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第2ラウンド開始前
60.空回り(カン、ファーマス視点)
しおりを挟む「お前、盾役辞めろ。」
「え・・・。」
思わず、師匠の顔を見る。
師匠は真剣な顔で俺を見ていた。
「お前の魔力量と放出攻撃可能な点を考えたなら、後衛向きだ。自由度が高い分、好きに動いても問題ない。」
いきなりの死刑宣告に、頭が働かない。
喉の奥が乾いて、声が出ない。
「い・・・やだ。」
「あん?」
「いやだ!!」
思わず喉を振り絞って叫んだ。
いやだ。
彼女の後ろにいるなんて。
「俺はっ、盾役辞めたくないっス!」
守るって、守りたいって、決めたんだ。
彼女の盾になるって。
・・・師匠じゃなくて、俺を見て欲しいから。
そんな俺を見て、師匠の顔は険しくなる。
「だったら。」
師匠の気配が変わる。威圧が篭って俺を見据えてくる。
「二度と前で倒れるな。リンの・・・惚れた女の目の前で、無様な姿を晒すんじゃねぇ。」
威圧に気圧され、息苦しくなる。
それでも。
俺は前に立ちたい。
拳を握りしめ、師匠の顔を見て、必死に威圧に耐える。
「おーい。治療院で怪我人相手に威圧ぶっ放すな。」
音もなく部屋の扉が開き、レザリック先生が顔を出した。
す、と、圧がなくなる。
急に解き放たれ、思わず咳き込んでしまう。
「話は終わったか?」
「あぁ。」
「じゃ、交代。診察すっから。」
レザリック先生は、しっし、とでも言うように、師匠を手で追いやる。
はぁ、と息を吐いた師匠は立ち上がる。
「・・・明日、今後について話し合う。今度は、余計な真似すんなよ。」
それだけ言うと、師匠は部屋を出て行った。
レザリック先生は何も言わずに、診察だけ行っていく。
最後に体力回復系のポーションを飲まされて、診察は終わった。
「頭の傷も問題なし。内部的な所も大丈夫と思うけど、一応大事とって一晩は休んでおきなさい。」
「はい・・・、先生っ、あの・・・」
「何だい?」
器具を片付けながら、レザリック先生が聞き返してくる。
「リンさんの、ケガの具合は、どうなんっスか?」
「ん?有り体に言えば、全身肉離れと、疲労骨折ってやつかな。要は使い過ぎ。」
「使い、過ぎ、ですか?」
「そ。・・・あると思ってた盾役が一枚無くなるだけで、残された者の負担が増えるんだ。リン君はそれを補うために動き過ぎた。」
「そ、んな・・・」
「なまじっか強力な身体強化が使えたばっかりに、身体が悲鳴をあげても抑え込める。ボロボロな身体を身体強化で無理矢理くっつけて動かしてたようなもんだ。そして、戦いで興奮してるから、痛みに気づきもしない。」
先生は、俺が師匠に聞けなかったことを、丁寧に教えてくれる。
「特に今回みたいな魔獣暴走は、最小人数で最大限の効果を上げるために、みんなが効率的に動く必要がある。だからこその作戦、だ。行けると判断して良いのは、自分に与えられた範疇内でのこと。・・・これで、痛いほど、分かっただろ?」
先生の言葉は分かりやすくて、胸にストンと落ちる。
同時に、自分がどれだけ馬鹿な事をしたのかも突きつけられる。
「ま、色々考える事はあると思うけど、とりあえずは寝なさい。いいね?」
そう言うと、先生も部屋を出ていく。
1人残された俺は、枕に顔を埋めた。
『そんなに、リンにイイとこ見せたかったか。』
師匠の言葉が痛い。
そんな事考えていない。
考えていない、つもりだった。
でも。
凌げれば、認められると、あの時思ってしまったんだ。
すげぇ格好悪ぃ。
自分の役割も果たせなくて。
逆に皆んなを危険な目に合わせて。
リンさんに、負担を強いてしまった。
『ーーーちっくしょー!』
枕に埋もれたまま叫ぶ。
悔しい。
何もかもが。
俺は、とてつもなく遠い背中を追いかけていると、この時思い知った。
***
レザリックに、言外に「頭を冷やせ」と言われ、部屋から追い出された。
「あー。」
カン、これでもダメか。
あそこで盾役辞めたくねぇ、とゴネるとはな。
えーかっこしーかよ。
つい、イラッときてしまった。
・・・完全に『守り』を履き違えてんな。
大体にして、リンは大人しく守られるタマじゃないだろ。
たとえカンが存外に強い盾役だったとしても、アイツは守られるのを良しとしない。
アイツが求めているのは、お姫様を守る勇者ではない。
アイツは、自らぶっ込んで行ってナンボって奴だろうが。むしろ自分が勇者ポジションに立つぐらいの、なぁ。
・・・それが分かってねーから、相手にもされねーんだろうな。
それに、あの馬鹿は、俺を意識し過ぎだろう。
俺の真似をした所で、自分の良さが封じられるだけだと、何故分からん。
・・・まぁ、いい。
辞めねっつーんなら、今以上にテクニックを叩き込むだけだ。
この世界で、盾役として死なないための術を。
それが、アイツを守るためなら、喜んでそうしてやろう。
・・・覚悟しとけ。
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