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第2ラウンドの鐘が鳴る
66.仕上げを御覧じろ
しおりを挟む「な、何を・・・」
精神干渉が効いてないどころか、態度が豹変した私に驚愕するタルマンとチッタ。
すまんな、コッチが素だ。
さっきまでのイズマさんとの恋人芝居、やってて蕁麻疹出るかと思ったわ。
取り出した相棒を肩に担ぎ、ギルド内にいる敵認定した連中を見渡す。
すう、と息を吸い、私は大声を上げた。
「師匠!ギルマス!馬鹿が認めましたよ!
魔獣引っ張って、魔獣暴走起こしたって!」
「あぁ、ちゃんと聞こえた。」
「ようやく、これで裁けるな。」
ギルドの入り口から、師匠、ロイドさん、カン君が入ってくる。
「記録映像もバッチリだよ~。いや~2人とも、迫真の演技だったねぇ。悪者に引き裂かれた恋人同士って、役者顔負けだよ。」
ギルドの隅で、水晶玉のような記録用魔道具という騎士団からの借り物を持っていたベネリさんが、認識阻害の魔法を解き、ケタケタと笑いながら現れる。
「・・・終わったか。リンとの組手の方がまだ痛えわ。」
床に突っ伏していたイズマさんが、【洗浄】をかけながら、何事もなかったようにムクリと起き上がる。
それを見た取り巻き連中が驚愕する。
「なっ、ギルマスが戻るのは明日だったはずじゃ・・・」
「ギャバ、色々規則違反をしてくれたようですねえ?」
一足先に逃げようとしたギャバを遮るように、ギルドの奥からは満面の黒い笑顔のザイルさんと、厳しい顔をした騎士団副隊長のケネックさんと部下の方が現れる。
「なっ、何でっ!お前ら、大怪我したんじゃ!」
「するか、馬鹿。全部、お前らを嵌めるための情報操作に決まってんだろーが。」
大慌てする『ケルベロス』の面々を見て、師匠が吐き捨てる。
そして、隣に居たロイドさんが、呆れたように言い放つ。
「自称領主の息子とやら、喜べ。
見事にお前は、廃嫡されたぞ?あまりに好き勝手やりすぎたな。
ウチからの報告、被害者達からの嘆願書、全部お前の実家に随時届けられていたからな。
・・・そして、今回の引っ張りによる魔獣暴走がトドメだ。
イイ歳してるんだ。
廃嫡した息子の不始末に、実家は関与しない、だとよ。」
その後をケネックさんが続く。
「あの山で見つかったモスク産の特殊な魔獣寄せの香は、軍部での厳重取り扱いの物が横流しされていたことが判明した!
横領した者も捕まり、お前達に売り渡したという所までわかっているっ!」
チッタやタルマンは、ワナワナと身体を震えさせている。
私は風属性弾を手早く込め、す、と、タルマンに銃口を向けた。
・・・狩猟人、ホントは人に銃口向けたらダメなんだけどね。
「自分にどれだけの価値があると勘違いしてるか知らないけど。
ファーマス師匠達に納品売上や達成クエスト数の内容負けしている時点で、使えないランクAパーティーなのは、周知の事実。
真面目にクエストこなしてるイズマさんやベネリさん達と、仕事しないアンタらとの力量が逆転して当然でしょうが。
ぶっちゃけアンタらなんか居なくても、別にミッドランド支部は、何にも困らない。
・・・寧ろ、常にヤる事しか考えていない獣はいない方がマシなんだよ。」
「うるせぇ!」
私の挑発に激昂したチッタが、ナイフを取り出し飛びかかってくるのが見えた。
イズマさんとの乱取りに慣れている私には、遅く見えて仕方がない。
即座に銃身でナイフを払い落とし、胴を薙ぎ払う。
チッタはなす術なく、カウンターにぶち当たり、倒れこむ。
タルマンに向き直る私の声は、一段と低くなる。
「・・・アンタらの私利私欲のために、数多くの人が傷ついた。
私達を貶めるためだけに、魔獣暴走まで起こして、街の人達を危険に晒した。
以前師匠の膝を壊し、今回はカンにまで怪我を負わせた。
その報いは、受けて貰おうか。」
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