転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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第2ラウンド開始前

59.現実(カン視点)

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酷い倦怠感と頭痛の中、目が覚める。
見慣れない木目の天井。それで、ここは宿のいつもの部屋ではない事に気がつく。


「ーーーぃってぇっ!」


起き上がろうとするも、左の側頭部に走った痛みで目を瞑り、そのまま枕に沈んだ。


「起きた?!」

「起きたか。」
 

目を開けると、ベネリさんとイズマさんが顔を覗き混んでいた。


「ここは・・・?」

「レザ先生の治療院だ。」

「お前はっ!何やったか分かってんのか!?」


俺の問いに、端的に答えてくれるイズマさん。
被せるように、ベネリさんが怒鳴る。

いつも俺をからかう程でしか関わってこなかったベネリさんなのに、すげー怒鳴ってる。
珍しいな、この人こんな顔もするんだな、とか、ぼんやりと何処か他人事に見えてしまっていた。


「何であんな巨大ビグベルーを凌ぎきれると思ったんだっ!思い上がるのもいい加減にしろっ!」


あの時、ビグベルーが接近してるとリンさんの声が聞こえ。
ビグベルーの接近する側に俺がいたから。

だから・・・


「すんません・・・」

「・・・っ!お前なぁ!」

「ベネリ、やめろ。」


気のない謝罪に聴こえてしまったのだろう。
ベネリさんをヒートアップさせてしまった。

多分もう、何を言っても、駄目だろうな・・・
ぼんやりとベネリさんを眺めたまま。
怒鳴る声を聞いていた。


「ーーーっ!お前の所為で、リンちゃんはなぁっ!」

「ベネリっ!」


何かを言おうとしたベネリさんを、イズマさんが遮った。


ーーー え?今、なんて、


反射的にガバッと起き上がる。
倦怠感も頭痛も置いておいて。


「リンさんが、どう・・・」

「ーーー ベネリ。そこまでだ。」


ベネリさんに問いただそうとしたところで、部屋の扉が開き、ファーマス師匠が入ってくる。
声色に怒気が混ざる。部屋の空気が、ピリッと変わった。


「ファーマス、さ、」

「ベネリもイズマも、レザの所でコーヒーでも飲んでこい。・・・俺が代わる。」

「・・・はい。」


く、と唇を噛んだベネリさんの肩をイズマさんが叩き、2人は部屋を出て行った。

パタン、と扉が閉まると、師匠は入り口から、ベッドサイドまで来て、椅子に腰掛ける。


「身体はどうだ?」

「あ・・・頭痛が少しと、倦怠感くらい、っス。・・・あのっ?」

「何だ?」

「・・・リンさん、何かあったんスか?」


その言葉を口にした途端、すぅ、と師匠の目が細くなった。


「・・・魔力枯渇ギリギリまで無理しただけだ。寝てりゃ治る。」


それ以上に何かありそうなのに。
師匠はそれ以上何も言わない。
聞き出したいのに、聞けない雰囲気だ。


「そうっスか・・・」


それしか声を絞り出せない。


「カン・・・今回の魔獣暴走スタンピートの作戦は何だった?」

「あ・・・」

「お前は愚を犯した。それは分かってるな?」

「・・・はい。」


新しく出現したランクA魔獣は、師匠が盾役タンクを行う。
それが、作戦だった。

何で俺はあの時・・・

ビグベルー出没予定側に俺がいて。

・・・違う。

出没予定側に、リンさんが居たから。
身体がそっちに向いた、んだ。

俯いたままの俺に、師匠が告げる。


「・・・そんなに、リンにイイとこ見せたかったか。」

「っ!そんなんじゃっ・・・」

「じゃぁ、なんだ?作戦無視する程に、ビグベルーを舐めてかかった、ってことか?」

「舐めてなんか居ないっス!」


あの時は、ひたすらに必死だった。
舐めてなんか居ない。
タゲ取りながら、耐えて居たんだ。

はぁ、と大きな息を吐いた師匠は、顔を上げた俺を見据える。


「お前があの巨大ビグベルーと対峙していた間、イズマとリンは何やっていた?」
 
「え・・・?」


師匠の一言に思考が止まる。
・・・ビグベルーの相手に必死になりすぎて、知らない。分からない。
俺は、何にも、見ていない。


「・・・お前の周りで雑魚処理してたんだよ。リンは、重力弾でお前のビグベルーの動きも阻害しながらな。」

「あ・・・」


言われて、愕然とする。


「お前は、巨大ビグベルーを、あの戦況から引き剝がさないで戦い始めたんだ。俺らは2体目から離れられねぇ。だったら、あの2人がバックアップに回るしかねーだろう?」


師匠の声が低くなる。


「イズマとリンは、お前の守護に回り、余計な魔力とアイテムを使っていた。
俺とベネリ、ロイドは、イズマとリンが取りこぼすしかなかった雑魚も相手にする必要が生まれた。
その分、2体目のビグベルー討伐に時間がかかった。」


言われて、初めて気がつく戦況変化。
そして・・・まざまざと見せつけられる、師匠と自分の実力差。


「お前が倒れた後、リンが気張ったんだ。・・・いつも通りの戦いなら、魔力枯渇まで行くことはなかっただろう。全員まだ余力があったはずだ。」

 
また。
また、俺は、彼女の足を引っ張った。


「前衛の仕事は、如何に遊撃や後衛が動きやすいように場を整えるかだ。目の前の敵だけ捌いてりゃいいって話じゃねぇ。
お前のとった行動が、今回パーティー全滅を引き起こす可能性だってあったんだ。」


俯き、ぐ、と唇を噛む。
そんな俺に、更なる師匠の一言が追い打ちをかけた。



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