70 / 393
第2ラウンドの鐘が鳴る
68.後始末
しおりを挟む泡を吹き気絶したタルマンの前で、銃剣を床にぶっ刺し仁王立ちしている私の肩が叩かれる。
「リン、そこまでだ。」
ふと横を見上げると、師匠が疲れ切った顔をしていた。
「ど、しました?師匠。」
ん?と、こてん、と首を傾げてみる。
はぁぁ、と大きなため息をつき、師匠は頭を抱える。
「・・・やり過ぎだ、お前。」
はて、と思い、辺りを見回すと、何の爆撃跡かって位に壁は凹み、机や椅子が壊れ、どっしりとした作りのカウンターが粉砕している。
そこにガラの悪い男共が倒れまくり。
・・・何処の世紀末だろ、これ。
「・・・あは☆」
頭をかいて誤魔化してみる。
なーんか色々鬱憤溜まってたから、手加減できなかったよ。
「リンさんっ!」
すると、後ろからぎゅ、と抱きつく大きな影。
黒髪が右首筋に埋まってくる。
「また、無茶するんスから。・・・【回復】。」
カン君の優しい魔力の気配に包まれる。
右肩がズキと痛む。
ガンスに捻られた時は身体強化してなかったから、多分その時だろう。
「・・・大した怪我じゃないよ?大丈夫だよ?ありがと。」
ん?とカン君の顔を見る。
顔を上げた彼は、少し、む、と拗ねている様子なので、頭を撫でてみた。
「・・・何でまた、1人でやっちゃうんですか。」
「みんなが待機してたから、好きに暴れただけ。心配ありがと。」
「・・・どういたしまして。」
ちょっと顔を赤らめて視線を逸らすカン君。落ち着いたのか、やっと離してくれた。
その間にも、街の衛兵と騎士団員たちが、『ケルベロス』達を拘束して連れて行く。
タルマンには、何やら魔力操作が出来ないような細工がされたらしい。
「はっ離せ!私は関係ない!!」
この期に及んで、受付統括とやらのギャバが抵抗している様子。
「五月蝿いですよ?『ケルベロス』と結託しての恐喝、横領に虚偽報告。証拠は腐るほどありますからね。」
ザイルさんが良い笑顔で対応中。
「だったら!アイツらがD級なのに、魔獣暴走に参加させたお前たちの処分は!?」
「何を言ってるのですか?彼等は既にC級ですよ?」
「なんだと!?」
ザイルさんは、やれやれ、と言った具合に蔑んだ目を向ける。
「こうなると思ったからに決まっているじゃないですか。馬鹿じゃあるまいし。
私が同行した段階で、3体どころじゃない数のアグウルグ討伐をしてましたからね。
その時点で、彼等のC級へのランクアップは終了しています。
だから魔獣暴走討伐への参加は、全く問題ありません。
今日の呼び出しも“B級”へのランクアップの話ですからねぇ。」
「そういうこった。俺は腰抜けなギルマスだからなぁ。
戦力になりそうな奴らは、サッサとランクアップさせたまでよ。」
ロイドさんも、カラカラと笑いながら煽る。
「さて、随分と好き勝手やってくれたもんだ。ギャバと受付の2人。お前ら3人はクビ。大人しくお縄につくんだな。」
「っ!!」
観念したのか、3人は衛兵達に連れていかれた。
それを見送ったロイドさんが、頭を掻きながら辺りを見回す。
「しかしまぁ、ド派手にやったもんだなぁ。」
「あははー・・・ごめんなさい。
・・・あのー、ロイドさん?」
急に不安を覚え、恐る恐るロイドさんに問いかける。
「・・・これって私、修繕費支払わなきゃなんないです?」
一瞬の間の後、ぷ、と吹き出したロイドさん。
「ははっ。そんな事は気にするな。この作戦は、冒険者ギルドと騎士団と『グレイハウンド』が協同して行ったもんだ。作戦の一環として、相手が暴れたから取り押さえた。その際に建物に損害が出た、で片付けられるから安心しろ。」
「そうですよ?リンさんが居なければ片付かなかった迷惑案件だったのですから。必要経費です。」
ロイドさん、ザイルさんの笑顔と言葉にホッとして、はぁ、と大きく息をつく。
「よかったぁ。」
「・・・まぁ、それよりもなぁ。ファーマス、この後どうするよ。」
「皆まで言うな。ほとぼり冷めるまで、隔離だろ。」
ロイドさんと、師匠が2人でこちらを見る。
ん?何のこと?
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?



転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる