転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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森へ帰ろう

74.変装

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夕暮れ間近の人波をすり抜け、イズマさんと私は、定宿の『陽だまり亭』へたどり着く。


「いらっしゃ・・・リンさん!!」


宿に入ると、私の顔を見たミーナちゃんが飛びついてきた。
おう、美少女に抱きつかれちゃったよ。可愛いなぁ。


「リンさんっ、もう、お身体大丈夫なんですか?!」

「うん。もう大丈夫。ごめんね、すぐ来れなくって。」

魔獣暴走スタンピート大変だったんでしょう?この街を守ってくれて、ありがとうございます。」

「ううん、ミーナちゃん達が何でもなくて何よりだよ。」


ぎゅ、と抱きしめて、頭をなでなでする。柔らかくていい匂い。


「あ、約束のアグウルグ持ってきたよ~」

「ほんと!?お父さんに言ってくる!」

「ミーナ、親父さん何処に?」


駆け出そうとしたミーナちゃんを、イズマさんが止めた。


「奥の厨房で仕込み中ですよ?」

「ちょい、話もあるから、入れてもらっても良いか?」

「分かりました。こっちです。」


イズマさんの真剣な顔に、きり、と仕事モードになるミーナちゃん。
私達は、彼女の後について店の奥に入った。





「おとーさーん。イズマさんが用事ってー。」

「お、イズマにリンちゃんか。どうし・・・奥で話すか?」

「スンマセン。」


私達の様子から何かを察してくれたオヤジさんは、厨房奥に招き入れてくれた。


「で、どうした?『ケルベロス』は片付いたのか?」

「それは、首尾よく。ただ、それにより、リンが騎士団に目を付けられました。」


オヤジさんの顔が曇る。


「また、難儀な。で、ウチは何をしたらいい?」


詳しい話は聞かなくても、即座に協力してくれる。『陽だまり亭』はそんな場所。


「とりあえず、俺らが部屋で休んでいるということにしといて下さい。万が一踏み込まれても、知らぬ存ぜぬで通してもらえれば良いです。」

「わかった。森に帰るのか?」

「はい、準備を整え次第。」

「わかった。おい、ミーナ着替え用意してやれ。」

「はーい。」


オヤジさんから、指示されたミーナちゃんは、その場を離れる。


「着替えですか?」

「あぁ、隠密的なことする時に借りたりしてるんだ。とりあえず今は、レザ先生の所に行くのに、な。」

「あまり、細かい話は聞かないが。まぁ、便宜図ってると思ってくれていればいい。」


なる。着替えもここで済ます事が出来ると。ある種のアジトですね。


「なるほど、ありがとうございます。あ、そうだ。ミーナちゃんと約束していたアグウルグ、もらってくれませんか?解体してないそのまんまですけど。」

「本当か?もらうもらう。コッチに出してくれるか?」


指示されたのは、肉倉庫。枝肉とか吊るされてるよ。熟成肉とかの概念あるのかなぁ?


「何体要ります?」

「何体、ってそんなにあるのか?」

「そこそこに。」

「はぁ、伝え聞いてはいたが、規格外だなぁ・・・3体貰えたら有難い。宿代に還元させてもらうな。」

「じゃ、これからもヨロシクって事で、オマケで4体出しときますねー。」


ぽぽい、と倉庫にそのまま出す。
オマケのオマケで、ラジュ
スーピーも何羽か出しておいた。


「おいおい、出しすぎだろ・・・イズマ、いつも、あんななのか?」

「少し自重を覚えたくらいですが、基本あんな奴なんで。・・・色々、お願いします。」


なんか、オヤジさんとイズマさんが変な事言ってる気もするけど気にしなーい。
私は、身内には甘いんだもん。





ミーナちゃんから服を渡され、宿の部屋に入り着替えを済ます。
ウィッグまであるなんて、用意がいいと感心しきり。

普段は絶対に履かない薄緑のロングスカートに、白いカットソーに、茶系のベスト。この世界によく居る町娘的な格好。ウィッグも茶系で地味な印象。軽く編み込んで左肩から下ろしてみた。

準備が出来て部屋を出ると、イズマさんも準備が終わっていた。
いつものイズマさんの碧色の髪ではなく、薄水色のウィッグに、銀縁眼鏡。腰にレイピアを帯刀。
ちょっとお固めの服装だから、寡黙不良が成りを潜め、インテリ眼鏡に早変わり。 


「準備できたな。」

「はーい。とりあえず設定はどうしましょう?」

「設定?」

「おにーさま、って呼んどけば良いです?」


おぃ、何でそこで“何言ってんだコイツ?”みたいな、凄い嫌な顔になる?
芝居ロールプレイは、設定大事でしょうよ。


「ん・・・とりあえず、兄妹で、ここと森の間にある、エンリの村に用事・・・レザ先生の薬を届ける、ということにするか。」

「了解です。」

「お、準備できたな?」


軽く打ち合わせる私達を見て、オヤジさんが声をかけてきた。


「はい。部屋も使った風にしてあるので、踏み込まれたら、どっかに用事足しじゃないかと言ってください。」

「分かった、気をつけていけよ?」

「2人とも、またゆっくり来て下さいね?あとお土産、いっぱいありがとうございました。」

「こちらこそお世話になりました。じゃ、またね?」


ミーナちゃんに手を振り、私達は何食わぬ顔で宿を後にした。





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