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第2ラウンドの鐘が鳴る
64.奸計
しおりを挟む気持ち悪い気配と声に振り返ると、『ケルベロス』の面々が居た。
そして、その後ろにも何人かのガラの悪い連中がいる。多分、コソコソ嗅ぎ回っていた奴らだろう。
タルマンが、笑顔で歩みを進めてくる。
イズマさんが、私の前に立ち、警戒を強めた。
「大変な目にあったようだね。ソコの無能達の所為で、怖い思いをしたのだろう?」
「・・・白々しい。」
イズマさんがぎ、と睨みつける。
「君は貴重な存在だ。クラスBパーティー如きに任せてはおけない。クラスAパーティーの僕たちの所であれば、何も問題はないさ。」
そう言うと、タルマンは私の腕を取ろうと手を伸ばした。
「触るなっ!」
その手をイズマさんが振り払った途端、ドフッという音と共に、イズマさんの身体が飛ばされた。
ガシャガシャン!!!!
イズマさんの身体は、 カウンターの横にある休憩スペースの机や椅子に派手に突っ込んでいく。
「邪魔だ。」
見ると、体躯の大きなガンスが腕を振り抜いていた。
「イズマさんっ!!!」
「何処に行くのォ?」
クタっとしたまま動かないイズマさんの所に駆け出そうとした私の前を、細身のチッタが立ちはだかる。
「君はもう、『ケルベロス』の所属なんだよォ?あんな弱い男に構う必要はないさ。」
ニタニタと下卑た笑みで、私を見るチッタ。
私は、彼を睨みつける。
「イズマさんは、弱くありませんっ!」
横をすり抜けようとした私の右腕が、ゴツい手に捕まる。
「離してっ!」
振り解こうとした先には、巨躯がある。
ガンスが私の腕を捻り上げ、馬鹿にしたような笑い声を上げる。
「弱いだろ。ビグベルー如きに手こずり致命傷を負うパーティーなんてな。・・・お前ら。」
ガンスの声に、じりじりと取り巻きの男達が、倒れているイズマさんに近寄る。
「っ!?何するのっ?」
私の声に、タルマンとチッタはクスクスと笑う。
ガンスのドスの効いた声が響いた。
「・・・殺れ。」
それを合図に、取り巻き達が動く。
「やめてぇ!!」
始まったのは、私的制裁。
ゴスッ!ドスッ!と殴打される嫌な音がギルド内に響く。
「だから、あんな弱い奴、気にする必要ないってェ。」
「嫌ぁっ!イズマさんっ!イズマさんっ!!」
必死に振り解こうとする私の顔を、チッタがニタニタと覗き込む。
ひとしきり殴る蹴るをした取り巻き達の動きが止まる。
「ぐっ・・・」
イズマさんは、床に伏したまま、ピクリとも動かない。
「離してよっ!・・・イズマさん!!しっかりしてぇっ!!」
「ふふっ離さないよ?君はもう、『ケルベロス』の一員なんだから。あんな無能を構う必要はない。」
「・・・何ですか、それ?!
『グレイハウンド』は無能じゃないっ!魔獣暴走だったんですよ!?」
「それでも、だよ?君も、巨大なビグベルーに当たって怪我をしてしまったのだろう?可哀想に。」
タルマンの手が、包帯を巻かれている私の首に伸びてくる。
「もう安心していいんだよ。『グレイハウンド』にいる必要はないんだ。」
タルマンの右手が、私の首筋から頬に這ってくる。
じ、と整った顔が、私の目を見つめる。
ブワッと、私の周りに魔力の気配を感じる。
頭の中がかき乱されるような、気持ちの悪い気配。
ぼんやりしてくる視界の中、甘い声が聞こえてくる。
「いい子だね・・・さぁ、僕達と一緒に行こうか。大人しくしていれば、アイツには手出しはしないよ?」
「ホント・・・に?」
「あぁ、勿論だとも。君が、僕達の言いつけを守ってくれるなら、だけど、ね?」
ニタリ、とタルマンは笑みを深める。
くたり、と私は身体の力を抜く。
右腕を掴まれたまま、床にへたり込む。
くい、と顎を掴まれ、顔を上げられる。
タルマンが、顔を見つめたまま、甘ったるい声を出す。
「・・・こんなに華奢な君を傷つけるだけで、アイツらは無能と言われて仕方がないのさ。
ビグベルー3体程度を片付けられない、なんてねぇ。」
ーーー きた。
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