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第2ラウンドの鐘が鳴る

62.撒き餌

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数日経ち、魔獣寄せの香の出所が判明したらしいとの連絡あり。

そして、明後日領主様の所から、ギルマスが帰って来るとの公式連絡が入った。


「そろそろだな。」

師匠の一言で、明日作戦決行となった。





・・・てな訳で、今日も私とイズマさんは市場へ買い出し。
その様子を見ながら、おばちゃん達はからかってくる。


「おや、今日も2人だねぇ。仲いいこと。」

「そんなんじゃ、ないですよぉ~?」

「イズマくんも、ちょっと愛想よくなったねぇ。」


イズマさんは無言でポリ、と頬をかく。
ベネリさんと位しかつるんでいなかったイズマさんが私と居る、何だかんだと気遣っている。

それだけで、噂の威力って凄いもんだ。

こちとら、イズマさんと、嘘甘々なやり取りするだけで、腹筋崩壊しそうになんのを堪えてんのにな。



街に来て日の浅い私やカン君の詳細は、市場のおばちゃん達や一般冒険者の人達は知る由もなく。
お陰で私は『怪我したリーダーや仲間を健気に面倒見る、頑張り屋の駆け出し冒険者』というレッテルを貼られている。

そして、イズマさんは『健気な後輩を面倒見るにつれ、守ってやりたいと、いつしか愛情を持つようになり、表情が豊かになった。』という設定にされたようだ。


『・・・お前の猫被りも、大概だな。』

『そーゆー芝居プレイを楽しんでるだけですにゃぁ?』

『守るどころか、1人で打っ込むぶっこむ奴なのになぁ。』

『否定はしませんにゃ。』


ニコニコしながら、腹話術チックに突っ込み合う。


おばちゃん達は、噂話に花が咲き、色々と教えてくれる。


「ったく、例のクラスAパーティーの連中、まーた大口叩いてるらしいよ?」

「聞いた聞いた。自分達がいれば、魔獣暴走スタンピートなんか直ぐに収められた、とか何だとか。居なかったヤツが、何言ってんのさって。」

「ファーマスさん達の怪我の事も言ってたらしいけど。居なかった高ランクの人間より、たとえ低いランクでも、実際に身体張って守ってくれた冒険者さんの方がずっとありがたいよ。」


・・・わぁ、辛辣。
私達がいるから多少のリップサービスもあるとは思うけれど。
ケルベロス駄犬』は、街の人たちからの心証は悪いようだ。
冒険者って、信用がナンボの商売じゃないのかなぁ?と思うけど。勘違い野郎達だから、仕方ないのか。


何やかんやとおまけを渡してくれたおばちゃん達に、お礼を言って別れると、市場を歩きながら、荷物を抱えたイズマさんが、身体を寄せて話かけてくる。


「そういや、リン。商業ギルドに呼ばれている件、どうする?」

「レシピ販売の件でしたっけ。そうですね・・・明日にでもお邪魔しようかと。あと、冒険者ギルドにも、顔出す必要がありますし。」


むぅ、と考える私の顔を、心配そうに覗き込むイズマさん。


「ライセンスのランクアップの件か。カンが本調子になってからでも、いいんだぞ?」

「いえ・・・こんな状況だからこそ、先に受けた方が良いかな、って・・・」

「わかった・・・なら、俺も一緒に行く。明日もベネリが居ないから、1人では、出るなよ?」

「過保護ですねぇ。」


ぽふ、と頭を撫でるイズマさんの顔を、クスクス笑いながら、見上げる。

・・・わぁ、何とこっ恥ずかしいバカップル芝居プレイ
気持ち、声も大きめで話を続ける。

ーーー その時、気持ちの悪い気配が動いた。
索敵からも、変な勢いで離れて行く青丸。


『かかった、な。』

『ですねぇ。』


お互いに顔を見合わせ、くす、と笑う。


「さて、お使い餌まきは終わりましたし・・・帰ります?」

「そうだな・・・ん、何か屋台で買い出ししながら行くか?」


イズマさんは、目を細めて微笑むと、私の頭をポンと撫でる。

・・・途端に別の殺気を感じる。
街のお姉様方の視線が痛い。

屋台で買い出しを追加している時も、背中にグサグサと刺さるんだよなぁ。

この撒き餌の所為で、実の所『ケルベロス駄犬』よりも、コッチの方お姉様方が怖かったりしてるんですが、どうしましょう。

・・・いつか背中刺されそう。

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