転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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第2ラウンド開始前

52.帰還(ファーマス視点)

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※ 師匠視点。もう2話くらい続きます。



**************

ケネックが3台の担架と運び手の騎士の連中を連れてやって来る。
連中は余計な事は言わないが、視線は俺の膝から外さず、余計な事を考えている様子。

『何、面白そうな事してんすか。』

一様に、顔にそう書いてある。

ま、上手くいったら、新レシピもやるから黙っとけや。


手早く馬車に乗せてもらい、移動を開始。
馬車内は、俺、ロイド、ケネック、リン坊主カン
イズマとベネリは、騎士団の何人かと魔獣回収と魔獣暴走スタンピートの状況確認後、再度合流予定。

馬車の周囲を残る騎士の連中が囲み、移動開始する。

冒険者のパーティー達は、早々に街に戻って、ギルドへ報告に行ってもらったらしい。

ゴトゴトと揺れる馬車の中、ケネックが眠る2人を見ながら確認してくる。


「このお2人・・・やはり、『黒持ち』は、全属性なのですか?」

「・・・良く分からん。使えるのかもしれんが、得手不得手があるようだ。今の所、好んで使うのは身体強化だな。
坊主カンは比較的器用だから、属性攻撃はいけるかもしれんが。前衛に固執中だ。
対してリンは、放出自体が苦手だ。身体強化に、物理攻撃を好む。」


つら、と全属性使用可の点は誤魔化して伝える。
嘘は、言っていない。


「そうでしたか・・・ところで、ロイド殿。」

「どうした?」

「ウチの弟から、連絡はありました?」

「いやー?『もう少ししたら、顔出せそう』としか連絡はきてねーな。そのもう少しもいつのことやら。」

「そうですか・・・」


ふぅ、と遠い目をするケネック。


「ここ2年、実家に顔を見せに来ていないんですよっ・・・王都ギルド宛に手紙を出しても、返ってくるのは半年に一度。仕事の報告文書のみで、私用の返事1つ無いのです・・・」


30にもなる男が、デカイ図体で、手で顔を覆いメソメソとしているのは、もはや恐怖でしかない。
いつもの事ではあるのだが。
・・・弟好きは相変わらずだった。

ロイドと顔を合わせ、思わずため息を吐く。


「仕方ないだろうが。アイツがどんなけ案件処理してると思ってんだよ。報告書送ってくるだけ、勤勉じゃねぇか。」

「勤勉なのは当たり前です!弟は強くて優秀なのですから。
でも、家族なのだから、もっと連絡を寄越しても良いではないですか~!」


ロイドが吐き捨てるように言うものの、ケネックの兄弟愛は止まらないようで、ウンザリする。
・・・コイツ、これでも結婚して、既に2歳くらいの子どもいたんじゃなかったか?

まぁ、コイツの実家、チェスター子爵家は、家族仲が良いことで有名だ。

父親のグレイド=チェスター子爵は、ここファルコ伯爵領で優秀な文官として働いている。妻のメイア夫人は男性騎士顔負けの女傑として、名を馳せた人。・・・そして、おしどり夫婦として有名だ。

長兄のライルも文官として優秀。跡取り息子として、申し分ない。確か、某子爵家出身の女性騎士と結婚し、息子と娘がいるんじゃなかったか。

で、次兄のコイツも、騎士として騎士団に属し、優秀具合を発揮しているようだ。そして、薬師・魔術部門の文官と2年前に結婚した。


・・・一家揃って爆ぜろ。


というのは置いておき。

コイツが泣くほど焦がれるのは8つ程歳の離れた弟、コウラル=チェスター。

売れっ子A級ライセンス冒険者の“コウ”だ。

国立学園騎士科に在籍していた時から、とにかく優秀だったらしい。
文武両道、頭も良ければ、身体も動く。
誰もが、母や兄に負けない優秀な騎士になるものだと思っていたのだが。卒業後、あろうことか冒険者になりやがった。


ーーー なんか知らんが。俺の所為にされたんだったなぁ。


学園在籍時代から、こっそりと冒険者活動をしていたコウは、まだA級ライセンスだった俺について回り、冒険者のノウハウを覚えていった。

『調べたいことが、あるんです。』

と、冒険者になる理由について話していたアイツにとっては、なるべくしてなった職なのだが。

それを知ったケネックコイツにケンカを売られ、泣かれたのは、黒い思い出だ。

アレから4年は経っているが、コイツの中身は進歩していないらしい。


「まぁ、そのうち来んじゃねーの?寧ろ早くきてもらった方が『ケルベロス大馬鹿』片付けるのに、楽なんだがなぁ。」

「そんなの、先輩がA級ライセンスに戻れば済む話じゃないですかっ。さすれば、弟が無理する必要なくなります!」


・・・ダメだコイツ。弟が絡むとポンコツだ。


そうこうしているうちに、街に入る門に着いたようだ。

途端にケネックは、ポンコツ具合のなりを潜め、騎士の顔に戻る。

やれやれ・・・と、俺は横になった。


「これは、騎士団の皆様、討伐お疲れ様です!」


魔獣が街を襲うかもしれない、という特殊状況下イレギュラーに、緊張していたのだろう。騎士団の凱旋に衛兵は嬉しそうだ。

「ご苦労。すまないが早急に通してもらいたい。先程の魔獣暴走スタンピートで、前線にて戦っていた冒険者が怪我をしている。一刻も早く治療院へ連れて行く。」

「何ですと!」


ケネックの話に、強張った声を上げる衛兵。

ロイドが動き、ケネックの後ろから声をかける。


「冒険者ギルド、ギルマスのロイドだ。馬車これに乗っているのは、『グレイハウンド』ファーマスと、カン、リンの3名。身分保障は俺がする。早く入れてくれ。」


ワザと切羽詰まった声を出して煽る。


「ファーマスさんが?!わ、分かりましたっ!早くお通り下さいっ。」


その剣幕に、衛兵が飛び退いたようだ。
馬車が静かに動き出す。


・・・仕掛けは上々、だろうかな。


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