転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
62 / 393
第2ラウンド開始前

60.空回り(カン、ファーマス視点)

しおりを挟む



「お前、盾役タンク辞めろ。」

「え・・・。」


思わず、師匠の顔を見る。
師匠は真剣な顔で俺を見ていた。


「お前の魔力量と放出攻撃可能な点を考えたなら、後衛向きだ。自由度が高い分、好きに動いても問題ない。」


いきなりの死刑宣告に、頭が働かない。
喉の奥が乾いて、声が出ない。


「い・・・やだ。」

「あん?」


「いやだ!!」


思わず喉を振り絞って叫んだ。

いやだ。
彼女の後ろにいるなんて。


「俺はっ、盾役タンク辞めたくないっス!」


守るって、守りたいって、決めたんだ。
彼女の盾になるって。
・・・師匠じゃなくて、俺を見て欲しいから。

そんな俺を見て、師匠の顔は険しくなる。


「だったら。」


師匠の気配が変わる。威圧が篭って俺を見据えてくる。


「二度と前で倒れるな。リンの・・・惚れた女の目の前で、無様な姿を晒すんじゃねぇ。」


威圧に気圧され、息苦しくなる。

それでも。
俺は前に立ちたい。

拳を握りしめ、師匠の顔を見て、必死に威圧に耐える。


「おーい。治療院で怪我人相手に威圧ぶっ放すな。」


音もなく部屋の扉が開き、レザリック先生が顔を出した。

す、と、圧がなくなる。
急に解き放たれ、思わず咳き込んでしまう。


「話は終わったか?」

「あぁ。」

「じゃ、交代。診察すっから。」


レザリック先生は、しっし、とでも言うように、師匠を手で追いやる。
はぁ、と息を吐いた師匠は立ち上がる。


「・・・明日、今後について話し合う。今度は、余計な真似すんなよ。」


それだけ言うと、師匠は部屋を出て行った。

レザリック先生は何も言わずに、診察だけ行っていく。
最後に体力回復系のポーションを飲まされて、診察は終わった。


「頭の傷も問題なし。内部的な所も大丈夫と思うけど、一応大事とって一晩は休んでおきなさい。」

「はい・・・、先生っ、あの・・・」

「何だい?」


器具を片付けながら、レザリック先生が聞き返してくる。


「リンさんの、ケガの具合は、どうなんっスか?」

「ん?有り体に言えば、全身肉離れと、疲労骨折ってやつかな。要は使い過ぎ。」

「使い、過ぎ、ですか?」

「そ。・・・あると思ってた盾役タンクが一枚無くなるだけで、残された者の負担が増えるんだ。リン君はそれを補うために動き過ぎた。」

「そ、んな・・・」

「なまじっか強力な身体強化が使えたばっかりに、身体が悲鳴をあげても抑え込める。ボロボロな身体を身体強化で無理矢理くっつけて動かしてたようなもんだ。そして、戦いで興奮してるから、痛みに気づきもしない。」


先生は、俺が師匠に聞けなかったことを、丁寧に教えてくれる。


「特に今回みたいな魔獣暴走スタンピートは、最小人数で最大限の効果を上げるために、みんなが効率的に動く必要がある。だからこその作戦、だ。行けると判断して良いのは、自分に与えられた範疇内でのこと。・・・これで、痛いほど、分かっただろ?」


先生の言葉は分かりやすくて、胸にストンと落ちる。
同時に、自分がどれだけ馬鹿な事をしたのかも突きつけられる。


「ま、色々考える事はあると思うけど、とりあえずは寝なさい。いいね?」


そう言うと、先生も部屋を出ていく。


1人残された俺は、枕に顔を埋めた。


『そんなに、リンにイイとこ見せたかったか。』


師匠の言葉が痛い。

そんな事考えていない。
考えていない、つもりだった。

でも。
凌げれば、認められると、あの時思ってしまったんだ。

すげぇ格好悪ぃ。
自分の役割も果たせなくて。
逆に皆んなを危険な目に合わせて。

リンさんに、負担を強いてしまった。


『ーーーちっくしょー!』


枕に埋もれたまま叫ぶ。

悔しい。
何もかもが。


俺は、とてつもなく遠い背中を追いかけていると、この時思い知った。



***




レザリックに、言外に「頭を冷やせ」と言われ、部屋から追い出された。


「あー。」


カンアイツ、これでもダメか。
あそこで盾役タンク辞めたくねぇ、とゴネるとはな。

えーかっこしーかよ。

つい、イラッときてしまった。
・・・完全に『守り』を履き違えてんな。

大体にして、リンは大人しく守られるタマじゃないだろ。
たとえカンが存外に強い盾役タンクだったとしても、アイツは守られるのを良しとしない。
アイツが求めているのは、お姫様を守る勇者ではない。

アイツは、自らぶっ込んで行ってナンボって奴だろうが。むしろ自分が勇者ポジションに立つぐらいの、なぁ。

・・・それが分かってねーから、相手にもされねーんだろうな。


それに、あの馬鹿カンは、俺を意識し過ぎだろう。
俺の真似をした所で、自分の良さが封じられるだけだと、何故分からん。


・・・まぁ、いい。
辞めねっつーんなら、今以上にテクニックを叩き込むだけだ。
この世界で、盾役タンクとして死なないための術を。

それが、アイツを守るためなら、喜んでそうしてやろう。


・・・覚悟しとけ。


しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...