転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
74 / 393
第2ラウンドの鐘が鳴る

72.隠蔽

しおりを挟む


猟銃にもどった相棒を撫でていると、またふんわりと光って子猫に戻る。

そんなサビ柄子猫は、じぃ、と私の顔を見て、何かを訴えるように、尻尾をたしんたしんと振っている。

何だろ。


「・・・あ、名前?」

『みゃーー』


まるで、そうだ、と言わんばかりの鳴き方。

名前ねぇ。
あんま、センスないんだよなぁ。

ウィンチェスターだから、ウィン・・・安直だなぁ。
サビ柄、子猫、翠の目、

どれもしっくりこない。

銃・・・火薬・・・火

リン・・・鈴・・・ベル、
あ。


「“ヴェル”は?」

子猫の顔を覗き見ると、『みゃー』と満足気に鳴いた。

「じゃ、君の名前は“ヴェル”、ね?」

『みゃっ』

りょーかいっ、と言うように、短く鳴いたヴェルは、ぴょん、と私の肩に乗り、私の首筋にすりすりと頭を擦り付ける。

ほわ、とヴェルが光ったと思ったら、私の首回りも一瞬光って消えた。
何だろ、繋がった感じ、とでも言えば良いかな?

ところで。


「そういや、カン君は何でヴェルが猟銃なの分かったの?」

「あの暴発の後、ケネックさんの手から小さい何かが落ちるのが見えて。そしたら、猟銃が消えてましたから。変化でもしたかな。と。」

みんな、シグルドさんに気が向く中、銃の方を見てた訳だ。
私ですら銃から気がそれていたのに。凄いなぁ。

「すぐ教えてくれてありがとね。」

「いえ・・・俺も触ってみても、良いっスか?」

「うん、どーぞ?ヴェルも良い?」

『ぐる、』


仕方ないなぁ、と言いたげに、首を伸ばすヴェル。
カン君はそっと人差し指でヴェルの首を掻く。


「ホントに感触が猫っスね・・・ヴェル、よろしくな?」

『に。』


おう、と言った感じでカン君に撫でられる子猫ヴェル
カン君は目尻を下げて、指先で首や頭を撫でて行く。
おや、カン君意外に動物好きだった?


「マズイなぁ、こりゃ。」

「はい・・・」


戯れる私たちを見ながら、ロイドさんとザイルさんが呟く。


「何か、ありました?」


尋ねてみると、ロイドさんが頭を掻きながら、苦笑する。


「自立式の魔道具なんて、見たことも聞いたことも、ねーよ。」

「ですねぇ。先程バレなくて心底良かったと思ってます。」


ザイルさんが頭を抱えている。

え、そんなもんなの?と周りを見ると、師匠達も呆れ顔というか、諦め顔を向けてきた。


「まぁ、リンは規格外だから、今更だ。」

クルを連れて歩いている分には構わないと思うけど、どっかで戦う姿見られたりすると面倒かなぁ。」


イズマさんとベネリさんが話しているけど、なんか投げやりだなぁ。
師匠を見ると口元に手を当てて思案顔。


「ロイド、ザイル、コイツらのライセンスは結局どうする?」

「今回の魔獣暴走スタンピートの貢献から、B級ライセンスへの昇格は問題ありませんね。」

「そうか。」

「言っとくけど、お前とイズマ、ベネリもA級な。」

「どさくさに紛れて何言ってやがる。」


師匠が、ギン、とロイドさんを睨み付ける。


「当ったり前だろ。『ケルベロス駄犬』が居なくなったんだ。心置きなく戻せるじゃねーか。アイツらいる限りダメ、だったんだから、居なくなったら問題ないだろ?」


あ、ロイドさん、めっちゃドヤ顔。
師匠が言い返せなくて、すんごい顔。苦虫を噛み潰したよう、って、こんな感じなんだろうな。


「・・・まぁ、いい。その話は後でだ。とりあえずは、リン。」


師匠が、私の顔を見る。


「お前、しばらくニースの森の守護な。」


は?急に何ですか?

私とカン君は、キョトンとする。
でも、私達以外の面子は納得顔。


「あー、その方が良さそうだな。」

「仕事しながら、ほとぼり冷めるまで大人しくできますね。」


うんうん、と頷くイズマさんとベネリさん。


「そうしたら、指名クエストにしておいた方が良いか?」

「そうしましょう。どちらにせよ、『グレイハウンド』にしか頼めないクエですから、念押しで。」


ロイドさん、ザイルさんも勝手に話を進めている。


「あの、どーゆーことでしょう?」

「色々お前は特殊すぎる。付与付き料理の件、魔獣暴走スタンピートへの討伐参加、衆人環視の中での単独『ケルベロス駄犬』制裁。持っている武器が、専用自立式魔道具。
・・・これで今表に出るのは、余りにも危険すぎる。条件が整うまでは、表に出るな。」

「へ?」


なぬ??どーゆーこと?


「表向きは、ニースの森の守護。
コレは冒険者の中でも、森に選ばれている俺たち『グレイハウンド』しか請け負えないクエストだ。
お前もカンも森の中に入るのは問題ないし、B級ライセンスになってるから、単独でも構わん。

・・・裏向きは、冒険者達の追っかけと、騎士団の介入の抑制だな。」

「そんな面倒な話?」

「登録後、1か月も満たずにB級ライセンスまで駆け上がった女性冒険者ですからねぇ。『ケルベロス駄犬』程とは言わないまでも、追っかけ阿保は湧くでしょう。
『グレイハウンド』を舐めている連中も多いですから。」


ザイルさんが吐き捨てるように言う。
ロイドさんもそれに付け加えて説明してくれる。


「ファーマスがA級に戻り、ベネリとイズマがA級になったことで、『グレイハウンド』はクラスAパーティーだ。それが浸透するまでに少し時間が欲しい。
あとは、領主に報告上げがてら、騎士団が暴走しないように釘を刺す必要がある。
それまでの間、リンは雲隠れしておいて貰えると助かるんだ。
幸い、ニースの森は入れる人間が限られるから、いざというときは逃げ込めるだろ。」


言わんとしていることは分かりました。
私とヴェルの立場が保証されるまでは、森に引きこもっていろと。

でも。


「・・・カン君は?」


ちろ、とカン君の顔を見ると、彼も私の方を見る。不安そうに目が揺らいでいた。


「森への派遣は、イズマとリン。俺とベネリとカンは街に残ってA級クエスト消化だ。」

「なっ!」

「カン、お前は、前衛訓練の為に残す。このままだと、お前はリンの弱みになる。・・・いいな。」


有無を言わせず、師匠はパーティー方針として言い切った。


「・・・わかり、ました。」


思う所があったのか、カン君はぐ、と言葉を飲み込む。


こうして、私とカン君は、この世界に来て、初めて完全な別行動をとることに決まったわけで。

・・・さて、森で何して過ごそうか。

しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...