレイピアを帯刀。
ちょっとお固めの服装だから、寡黙不良が成りを潜め、インテリ眼鏡に早変わり。
「準備できたな。」
「はーい。とりあえず設定はどうしましょう?」
「設定?」
「おにーさま、って呼んどけば良いです?」
おぃ、何でそこで“何言ってんだコイツ?”みたいな、凄い嫌な顔になる?
芝居は、設定大事でしょうよ。
「ん・・・とりあえず、兄妹で、ここと森の間にある、エンリの村に用事・・・レザ先生の薬を届ける、ということにするか。」
「了解です。」
「お、準備できたな?」
軽く打ち合わせる私達を見て、オヤジさんが声をかけてきた。
「はい。部屋も使った風にしてあるので、踏み込まれたら、どっかに用事足しじゃないかと言ってください。」
「分かった、気をつけていけよ?」
「2人とも、またゆっくり来て下さいね?あとお土産、いっぱいありがとうございました。」
「こちらこそお世話になりました。じゃ、またね?」
ミーナちゃんに手を振り、私達は何食わぬ顔で宿を後にした。
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