転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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第2ラウンドの鐘が鳴る

72.隠蔽

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猟銃にもどった相棒を撫でていると、またふんわりと光って子猫に戻る。

そんなサビ柄子猫は、じぃ、と私の顔を見て、何かを訴えるように、尻尾をたしんたしんと振っている。

何だろ。


「・・・あ、名前?」

『みゃーー』


まるで、そうだ、と言わんばかりの鳴き方。

名前ねぇ。
あんま、センスないんだよなぁ。

ウィンチェスターだから、ウィン・・・安直だなぁ。
サビ柄、子猫、翠の目、

どれもしっくりこない。

銃・・・火薬・・・火

リン・・・鈴・・・ベル、
あ。


「“ヴェル”は?」

子猫の顔を覗き見ると、『みゃー』と満足気に鳴いた。

「じゃ、君の名前は“ヴェル”、ね?」

『みゃっ』

りょーかいっ、と言うように、短く鳴いたヴェルは、ぴょん、と私の肩に乗り、私の首筋にすりすりと頭を擦り付ける。

ほわ、とヴェルが光ったと思ったら、私の首回りも一瞬光って消えた。
何だろ、繋がった感じ、とでも言えば良いかな?

ところで。


「そういや、カン君は何でヴェルが猟銃なの分かったの?」

「あの暴発の後、ケネックさんの手から小さい何かが落ちるのが見えて。そしたら、猟銃が消えてましたから。変化でもしたかな。と。」

みんな、シグルドさんに気が向く中、銃の方を見てた訳だ。
私ですら銃から気がそれていたのに。凄いなぁ。

「すぐ教えてくれてありがとね。」

「いえ・・・俺も触ってみても、良いっスか?」

「うん、どーぞ?ヴェルも良い?」

『ぐる、』


仕方ないなぁ、と言いたげに、首を伸ばすヴェル。
カン君はそっと人差し指でヴェルの首を掻く。


「ホントに感触が猫っスね・・・ヴェル、よろしくな?」

『に。』


おう、と言った感じでカン君に撫でられる子猫ヴェル
カン君は目尻を下げて、指先で首や頭を撫でて行く。
おや、カン君意外に動物好きだった?


「マズイなぁ、こりゃ。」

「はい・・・」


戯れる私たちを見ながら、ロイドさんとザイルさんが呟く。


「何か、ありました?」


尋ねてみると、ロイドさんが頭を掻きながら、苦笑する。


「自立式の魔道具なんて、見たことも聞いたことも、ねーよ。」

「ですねぇ。先程バレなくて心底良かったと思ってます。」


ザイルさんが頭を抱えている。

え、そんなもんなの?と周りを見ると、師匠達も呆れ顔というか、諦め顔を向けてきた。


「まぁ、リンは規格外だから、今更だ。」

クルを連れて歩いている分には構わないと思うけど、どっかで戦う姿見られたりすると面倒かなぁ。」


イズマさんとベネリさんが話しているけど、なんか投げやりだなぁ。
師匠を見ると口元に手を当てて思案顔。


「ロイド、ザイル、コイツらのライセンスは結局どうする?」

「今回の魔獣暴走スタンピートの貢献から、B級ライセンスへの昇格は問題ありませんね。」

「そうか。」

「言っとくけど、お前とイズマ、ベネリもA級な。」

「どさくさに紛れて何言ってやがる。」


師匠が、ギン、とロイドさんを睨み付ける。


「当ったり前だろ。『ケルベロス駄犬』が居なくなったんだ。心置きなく戻せるじゃねーか。アイツらいる限りダメ、だったんだから、居なくなったら問題ないだろ?」


あ、ロイドさん、めっちゃドヤ顔。
師匠が言い返せなくて、すんごい顔。苦虫を噛み潰したよう、って、こんな感じなんだろうな。


「・・・まぁ、いい。その話は後でだ。とりあえずは、リン。」


師匠が、私の顔を見る。


「お前、しばらくニースの森の守護な。」


は?急に何ですか?

私とカン君は、キョトンとする。
でも、私達以外の面子は納得顔。


「あー、その方が良さそうだな。」

「仕事しながら、ほとぼり冷めるまで大人しくできますね。」


うんうん、と頷くイズマさんとベネリさん。


「そうしたら、指名クエストにしておいた方が良いか?」

「そうしましょう。どちらにせよ、『グレイハウンド』にしか頼めないクエですから、念押しで。」


ロイドさん、ザイルさんも勝手に話を進めている。


「あの、どーゆーことでしょう?」

「色々お前は特殊すぎる。付与付き料理の件、魔獣暴走スタンピートへの討伐参加、衆人環視の中での単独『ケルベロス駄犬』制裁。持っている武器が、専用自立式魔道具。
・・・これで今表に出るのは、余りにも危険すぎる。条件が整うまでは、表に出るな。」

「へ?」


なぬ??どーゆーこと?


「表向きは、ニースの森の守護。
コレは冒険者の中でも、森に選ばれている俺たち『グレイハウンド』しか請け負えないクエストだ。
お前もカンも森の中に入るのは問題ないし、B級ライセンスになってるから、単独でも構わん。

・・・裏向きは、冒険者達の追っかけと、騎士団の介入の抑制だな。」

「そんな面倒な話?」

「登録後、1か月も満たずにB級ライセンスまで駆け上がった女性冒険者ですからねぇ。『ケルベロス駄犬』程とは言わないまでも、追っかけ阿保は湧くでしょう。
『グレイハウンド』を舐めている連中も多いですから。」


ザイルさんが吐き捨てるように言う。
ロイドさんもそれに付け加えて説明してくれる。


「ファーマスがA級に戻り、ベネリとイズマがA級になったことで、『グレイハウンド』はクラスAパーティーだ。それが浸透するまでに少し時間が欲しい。
あとは、領主に報告上げがてら、騎士団が暴走しないように釘を刺す必要がある。
それまでの間、リンは雲隠れしておいて貰えると助かるんだ。
幸い、ニースの森は入れる人間が限られるから、いざというときは逃げ込めるだろ。」


言わんとしていることは分かりました。
私とヴェルの立場が保証されるまでは、森に引きこもっていろと。

でも。


「・・・カン君は?」


ちろ、とカン君の顔を見ると、彼も私の方を見る。不安そうに目が揺らいでいた。


「森への派遣は、イズマとリン。俺とベネリとカンは街に残ってA級クエスト消化だ。」

「なっ!」

「カン、お前は、前衛訓練の為に残す。このままだと、お前はリンの弱みになる。・・・いいな。」


有無を言わせず、師匠はパーティー方針として言い切った。


「・・・わかり、ました。」


思う所があったのか、カン君はぐ、と言葉を飲み込む。


こうして、私とカン君は、この世界に来て、初めて完全な別行動をとることに決まったわけで。

・・・さて、森で何して過ごそうか。

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