転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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第2ラウンド開始前

56.咎

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眉間に皺を寄せ、厳つい顔のまま固まる師匠。


「34?・・・そのナリ、しかも鑑定でも、19と。」

「この世界に来た時に、何故だか若返ってました。だから、ここでの肉体年齢は19です。でも中身は34なんです。」

「マジか・・・」


はぁ、と、彼は大きく息を吐いた。


「・・・成る程な。そりゃ達観してんのも納得だ。イズマ達よりも年上かよ。・・・つか、坊主カンは?」

「彼も、実の所は24歳。あちらでも働き始めて1年目でした。」

「そうか・・・」

「すみません。騙していて。」


思わず眼を伏せる。
怒るだろうか。それとも、呆れるだろうか。
覚悟は決めたけど、やっぱり・・・


「いや、それはいい。最初の段階で、その姿で34歳と言われても、信じられんかっただろうし。
お前達が、知らない世界で身を守るために決めた事、だろう?それを責める理由はねーよ。」


そう言って、ふ、と表情を緩めた。
・・・うわぁぁぁ。
安心感で、泣けてくる。

やべぇ、小娘扱いが心地よかったなんて、もう言えねぇ。


「それよりも、お前が既婚だった方の衝撃が凄えわ。・・・そりゃ、経験もありゃ、下の話も動じねーよな。」

「感心するのはソコですか。・・まぁ、その点は、働いてた場所も特殊でしたから。男性陣の下ネタの取り扱いは慣れてます。」


ツボに入ったのか、彼は急にくくっ、と笑い出した。


「・・・冒険者になったばかりとは思えない、決断力、判断力、駆け引きに先見か。全部、お前が経験から培ったものだったんだな。納得した。」


そうですかね?
駆け引きに先見・・・小狡い考え方汚い大人になってる自覚はありますが。

師匠は、ひとしきり笑った後に、また真面目な顔に戻る。


「・・・で、話戻すが。お前の所為で、夫が死んだってのは何だ?」


私は一息吐くと、先を続けた。


「ーーー 私のいた世界で、治すことが難しい病があって。夫はそれに侵されました。・・・結婚して、1年で。」


師匠は眉を顰め、首を傾げる。


「その病自体は、治すのは難しくとも、食い止めたり、進行を遅らせたりすることもできる病でもあった筈なのに。・・・夫のそれは、見つかり難い部位にできて。見つかった時には、すでに周りの臓器にまで広がっていて。どうにもできない状態だった。」


思い出すだけで泣きそうになる。

告知を受けた時の、個室の空気。
日に日にベッドの上で弱っていく身体。
・・・それでも笑顔だったあの人。

『ありがとう』と言う彼に、『ごめんなさい』しか言えなかった、あの日。



「それは・・・そんなことまで、お前の所為なのか?」

「みんなっっ・・・みんなそう言うんです。最初は。『気にするな』『たまたまだ』って。でも・・・」


思わず、下唇を噛んでしまう。
動かしにくい腕を無理矢理に振り上げ、顔を覆う。


「夫の“がん”は、見つかって半年で悪化して。そして、逝ってしまいました・・・残された私に付きまとうのは、『持っている』所為で夫の死すら招いた妻、という称号。」

「それは・・・」

「だって、そうでしょう!今まで色々やらかして、行き着いたのが配偶者の死なんだよっ!付き合ってた5年間何でもなくてっ!結婚した途端なんだもんっっ!だから・・・」


ダメだ。涙が止まらない。
感情的にならないと思っていても、やっぱりまだ無理だ。


「・・・だから私は、誰とも繋がらない方が良いんです。繋がっちゃダメなんです。想った人を失いたくないんです。」


込み上げる涙を抑えるように、息を整える。
喉の奥が塩辛い。

静かな部屋に、私の嗚咽だけが響く。


「なぁ、リン。」


しばらく黙っていた師匠が、落ち着いた低音声で口を開いた。


「その話は、カンも知ってることか?」

「・・・たぶん。誰か彼かからは、聞いていると、思います。」

「俺には、カンが、それを知った上でも、お前と一緒に居ようとしているように見えるが・・・それじゃあ、ダメなのか?」


顔を腕で覆い隠したまま、私は首を振った。


「・・・だって。彼とは10歳差ですよ?それに、本来の彼の好みは、私みたいな人間では無いです。この世界で危険な目に遭ったから。ただの吊り橋効果なだけですよ。」 

「そうか・・・お前はんだな。」

「私の目的は、カン君だけでも無傷で元の世界に返すこと、ですから。・・・私が狂暴化バーサクした事なんて気に病んで欲しくないです。」

バーサクしようがどうでもいい。
私がどうなろうが。
巻き込んだ以上、ちゃんと帰す。


「そうか。」


それだけ呟くと、師匠は黙ってしまった。
腕の隙間から、ちらっと見えた師匠は、腕を組み、目を伏せて、何事かを考えているみたいだった。

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