35 / 40
Epilogue
しおりを挟む琥太郎くんの笑い顔が、す、と真顔になる。
「だから、ね。桜。」
両手で私の頬を挟み込み、その琥珀色の目で射抜くように私を見つめる。
「・・・俺は40年近くも、君だけを思い続けた重たい愛の持ち主なんだけど。・・・気持ち悪いかもしれないけど・・・それでも、一緒になってくれる?」
「・・・いい、の?私でも。」
琥太郎くんには40年でも、私にとっては3年とちょっと。
それでも、私は諦めて。
琥太郎くんへの想いに蓋をしようと、していたのに。
「何で?」
「だって、私は、琥太郎くんのとこに帰るの諦めたんだよ?裏切ったんだよ?それなのに?」
じわり、と涙が溢れてくる。
こんなに思ってくれるのは嬉しいのに。
私は諦めてしまったんだから。
情けなくて、申し訳なくて。
「何言ってんだ。『ティグレ』も『琥太郎』も、どっちも『俺』だ。桜は、おんなじ奴を好きになったんだ。何か悪い事あるか?」
「でも・・・」
「だってよ、こっちから、あっちに渡る事は出来ないんだから、諦めたって何の問題もない。
だから、『琥太郎』の魂がこっちに来たんだ。桜の側にいる事だけを願って。
でも『琥太郎』の記憶を取り戻さなくたって、『ティグレ』は桜を見つけて一目惚れした。つまり・・・『俺』はまた、同じ人に一目惚れする事が出来たんだ。ホントに俺は、桜にしか反応しないんだって証明したんだ。これって凄くないか?」
にぱ、と破顔する彼の笑顔を見て、ポロポロと涙が溢れてしまう。
変わらない真っ直ぐな思いが嬉しくて。
また彼を好きになれた事に安堵して。
この先を一緒に歩めるんだと思ったら・・・
「桜・・・ホント俺は、君の涙に弱いみたいだ。泣き顔を見る度に離したくなくなる。笑顔にさせたくなるんだ。」
親指で涙を拭ってくれる仕草が、優しくて懐かしくて。
『ティグレさん』と『琥太郎くん』が漸く私の中で一緒になったように感じた。
「だから、さ?・・・桜・・・俺と添い遂げてくれないか?」
「・・・うん。」
「!!やった!もう、二度と離さねぇかんな!!ずっと一緒だ!」
「うん。私も離れないから。ずっと、一緒。」
ぎゅう、と、強く抱きしめてくれる腕の中で、私は、好きな人と一緒にいられる幸せを噛みしめた。
***
ある、穏やかな晴れの日。
魔王城にて一組の夫婦が誕生した。
新郎 獣王ティーガ
新婦 聖女サクラ
魔族の国である《マジェスト》にて、人族の方式に則った結婚式が行われるのは初の事。
神父役という立会人は《ライトリクス》国第四王子であるシロエ=ライトリクスが務めた。
互いを労る宣誓をし、指輪を交換し、お互いを愛しみ、幸せそうに笑う2人の姿は、魔族や人族の間で話題となった。
意図せぬ召喚により家族や祖国と切り離された聖女。
奴隷のように力だけを搾取され、非道な国やパーティーメンバーに虐げられても、己の力を磨き続け。
獣王に見初められ、獣王と魔王によって救い出された聖女は、磨いた力を惜しみなく、魔族の、そして人族の発展のために使った。
その聖女の献身は、歌物語となり、吟遊詩人が語り継ぎ、演劇の演目となり。
最後の結婚式の場面では、必ず喝采がおきる、そんな人気の物語となった。
「サクラ・・・君が側に居てくれて、俺は幸せだ。」
「・・・私も、ティーガ様の側に居ることができて、幸せ、です。」
~ fin ~
0
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる