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第2ラウンドの鐘が鳴る
63.いざ出陣
しおりを挟む※ 宿名間違ってたので、修正してます。
**************
魔獣暴走後から、私たちは実質治療院で暮らしている状態。ベネリさんとイズマさんだけ、宿に戻っている。
「コレが終われば、『陽だまり亭』に戻れるかなぁ。」
ミーナちゃんに、アグウルグお土産にする話したのに、まだ渡せてないもんなぁ。オヤジさんの美味しいご飯食べたいなぁ。
そんな事を思いながら目覚めた朝。
今日でケリをつけたいなぁ。
と思いながら、身支度を整える。
胸当ても、手甲も付けたフル装備。
背中の半分位まで伸びてしまった髪は、頭の高い位置で一本に纏める。
全てを揃えると、右拳をぐ、と握りしめて左掌に打ち付ける。
パン、と小気味良い音が部屋に響く。
「・・・よし。」
気合いを入れると部屋を出た。
***
師匠、カン君、ベネリさんは、既に出払い、持ち場に向かった様子。
治療院のホールに、レザリック先生と、イズマさんが待っていた。
「準備はいいか?」
「もちろんです。」
ぐ、と拳を握る私を見て、目を細めて微笑むイズマさん。
レザリック先生も苦笑いで、声をかけてくる。
「気合いが入るのはいいけど・・・こないだみたいに無理するんじゃないよ?」
「大丈夫ですよ?今日はお話し合いの予定ですから。」
「まぁ、気をつけて行ってらっしゃい。」
「はぁい。ではイズマさん、行きましょう。」
「ん。」
レザリック先生に見送られ、私とイズマさんは治療院を出た。
***
先ずは予定通り、商業ギルドに向かい、レインさんとお話し。
具体的なレシピ販売方法やら、片栗粉やら醤油モドキやらの取り扱いのその後について、進捗状況を確認。
最終的には、今回の案件が片付いてから色々販売開始、と。
これから行ってきます、と伝えた所、レインさんからは、「やっちゃって、構いませんからね。」と黒い気配がダダ漏れのいい笑顔で言われてしまいました。「やっちゃって」が「殺れ」に聞こえたのは私だけではないハズだ。
どうやら、レインさんも鬱憤が溜まっとるご様子。
周りの女の子が被害にあったりする中、彼女には直接の手出しがないため動けなかったと。
ほんっとに、弱い者イジメの構図だった訳だ。
話を聞くにつれ、手加減無用でやっちゃって良いんだなぁ、と決意を新たにする。
視線を感じ振り向くと、イズマさんが心配そうに見ている。
「・・・気をつけろよ?」
「イズマさんも、ご自身のガードを、お願いしますね?」
にぱ、と笑顔を見せてみると、困ったような微笑みに変わる。
・・・本日の交渉は、私に一任されている。
証拠は揃ってる。
どんな手をとっても、自供が取れれば、コッチの勝ちだ。
*
レインさんに見送られ商業ギルドを出、隣の冒険者ギルドの扉をくぐる。
中の視線が一気にこちらに向いた気がしたが、気にせずカウンターへ向かう。
奴らの気配は、まだない。
受付カウンター前に来ると、ギルドカードを差し出して笑顔で受付嬢に告げる。
「ライセンスの件で、呼ばれています。ザイルさんをお呼び出しいただけますか?」
受け取った受付嬢は、ちらとこちらを見ると意味深な笑みを浮かべた。
「あぁー。D級ライセンスのリンさんでいらっしゃいますねぇ。少々お待ちくださぁい。」
妙にくねりながら、奥に行く女性職員。
戻ってきたと思ったら、ザイルさんではない男性職員を連れて戻って来る。
・・・あぁ、コイツら私達が何処でアグウルグ退治をするか、しつこく聞いてきた奴らか。
すると、男性職員がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「おぉーっリンさん。無事にお戻りになられて何よりです。ザイルは只今執務中でして。代わりに私が対応させていただきます。受付統括のギャバと申します。」
「よろしくお願いします。」
胡散臭い笑みを見せるギャバという男に、私は笑顔で挨拶を返す。
「で、ライセンスの件なのですが、C級には上がるのですがね・・・ちょーっと問題がありましてねぇ。」
顔だけは申し訳無さそうにするギャバは、ちらとイズマさんを見やった。
「D級であるにもかかわらず、魔獣暴走討伐に従事させた、ということで、あなたを『グレイハウンド』に所属させておくのは不適切だという判断が下されたのですよ。」
「なにっ!?」
「それは、冒険者ギルドとしての決定ということなのですか?」
慌てる様子のイズマさんの横で、私は困惑した表情で聞き返す。
「えぇそうなのですよ。誠に残念なのですがねぇ。」
ニヤニヤと、気持ちの悪い笑みを見せる目の前の男。
ずぃ、とイズマさんは、私とカウンターの間に身体を割り込ませ、ギャバと対峙する。
「いつから、そんな規定になった?パーティーへの所属は冒険者個人の自由意思だ。ギルド側で所属先を決めるなんてことはあり得ない。」
「ですから、例外、なのですよ。貴重な『黒持ち』であるリンさんを、危険な目に合わせた『グレイハウンド』には置いておけない、という事ですよ。」
話にならない、という態度で、イズマさんに言葉を投げるギャバ。
私は喉奥から声を振り絞り受付に向かう。
「・・・到底納得できません。ザイルさんを呼んでください。」
「申し訳ありません、ザイルは執務が立て込んでおりましてね。で、あなたを迎え入れていただけるパーティーなのですがね。」
私の申し出はまるっと無視をして、ギャバは言葉を続ける。
途端にざわっと気持ちの悪い気配を背後に感じた。
「あぁ、来ていたんだね・・・君。」
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