16 / 40
15
しおりを挟む5対1、しかもゾンビアタックなのは変わらない。
徐々に魔王の体力を削ることができている。しかし、魔王はワザと攻撃を受けているように見える。
私達なんて簡単に倒せるだろうに、拮抗しているような戦い方だ。
もしかしたら、獣王からの報告で、魔王は私の意図を・・・なんて思ったけど。
そんな都合が良い事は、期待しちゃダメだ。
今私が出来ることを、やるだけだから。
勇者も、拳闘士も、女魔法使いも、大技ばかりを繰り出していく。
隙をついて、魔王は私を狙い撃ちするが、剣士がそれを阻む。
「聖女!魔力ポーション寄越せ!」
「私にもよ!」
自分の手持ちの魔力回復用のポーションを使い切り、彼らは私の持分に手をつけてきた。
私がいくら魔法鞄を持っていると言っても、衣装ケース10個分くらいのモノ。
テントや食料なんかも入っていたし、調合用の薬草だって入っていた。
この戦いの前に、薬草は全て調合したから。ポーション自体は衣装ケース1個分くらいしかなくて。
そのうち、魔力ポーションは半分。
あの国で色んな話をしてくれた冒険者さん達が言っていた。
『回復』は、体力やケガの回復に効く。でも、魔力を回復するような術式はないから、ポーション頼み。
魔法で魔力まで充填できるのは、特級の聖魔法である『完全回復』だけだから。
魔力切れは命取りだから、余裕があるときに魔力ポーション用意しておくこと。
そして、攻撃役は余程の事がない限り、後衛、特に回復や支援役の魔力ポーションは使わない。
生命線である回復役が魔力切れを起こしたら、それこそパーティー全滅に繋がるから・・・と。
それなのに、彼らは躊躇なく私の魔力ポーションを強請る。
・・・これで、私が『回復』を出来なくなる下地もできた。
思い描いた時が、場面が、もうすぐやってくる。
私の心は、仄暗い歓びで満たされていく。
*
戦いは拮抗した状態で進み。
互いに満身創痍。
魔王も、あと何撃かで倒せるところまで来た。
彼らのおかげで、魔力ポーションも通常ポーションも、全てなくなった。
私は最後の1本になった魔力ポーションを飲み干した。
私が作った、1本だけの最上級品。
魔力をほぼ全回復してくれる代物だ。
『完全回復』は、私のフル魔力の9割を使う。
本当に最後の切り札。
私は『完全回復』の準備をする。
「聖女!勇者を完全回復だ!!」
それを見ていた拳闘士が、偉そうに叫んできた。
勇者も、大技を放つ態勢に入る。
確かに、回復した勇者が大技一撃を放てば、確実に魔王は倒れるだろう。
魔王は、私を攻撃することなく、拳闘士と女魔法使い、そして剣士の攻撃をいなすだけだった。
そして。
もう少しで、『完全回復』の術式が完成する時。
魔王の紅い目が、私を見据えた。
その目は、何故か優しげに見えて、私は思わず問いかけた。
「ーーーねぇ、魔王様。貴方を倒せば、私は元の世界に帰れるの?」
0
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる