26 / 40
25
しおりを挟む次の日。
謁見の間で《ルークサンドラ》国の使者を受け入れたのち、別の部屋で話し合いが行われる。
私は、その部屋での話し合いから参加するように言われている。
謁見の間に同席しないのは、私自身の立場の問題。
謁見の間に立ち会ってしまうと、魔族の国《マジェスト》に属した者としての認識となるのだそう。
私は保護されている立場。色々と横槍が入っても面倒くさいので、そのようになっている。
《ライトリクス》出身のシロエさんも、第四王子の立場がある。
アソコにいると内政干渉になるからと同席せず、裏で一緒にいてくれて心強かった。
*
広々とした会議室。
魔王様、四天王様達、シロエさんに私。
あとは護衛の人が等間隔に配置。
私は、ティグレさんとシロエさんに挟まれるようにして、その場にいた。
向かいに座るのは、《ルークサンドラ》国の視察団。
国王となった剣士はいなかったから、少しホッとはした。
*
朗々と、使者が《ルークサンドラ》の現状、新国王の素晴らしさを解き。
前国王達が隠していた、帰還陣を城の奥で見つけた、と告げる。
これで聖女を元の世界へ返して差し上げることができる、と、これで罪が償えるだろうか、と、現国王が準備をしているのだと。
慈悲深く、素晴らしいだろう、だから、早く我が国へ足を運べ、と。
断るわけもない、という風に、使者達が話しているのを、ムカムカしながら聞いていた。
使者達の話に熱が入るにつれ、周囲の温度が急降下していく。
「・・・何故その陣が、『帰還術式』だと分かった?今手元に、その根拠を示す資料も何もない状態で、その言葉だけを信じろと?ふざけているな。」
そんな中、私達の思いを代弁するかのように、魔王様が口を開いた。
その後をシロエさんが続けてくれる。
「そうですね。こちらに来て、自信満々にそのような話をする、と言うことは、その帰還陣が本当に彼女を帰すことが出来る術式を組んだものだと証明できるだけの根拠があるのでしょう?
陣の写しは難しかったにせよ、文献なり、報告書なりを持ってくることは可能であったはず。
人族各国の名だたる魔法使い達、そして魔族の魔法使い達に協力を仰ぎ、調べ尽くした結論として、帰還術式は、召喚術式よりも遥かに難しい事は揺るぎがない。
・・・それなのに、《ルークサンドラ》一国で、貴方達が彼女を拉致した時と場所を固定し、彼女の容姿を3年前の姿に戻すことが出来た上で、帰還させることが出来るとは。
本当であれば、歴史上最大の発見だ。是非、後学のために教えていただきたいのですよ。」
つらつらとシロエさんから溢れでる嫌味。
薄く笑うシロエさんは、冷めた目で使者達を見つめる。
使者達は青ざめた顔をして、何も言い返せないでいた。
沈黙が降りて。
ふるり、と私の身体が震えたのを、ティグレさんが抱きとめた。
その腕に掴まりながら、深く息を吐き、使者達を見据えた。
「・・・《ルークサンドラ》国へ出向きます。」
「サクラ!?」
私の言葉に、魔族側のメンバーはギョッとした顔を向け、《ルークサンドラ》の使者達は破顔した。
0
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる