転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
76 / 393
森へ帰ろう

74.変装

しおりを挟む

夕暮れ間近の人波をすり抜け、イズマさんと私は、定宿の『陽だまり亭』へたどり着く。


「いらっしゃ・・・リンさん!!」


宿に入ると、私の顔を見たミーナちゃんが飛びついてきた。
おう、美少女に抱きつかれちゃったよ。可愛いなぁ。


「リンさんっ、もう、お身体大丈夫なんですか?!」

「うん。もう大丈夫。ごめんね、すぐ来れなくって。」

魔獣暴走スタンピート大変だったんでしょう?この街を守ってくれて、ありがとうございます。」

「ううん、ミーナちゃん達が何でもなくて何よりだよ。」


ぎゅ、と抱きしめて、頭をなでなでする。柔らかくていい匂い。


「あ、約束のアグウルグ持ってきたよ~」

「ほんと!?お父さんに言ってくる!」

「ミーナ、親父さん何処に?」


駆け出そうとしたミーナちゃんを、イズマさんが止めた。


「奥の厨房で仕込み中ですよ?」

「ちょい、話もあるから、入れてもらっても良いか?」

「分かりました。こっちです。」


イズマさんの真剣な顔に、きり、と仕事モードになるミーナちゃん。
私達は、彼女の後について店の奥に入った。





「おとーさーん。イズマさんが用事ってー。」

「お、イズマにリンちゃんか。どうし・・・奥で話すか?」

「スンマセン。」


私達の様子から何かを察してくれたオヤジさんは、厨房奥に招き入れてくれた。


「で、どうした?『ケルベロス』は片付いたのか?」

「それは、首尾よく。ただ、それにより、リンが騎士団に目を付けられました。」


オヤジさんの顔が曇る。


「また、難儀な。で、ウチは何をしたらいい?」


詳しい話は聞かなくても、即座に協力してくれる。『陽だまり亭』はそんな場所。


「とりあえず、俺らが部屋で休んでいるということにしといて下さい。万が一踏み込まれても、知らぬ存ぜぬで通してもらえれば良いです。」

「わかった。森に帰るのか?」

「はい、準備を整え次第。」

「わかった。おい、ミーナ着替え用意してやれ。」

「はーい。」


オヤジさんから、指示されたミーナちゃんは、その場を離れる。


「着替えですか?」

「あぁ、隠密的なことする時に借りたりしてるんだ。とりあえず今は、レザ先生の所に行くのに、な。」

「あまり、細かい話は聞かないが。まぁ、便宜図ってると思ってくれていればいい。」


なる。着替えもここで済ます事が出来ると。ある種のアジトですね。


「なるほど、ありがとうございます。あ、そうだ。ミーナちゃんと約束していたアグウルグ、もらってくれませんか?解体してないそのまんまですけど。」

「本当か?もらうもらう。コッチに出してくれるか?」


指示されたのは、肉倉庫。枝肉とか吊るされてるよ。熟成肉とかの概念あるのかなぁ?


「何体要ります?」

「何体、ってそんなにあるのか?」

「そこそこに。」

「はぁ、伝え聞いてはいたが、規格外だなぁ・・・3体貰えたら有難い。宿代に還元させてもらうな。」

「じゃ、これからもヨロシクって事で、オマケで4体出しときますねー。」


ぽぽい、と倉庫にそのまま出す。
オマケのオマケで、ラジュ
スーピーも何羽か出しておいた。


「おいおい、出しすぎだろ・・・イズマ、いつも、あんななのか?」

「少し自重を覚えたくらいですが、基本あんな奴なんで。・・・色々、お願いします。」


なんか、オヤジさんとイズマさんが変な事言ってる気もするけど気にしなーい。
私は、身内には甘いんだもん。





ミーナちゃんから服を渡され、宿の部屋に入り着替えを済ます。
ウィッグまであるなんて、用意がいいと感心しきり。

普段は絶対に履かない薄緑のロングスカートに、白いカットソーに、茶系のベスト。この世界によく居る町娘的な格好。ウィッグも茶系で地味な印象。軽く編み込んで左肩から下ろしてみた。

準備が出来て部屋を出ると、イズマさんも準備が終わっていた。
いつものイズマさんの碧色の髪ではなく、薄水色のウィッグに、銀縁眼鏡。腰にレイピアを帯刀。
ちょっとお固めの服装だから、寡黙不良が成りを潜め、インテリ眼鏡に早変わり。 


「準備できたな。」

「はーい。とりあえず設定はどうしましょう?」

「設定?」

「おにーさま、って呼んどけば良いです?」


おぃ、何でそこで“何言ってんだコイツ?”みたいな、凄い嫌な顔になる?
芝居ロールプレイは、設定大事でしょうよ。


「ん・・・とりあえず、兄妹で、ここと森の間にある、エンリの村に用事・・・レザ先生の薬を届ける、ということにするか。」

「了解です。」

「お、準備できたな?」


軽く打ち合わせる私達を見て、オヤジさんが声をかけてきた。


「はい。部屋も使った風にしてあるので、踏み込まれたら、どっかに用事足しじゃないかと言ってください。」

「分かった、気をつけていけよ?」

「2人とも、またゆっくり来て下さいね?あとお土産、いっぱいありがとうございました。」

「こちらこそお世話になりました。じゃ、またね?」


ミーナちゃんに手を振り、私達は何食わぬ顔で宿を後にした。





しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...