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しおりを挟む顔に熱がこもる。
ティグレさんが認めてくれた事が嬉しいのに。
でも、何をどうしたら良いのか分からなくて。
いつの間にか、私の目からは、またポロポロと雫が零れ落ちていた。
ギョッとしたように、ティグレさんの目が見開かれた。
慌てた様子で、私の顔を大きな両手で包み込む。
親指が、目の下をなぞる。
「“サクラ”・・・どうか泣かないでくれ・・・君が泣いていると、胸が苦しくなるんだ。虐げられても、人々を癒し続け。獣王である俺にまで癒しを与えてくれた。あの回復魔法はとても暖かかった・・・心が凪いで清々しかった・・・あんな辛い思いをしているのに、泣きそうな顔をしていたのに、君の魔法はどこまでも優しくて暖かい。春の陽だまりのようなんだ。
君が隣にいてくれるだけで、俺は何者にも勝てる気がする。俺は、君を裏切らないから。あの日のように、笑っていてほしい。君だけを愛すると誓うから・・・どうか、戻るその日まで、隣にいさせてくれ。」
その、誠実な言葉が、態度が、真っ直ぐな思いが、琥太郎くんにそっくりで。
私は、ポロポロと雫を溢れさせたまま、コクリと頷いてしまった。
すると、ティグレさんはガバッと立ち上がって、私の身体を抱き抱えて雄叫びを上げた。
鼓膜がビリビリと震えるような、おなかの底から響くようなそんな声。
でも、不思議と安心する。
守られているようで、嫌じゃなかった。
雄叫びが消え去った後、あはははは、と笑い声が響いた。
声の方を向くと、魔王が大笑いしていた。
何故そんなに笑っているのか分からず、キョトンとしてしまう。
大きな身体に抱き抱えられ、真横にティグレさんの顔がある。
横を向くと、苦笑いしている彼の顔。
私の視線に気づいたのか、彼はこちらを向くと、困った顔をしながら肩を竦めた。
私が首を傾げていると、魔王が口を開いた。
「あいわかった。人族に無理矢理召喚され、虐げられ、それでもなお、魔族にその身を渡して世界を守ろうとする、聖女の献身をもって、我々魔族は人族の土地に侵攻しないとしよう。今の国境から互いの領土は不可侵だ。攻め込んでくるなら容赦はせぬが、互いの領分を侵さぬのであれば、我々は人族とは戦はせぬよ。」
「なっ!ふざっけんな!」
それを聞いた勇者が、声を荒げ、立ち上がる。
「あーっはっはっは!ふざけるな、だと?巫山戯ているのは、貴様等人族の方だろうが!これ程までに聖属性の扱いに長けた聖女を、貴様等の“好みの顔でない”と言うだけで虐げていたのだろう?そんな聖女を、貴様等の基に置いておくのは勿体無さすぎる。だから、我々が貰い受けるまでだ。それに、聖女自身が、我が四天王である獣王と共に在ることを望んだのだ。何の文句がある。」
ぎろり、と、魔王様は勇者達を見回した。
その視線に勇者達は怯む。
「謀るなよ、人族。貴様等の一国・・・《ルークサンドラ》が勝手に召喚したのであろう聖女は、その身をもって我々魔族の怒りを鎮めた。その献身に感謝こそすれ、裏切り者等とのたまうのは筋違いも良い所だ。
・・・と、まぁ。良い建前も出来たことであるしのぉ。さぁ、勇者共、今の我はとても気分が良い。聖女のおかげで気力も魔力も充分だからな!出血大サービスというやつだ。貴様等の国まで送り返してやろう!」
「まっ!まて!」
「聖女殿!」
勇者や、剣士がこちらに来ようとする。
しかし、高笑いしながら宣言した魔王によって、一瞬にして勇者達の姿は掻き消えた。
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