転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
65 / 393
第2ラウンドの鐘が鳴る

63.いざ出陣

しおりを挟む

※ 宿名間違ってたので、修正してます。





**************


魔獣暴走スタンピート後から、私たちは実質治療院で暮らしている状態。ベネリさんとイズマさんだけ、宿に戻っている。


「コレが終われば、『陽だまり亭』に戻れるかなぁ。」


ミーナちゃんに、アグウルグお土産にする話したのに、まだ渡せてないもんなぁ。オヤジさんの美味しいご飯食べたいなぁ。

そんな事を思いながら目覚めた朝。

今日でケリをつけたいなぁ。
と思いながら、身支度を整える。

胸当ても、手甲も付けたフル装備。
背中の半分位まで伸びてしまった髪は、頭の高い位置で一本に纏める。

全てを揃えると、右拳をぐ、と握りしめて左掌に打ち付ける。
パン、と小気味良い音が部屋に響く。


「・・・よし。」


気合いを入れると部屋を出た。


***


師匠、カン君、ベネリさんは、既に出払い、持ち場に向かった様子。

治療院のホールに、レザリック先生と、イズマさんが待っていた。


「準備はいいか?」

「もちろんです。」


ぐ、と拳を握る私を見て、目を細めて微笑むイズマさん。
レザリック先生も苦笑いで、声をかけてくる。


「気合いが入るのはいいけど・・・こないだみたいに無理するんじゃないよ?」

「大丈夫ですよ?今日はお話し合いの予定ですから。」

「まぁ、気をつけて行ってらっしゃい。」

「はぁい。ではイズマさん、行きましょう。」

「ん。」


レザリック先生に見送られ、私とイズマさんは治療院を出た。


***


先ずは予定通り、商業ギルドに向かい、レインさんとお話し。
具体的なレシピ販売方法やら、片栗粉やら醤油モドキやらの取り扱いのその後について、進捗状況を確認。

最終的には、今回の案件が片付いてから色々販売開始、と。

これから行ってきます、と伝えた所、レインさんからは、「やっちゃって、構いませんからね。」と黒い気配がダダ漏れのいい笑顔で言われてしまいました。「やっちゃって」が「殺れ」に聞こえたのは私だけではないハズだ。

どうやら、レインさんも鬱憤が溜まっとるご様子。
周りの女の子が被害にあったりする中、彼女には直接の手出しがないため動けなかったと。

ほんっとに、弱い者イジメの構図だった訳だ。

話を聞くにつれ、手加減無用でやっちゃって良いんだなぁ、と決意を新たにする。

視線を感じ振り向くと、イズマさんが心配そうに見ている。


「・・・気をつけろよ?」

「イズマさんも、ご自身のガードを、お願いしますね?」


にぱ、と笑顔を見せてみると、困ったような微笑みに変わる。

・・・本日の交渉は、私に一任されている。
証拠は揃ってる。
どんな手をとっても、自供が取れれば、コッチの勝ちだ。




レインさんに見送られ商業ギルドを出、隣の冒険者ギルドの扉をくぐる。
中の視線が一気にこちらに向いた気がしたが、気にせずカウンターへ向かう。

奴らの気配は、まだない。


受付カウンター前に来ると、ギルドカードを差し出して笑顔で受付嬢に告げる。


「ライセンスの件で、呼ばれています。ザイルさんをお呼び出しいただけますか?」


受け取った受付嬢は、ちらとこちらを見ると意味深な笑みを浮かべた。


「あぁー。D級ライセンスのリンさんでいらっしゃいますねぇ。少々お待ちくださぁい。」


妙にくねりながら、奥に行く女性職員。
戻ってきたと思ったら、ザイルさんではない男性職員を連れて戻って来る。

・・・あぁ、コイツら私達が何処でアグウルグ退治をするか、しつこく聞いてきた奴らか。

すると、男性職員がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「おぉーっリンさん。無事にお戻りになられて何よりです。ザイルは只今執務中でして。代わりに私が対応させていただきます。受付統括のギャバと申します。」

「よろしくお願いします。」


胡散臭い笑みを見せるギャバという男に、私は笑顔で挨拶を返す。


「で、ライセンスの件なのですが、C級には上がるのですがね・・・ちょーっと問題がありましてねぇ。」


顔だけは申し訳無さそうにするギャバは、ちらとイズマさんを見やった。


「D級であるにもかかわらず、魔獣暴走スタンピート討伐に従事させた、ということで、あなたを『グレイハウンド』に所属させておくのは不適切だという判断が下されたのですよ。」

「なにっ!?」

「それは、冒険者ギルドとしての決定ということなのですか?」


慌てる様子のイズマさんの横で、私は困惑した表情で聞き返す。


「えぇそうなのですよ。誠に残念なのですがねぇ。」


ニヤニヤと、気持ちの悪い笑みを見せる目の前の男。
ずぃ、とイズマさんは、私とカウンターの間に身体を割り込ませ、ギャバと対峙する。


「いつから、そんな規定になった?パーティーへの所属は冒険者個人の自由意思だ。ギルド側で所属先を決めるなんてことはあり得ない。」

「ですから、例外、なのですよ。貴重な『黒持ち』であるリンさんを、危険な目に合わせた『グレイハウンド』には置いておけない、という事ですよ。」


話にならない、という態度で、イズマさんに言葉を投げるギャバ。
私は喉奥から声を振り絞り受付に向かう。


「・・・到底納得できません。ザイルさんを呼んでください。」

「申し訳ありません、ザイルは執務が立て込んでおりましてね。で、あなたを迎え入れていただけるパーティーなのですがね。」


私の申し出はまるっと無視をして、ギャバは言葉を続ける。
途端にざわっと気持ちの悪い気配を背後に感じた。


「あぁ、来ていたんだね・・・君。」




しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...