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第2ラウンドの鐘が鳴る
65.反撃の刃
しおりを挟む『俺らも含めて、君を取り囲む人間を、排除しようとすると思う。
一人にして、君の心を折って、自分達から逃れられないようにするために。』
ベネリさんの言っていた通り。
師匠を、カン君を遠ざけ。
私の目の前で、好い仲のイズマさんを壊す。
それが奴らの定石。
「リン・・・、君の『ご主人様』はこの僕だよ?わかるね?」
身体の周りに纏わりつく気持ちの悪い魔力の気配と、この甘ったるい声が、精神干渉系の魔法なのだろう。
「さぁ、『口を開けて』・・・イイ子にはご褒美をあげないと。」
顎に添えられていた親指が、唇に触れてくる。
「・・・なぜ。」
「何だい?」
私は、喉奥から声を振り絞る。
「・・・なぜ、私達が、ビグベルーに襲われた、とご存知なのですか?」
「それは、職員から聞いたからね。」
タルマンは、事も無げに答える。
私は荒くなった呼吸を戻しながら、タルマンの顔を睨み返した。
「・・・その件を知っている職員は、ごく一部のはず。つまり、その職員は守秘義務を守らずに、皆様に情報を伝えたという事になりますね・・・一体、どの職員からお聞きになったのです?」
ちら、とギャバの顔を見ると、受付嬢と一緒に顔を青くしている。
「・・・それが、どうしたんだい?誰だって良いじゃないか。」
綺麗な顔を若干歪ませ、タルマンが私を見つめ返す。
先程よりも強めの精神干渉魔法なのだろう。二日酔いのような気持ち悪さが身体をかけまわる。
が、この程度なら問題ない。
「・・・それに、私達がビグベルー『3体に』襲われた、と仰いましたね?」
「あぁ、それも聞いたからね。」
タルマンは、うっすらと微笑んでくる。
私はその回答に、笑いが込み上げそうになる。
「・・・嘘だ。」
「なに?」
「ビグベルー『3体』という情報は、ギルド側は開示していません。無論職員達にもです。
それを知るのは、ギルマス、副ギルマス、治療師レザリック、そしてランクBパーティー『グレイハウンド』構成員5名だけなのですよ。
あとは、犯人・・・ビグベルーを引っ張り、魔獣暴走を引き起こした本人達でなければ、ね。」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべてやる。
きょとん、とした顔の後に、タルマンは大声で笑い始めた。
「あは、あははははっ・・・君は、ホントに、本当に賢いねぇ。」
「・・・認めるんですね?貴方達が、ビグベルーを引っ張ってきた、と。」
私は、この機を逃すまいと畳み掛ける。
タルマンは、片手で顔を抑え、くっくっと笑いながら、私を見た。
「・・・だから?だったら何だって言うんだい?
僕達は、A級ライセンス持ちのクラスAパーティーだ。誰も逆らう事は出来ないんだよ。」
「ぁんっ!!」
掴まれたままの私の右手は、ギリギリとガンスに捻り上げられる。
「・・・ギルマスは腰抜け。君のパートナーも、ファーマスも、最後に呼んだあの巨大なビグベルーにやられたんだろ?
ファーマスがいないイズマやベネリも相手じゃない。
・・・さぁ、これで君は、僕たちの所に来るしかなくなった。」
ぐ、と力を込めて顎を掴まれ、歪んだ笑顔のタルマンの顔が近づく。
「どんなに強がったって無駄さ。君が逃げたところで、追う術は幾らでもある。
僕は領主の息子だしねぇ。
君が哭いてすがって、命乞いしなければならないほどにね、僕達の所から逃げられないようにしてあげるよ。
・・・堪えられないほどの快楽と共に、ねぇ?」
耳元で、ねっとりとした声で囁くと、タルマンは勝ち誇ったように笑い始めた。
よし。
ーーー 言質は取った。
お遊びは終わりだ。
「・・・ふふっ。」
「何が可笑しい?」
急に笑い出した私を、タルマンは訝しがる。
思い切り下から睨みつけ、私は啖呵を切った。
「・・・A級ライセンス中、最弱の馬鹿共が、なに巫山戯たことをほざきやがる。」
「何だと!?」
素早く全身に身体強化をかけると、片膝を立て、右手を振り切る。
つまり、私の右手を掴んでいたガンスを、そのまま思いっきり休憩スペースの壁を目がけて片手でぶん投げた。
「「「「なっ」」」」
ギルド内の空気が止まる。
ガンスの巨躯は、突然の事に為すすべなく、ドゴンッと大きな音を立てて壁にぶつかり、止まったようだ。
「魔獣暴走の『3体目の巨大ビグベルー』は居なかったことになってんだよ。
・・・討伐部位も魔石も残らない程に、私が木っ端微塵にしたからな。」
私はゆっくり立ち上がると、右手を振り、空間収納から相棒を取り出す。
「・・・逃げも隠れもしねーよ。アンタらを叩き潰すために、私は望んでココにいる。」
***************
※ 今日、もう一話行っちゃいます(^^)
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