闇堕ち聖女の軌跡

柴田 沙夢

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Epilogue

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琥太郎くんの笑い顔が、す、と真顔になる。



「だから、ね。桜。」



両手で私の頬を挟み込み、その琥珀色の目で射抜くように私を見つめる。



「・・・俺は40年近くも、君だけを思い続けた重たい愛の持ち主なんだけど。・・・気持ち悪いかもしれないけど・・・それでも、一緒になってくれる?」

「・・・いい、の?私でも。」



琥太郎くんには40年でも、私にとっては3年とちょっと。

それでも、私は諦めて。
琥太郎くんへの想いに蓋をしようと、していたのに。



「何で?」

「だって、私は、琥太郎くんのとこに帰るの諦めたんだよ?裏切ったんだよ?それなのに?」



じわり、と涙が溢れてくる。
こんなに思ってくれるのは嬉しいのに。
私は諦めてしまったんだから。

情けなくて、申し訳なくて。



「何言ってんだ。『ティグレ』も『琥太郎』も、どっちも『俺』だ。桜は、おんなじ奴を好きになったんだ。何か悪い事あるか?」

「でも・・・」

「だってよ、こっちから、あっちに渡る事は出来ないんだから、諦めたって何の問題もない。
だから、『琥太郎』の魂がこっちに来たんだ。桜の側にいる事だけを願って。
でも『琥太郎前世』の記憶を取り戻さなくたって、『ティグレ』は桜を見つけて一目惚れした。つまり・・・『俺』はまた、同じ人に一目惚れする事が出来たんだ。ホントに俺は、桜にしか反応しないんだって証明したんだ。これって凄くないか?」



にぱ、と破顔する彼の笑顔を見て、ポロポロと涙が溢れてしまう。

変わらない真っ直ぐな思いが嬉しくて。
また彼を好きになれた事に安堵して。
この先を一緒に歩めるんだと思ったら・・・



「桜・・・ホント俺は、君の涙に弱いみたいだ。泣き顔を見る度に離したくなくなる。笑顔にさせたくなるんだ。」



親指で涙を拭ってくれる仕草が、優しくて懐かしくて。
『ティグレさん』と『琥太郎くん』が漸く私の中で一緒になったように感じた。



「だから、さ?・・・桜・・・俺と添い遂げてくれないか?」

「・・・うん。」

「!!やった!もう、二度と離さねぇかんな!!ずっと一緒だ!」

「うん。私も離れないから。ずっと、一緒。」



ぎゅう、と、強く抱きしめてくれる腕の中で、私は、好きな人と一緒にいられる幸せを噛みしめた。




***



ある、穏やかな晴れの日。

魔王城にて一組の夫婦が誕生した。

新郎 獣王ティーガ
新婦 聖女サクラ

魔族の国である《マジェスト》にて、人族の方式に則った結婚式が行われるのは初の事。
神父役という立会人は《ライトリクス》国第四王子であるシロエ=ライトリクスが務めた。

互いを労る宣誓をし、指輪を交換し、お互いを愛しみ、幸せそうに笑う2人の姿は、魔族や人族の間で話題となった。

意図せぬ召喚により家族や祖国と切り離された聖女。
奴隷のように力だけを搾取され、非道な国やパーティーメンバーに虐げられても、己の力を磨き続け。
獣王に見初められ、獣王と魔王によって救い出された聖女は、磨いた力を惜しみなく、魔族の、そして人族の発展のために使った。

その聖女の献身は、歌物語となり、吟遊詩人が語り継ぎ、演劇の演目となり。
最後の結婚式の場面では、必ず喝采がおきる、そんな人気の物語となった。




サクラ・・・君が側に居てくれて、俺は幸せだ。」

「・・・私も、ティーガ様琥太郎くんの側に居ることができて、幸せ、です。」









~ fin ~




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