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しおりを挟む「・・・は?」
「まぁ、そうなるわよねぇ?そこが、狡猾というか、何というか・・・」
ポカンとする私に、アイリーン様は話を続けてくれた。
*
そもそもあの剣士も王家の血筋。
あの肥えた王様の弟の子。
つまりは、処刑された王太子・・・勇者の従兄弟だったらしい。
彼が王位についてから、市井には噂が流れた。
そして、彼は勇者パーティーの中で、唯一、聖女に悪意を向けなかった者だった、と。
間近で、聖女が勇者達に虐げられる様子を見、陰日向でその心を守ってきたのだと。
剣士は聖女を慕っていたが、勇者が王太子であったため、命令に逆らうことはできなかった。
それでも、危ない所は助け、特に拳闘士に一線を越えさせる事はなかったのだと。
実の所、聖女と心を通わせていたのだが、勇者達が馬鹿な事をしたばかりに、聖女は裏切り、獣王の手に堕ちたのだ、と。
*
「・・・と、いう訳で、あの国には、『剣士と聖女の悲恋』の話が蔓延してるらしぃわぁ。」
「何それ・・・あの人は“何も”してくれなかった。確かに嫌味は言ってこなかったけど、そこに居ただけ。積極的に守ってなんて、くれなかった。
あの、拳闘士に、襲われ、た、とき、だって・・・私が、結界を張って、騒いだから、気づいた、だけじゃん!」
「・・・首を挿げ替えても、腐った根性は変わらないようだな。」
怒りなのか、恐怖なのか、分からない気持ち悪い感覚が身体を巡り、ぶるり、と身震いをした。
私を抱きしめるティグレさんの腕に力が籠る。
その場にいた、グラハム様、アイザックさんにシロエさんも呆れたようなため息を吐いた。
魔王ドゥーマ様も、右のこめかみを親指でグリグリと押さえながら息を吐いた。
「勇者は、聖女を蔑ろにしていた。しかし、自分は違う・・・これを利用し、其奴が王位簒奪した事は確か。
ここで帰還術式を持ち出したのは、前の王達が隠していたからだ、と責任転嫁もできるからだろうな。
“本当に従式があって”聖女を帰せば、新設《ルークサンドラ》国は、聖女との蟠りはなくなった、と宣伝できる。しかしなぁ、本当はないのであろう?」
「えぇ。諜報隊が調べた限り、あの城の地下にあるのは、“聖女召喚”の魔法陣だけよ?帰還術式が発見された事実はない・・・だから、帰還術式をエサに、聖女を自国に連れてこようとしているみたいね。」
「なん・・・で、そんな事・・・」
「ソコに、『悲恋物語』が生きてくるんじゃないかしら?
『剣士は聖女の為に帰還術式を探した。無事に術式を発見。そして、引き裂かれていた剣士と聖女は再び出会い、その熱意に心打たれた聖女は帰還を望まず、2人は結ばれ、新たな国の王と王妃になりました』
とかいう、ハッピーエンドを作り出せば、国民も納得、そして周辺国も見返せるものねぇ。」
「・・・アイリーン、そこまでにしてくれ。」
ティグレさんはアイリーン様に進言する。
アイリーン様の推理が気持ち悪くて。
私はティグレさんの左腕にしがみついていた。
そんな私の頭を、ティグレさんはそっと撫でてくれる。
「・・・ずっと、私の心を守ってくれたのは、ティグレさんだよ?やだ。あの国なんかに行きたくない。」
「ん・・・そか・・・何にせよ、サクラの望まねェ事はさせねェよ?あの男とサクラが結ばれるなんて、もってのほか、だ。」
そのまま、ぎゅう、と腕の中に囲われて、後頭部あたりに、頬を寄せて少しスリスリとされた。
私がここに来て、不安で泣くたびティグレさんがとる行動。
とても安心できるのに。
少しずつ、私の中の琥太郎くんが消えていく気がして。
胸の奥が、ぎゅうと切なくなる。
そして、ティグレさんの優しさに、申し訳なくなる。
それに甘える自分が嫌になる。
私がいなければ、引く手数多だろうに。
私がいるばかりに、彼は私に縛られてしまう。
早く帰った方が良いのに、帰れなくて。
どうするのが良いのか、また分からなくなっていった・・・
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