67 / 393
第2ラウンドの鐘が鳴る
65.反撃の刃
しおりを挟む『俺らも含めて、君を取り囲む人間を、排除しようとすると思う。
一人にして、君の心を折って、自分達から逃れられないようにするために。』
ベネリさんの言っていた通り。
師匠を、カン君を遠ざけ。
私の目の前で、好い仲のイズマさんを壊す。
それが奴らの定石。
「リン・・・、君の『ご主人様』はこの僕だよ?わかるね?」
身体の周りに纏わりつく気持ちの悪い魔力の気配と、この甘ったるい声が、精神干渉系の魔法なのだろう。
「さぁ、『口を開けて』・・・イイ子にはご褒美をあげないと。」
顎に添えられていた親指が、唇に触れてくる。
「・・・なぜ。」
「何だい?」
私は、喉奥から声を振り絞る。
「・・・なぜ、私達が、ビグベルーに襲われた、とご存知なのですか?」
「それは、職員から聞いたからね。」
タルマンは、事も無げに答える。
私は荒くなった呼吸を戻しながら、タルマンの顔を睨み返した。
「・・・その件を知っている職員は、ごく一部のはず。つまり、その職員は守秘義務を守らずに、皆様に情報を伝えたという事になりますね・・・一体、どの職員からお聞きになったのです?」
ちら、とギャバの顔を見ると、受付嬢と一緒に顔を青くしている。
「・・・それが、どうしたんだい?誰だって良いじゃないか。」
綺麗な顔を若干歪ませ、タルマンが私を見つめ返す。
先程よりも強めの精神干渉魔法なのだろう。二日酔いのような気持ち悪さが身体をかけまわる。
が、この程度なら問題ない。
「・・・それに、私達がビグベルー『3体に』襲われた、と仰いましたね?」
「あぁ、それも聞いたからね。」
タルマンは、うっすらと微笑んでくる。
私はその回答に、笑いが込み上げそうになる。
「・・・嘘だ。」
「なに?」
「ビグベルー『3体』という情報は、ギルド側は開示していません。無論職員達にもです。
それを知るのは、ギルマス、副ギルマス、治療師レザリック、そしてランクBパーティー『グレイハウンド』構成員5名だけなのですよ。
あとは、犯人・・・ビグベルーを引っ張り、魔獣暴走を引き起こした本人達でなければ、ね。」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべてやる。
きょとん、とした顔の後に、タルマンは大声で笑い始めた。
「あは、あははははっ・・・君は、ホントに、本当に賢いねぇ。」
「・・・認めるんですね?貴方達が、ビグベルーを引っ張ってきた、と。」
私は、この機を逃すまいと畳み掛ける。
タルマンは、片手で顔を抑え、くっくっと笑いながら、私を見た。
「・・・だから?だったら何だって言うんだい?
僕達は、A級ライセンス持ちのクラスAパーティーだ。誰も逆らう事は出来ないんだよ。」
「ぁんっ!!」
掴まれたままの私の右手は、ギリギリとガンスに捻り上げられる。
「・・・ギルマスは腰抜け。君のパートナーも、ファーマスも、最後に呼んだあの巨大なビグベルーにやられたんだろ?
ファーマスがいないイズマやベネリも相手じゃない。
・・・さぁ、これで君は、僕たちの所に来るしかなくなった。」
ぐ、と力を込めて顎を掴まれ、歪んだ笑顔のタルマンの顔が近づく。
「どんなに強がったって無駄さ。君が逃げたところで、追う術は幾らでもある。
僕は領主の息子だしねぇ。
君が哭いてすがって、命乞いしなければならないほどにね、僕達の所から逃げられないようにしてあげるよ。
・・・堪えられないほどの快楽と共に、ねぇ?」
耳元で、ねっとりとした声で囁くと、タルマンは勝ち誇ったように笑い始めた。
よし。
ーーー 言質は取った。
お遊びは終わりだ。
「・・・ふふっ。」
「何が可笑しい?」
急に笑い出した私を、タルマンは訝しがる。
思い切り下から睨みつけ、私は啖呵を切った。
「・・・A級ライセンス中、最弱の馬鹿共が、なに巫山戯たことをほざきやがる。」
「何だと!?」
素早く全身に身体強化をかけると、片膝を立て、右手を振り切る。
つまり、私の右手を掴んでいたガンスを、そのまま思いっきり休憩スペースの壁を目がけて片手でぶん投げた。
「「「「なっ」」」」
ギルド内の空気が止まる。
ガンスの巨躯は、突然の事に為すすべなく、ドゴンッと大きな音を立てて壁にぶつかり、止まったようだ。
「魔獣暴走の『3体目の巨大ビグベルー』は居なかったことになってんだよ。
・・・討伐部位も魔石も残らない程に、私が木っ端微塵にしたからな。」
私はゆっくり立ち上がると、右手を振り、空間収納から相棒を取り出す。
「・・・逃げも隠れもしねーよ。アンタらを叩き潰すために、私は望んでココにいる。」
***************
※ 今日、もう一話行っちゃいます(^^)
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
失礼な人のことはさすがに許せません
四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」
それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。
ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる