転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
64 / 393
第2ラウンドの鐘が鳴る

62.撒き餌

しおりを挟む


数日経ち、魔獣寄せの香の出所が判明したらしいとの連絡あり。

そして、明後日領主様の所から、ギルマスが帰って来るとの公式連絡が入った。


「そろそろだな。」

師匠の一言で、明日作戦決行となった。





・・・てな訳で、今日も私とイズマさんは市場へ買い出し。
その様子を見ながら、おばちゃん達はからかってくる。


「おや、今日も2人だねぇ。仲いいこと。」

「そんなんじゃ、ないですよぉ~?」

「イズマくんも、ちょっと愛想よくなったねぇ。」


イズマさんは無言でポリ、と頬をかく。
ベネリさんと位しかつるんでいなかったイズマさんが私と居る、何だかんだと気遣っている。

それだけで、噂の威力って凄いもんだ。

こちとら、イズマさんと、嘘甘々なやり取りするだけで、腹筋崩壊しそうになんのを堪えてんのにな。



街に来て日の浅い私やカン君の詳細は、市場のおばちゃん達や一般冒険者の人達は知る由もなく。
お陰で私は『怪我したリーダーや仲間を健気に面倒見る、頑張り屋の駆け出し冒険者』というレッテルを貼られている。

そして、イズマさんは『健気な後輩を面倒見るにつれ、守ってやりたいと、いつしか愛情を持つようになり、表情が豊かになった。』という設定にされたようだ。


『・・・お前の猫被りも、大概だな。』

『そーゆー芝居プレイを楽しんでるだけですにゃぁ?』

『守るどころか、1人で打っ込むぶっこむ奴なのになぁ。』

『否定はしませんにゃ。』


ニコニコしながら、腹話術チックに突っ込み合う。


おばちゃん達は、噂話に花が咲き、色々と教えてくれる。


「ったく、例のクラスAパーティーの連中、まーた大口叩いてるらしいよ?」

「聞いた聞いた。自分達がいれば、魔獣暴走スタンピートなんか直ぐに収められた、とか何だとか。居なかったヤツが、何言ってんのさって。」

「ファーマスさん達の怪我の事も言ってたらしいけど。居なかった高ランクの人間より、たとえ低いランクでも、実際に身体張って守ってくれた冒険者さんの方がずっとありがたいよ。」


・・・わぁ、辛辣。
私達がいるから多少のリップサービスもあるとは思うけれど。
ケルベロス駄犬』は、街の人たちからの心証は悪いようだ。
冒険者って、信用がナンボの商売じゃないのかなぁ?と思うけど。勘違い野郎達だから、仕方ないのか。


何やかんやとおまけを渡してくれたおばちゃん達に、お礼を言って別れると、市場を歩きながら、荷物を抱えたイズマさんが、身体を寄せて話かけてくる。


「そういや、リン。商業ギルドに呼ばれている件、どうする?」

「レシピ販売の件でしたっけ。そうですね・・・明日にでもお邪魔しようかと。あと、冒険者ギルドにも、顔出す必要がありますし。」


むぅ、と考える私の顔を、心配そうに覗き込むイズマさん。


「ライセンスのランクアップの件か。カンが本調子になってからでも、いいんだぞ?」

「いえ・・・こんな状況だからこそ、先に受けた方が良いかな、って・・・」

「わかった・・・なら、俺も一緒に行く。明日もベネリが居ないから、1人では、出るなよ?」

「過保護ですねぇ。」


ぽふ、と頭を撫でるイズマさんの顔を、クスクス笑いながら、見上げる。

・・・わぁ、何とこっ恥ずかしいバカップル芝居プレイ
気持ち、声も大きめで話を続ける。

ーーー その時、気持ちの悪い気配が動いた。
索敵からも、変な勢いで離れて行く青丸。


『かかった、な。』

『ですねぇ。』


お互いに顔を見合わせ、くす、と笑う。


「さて、お使い餌まきは終わりましたし・・・帰ります?」

「そうだな・・・ん、何か屋台で買い出ししながら行くか?」


イズマさんは、目を細めて微笑むと、私の頭をポンと撫でる。

・・・途端に別の殺気を感じる。
街のお姉様方の視線が痛い。

屋台で買い出しを追加している時も、背中にグサグサと刺さるんだよなぁ。

この撒き餌の所為で、実の所『ケルベロス駄犬』よりも、コッチの方お姉様方が怖かったりしてるんですが、どうしましょう。

・・・いつか背中刺されそう。

しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

処理中です...