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しおりを挟むウチは、お父さんを仕事の事故で亡くしてから母子家庭だった。
大黒柱のお母さんは総合病院の看護師だったから、家に看護系の本みたいなのが沢山あって。
解剖生理学といった本とか、病態の本とか、なんだか楽しくて良く見ていた。
弟と妹には気味悪がられたけど。
それに、琥太郎くんと付き合ってからは、琥太郎くんのご実家が柔道整復のお仕事してるから、琥太郎くん自身も筋肉や骨格について詳しくて。
空手で怪我したり捻挫したりした時の、応急処置やテーピングのやり方なんかも教えてもらったりした。
そんな風に身体のつくりを理解していたせいなのか、実の所、1か月もかからず最上位の聖魔法まで習得できた。
あと、衛生概念が違うからか、この国では患部を綺麗にするとかないみたいで。『清潔』とか『消毒』って、新たな聖魔法も展開できた。
初級でできる感覚。『回復』と合わせて使うと、傷の治りが良いように見えた。
きっと初級の聖魔法が使える人なら、誰でも使えるんじゃないかと思ったけど。口にはしない事にした。
とりあえず、ホントかどうか試してみたい。そう思って。
まだ、中級までしか身についていないように見せかけて。
沢山使ったら精度が上がる気がする、上級魔法を覚えられる気がすると嘯いて。
街の人に回復魔法をかけさせて欲しいとお願いした。
城のお偉さん達は、良い顔をせず。
貴族たちにかけるだけで良いだろうと提案してきた。
でも私は、兎に角数をこなしたい、と引かず。
結果、聖魔法を習得させ、魔王討伐に出させたいお偉いさん達が折れ。
週に3日午前中だけ、街にある治療院に出向く事ができるようになった。
彼らはお金も取ろうとしていたみたいで、幾らにするのか聞いたら、『金貨1枚』だと。
宿代が棒銅貨程度の物価なのに、馬鹿じゃないの?
図書室の資料から、この国は貧しいのではないか、もしくは貧富の差が激しいんじゃないかと思ったから。
街の人が支払える金額じゃ無いだろうと、私の聖魔法習得に付き合わせるのだから、銭貨もしくは棒銭貨1枚にしてくれと伝えた。
金貨1枚では人が来ない、数をこなさなければ、私の聖魔法のスキルは上がらない事(嘘だけど)を悟ったのか、ようやく渋々と折れてくれたけど。
これを機会に、庶民からお金をせしめようとしているのを強く感じた。
ここに来てまで、搾取することしか頭にないのかと、愕然とした。
城から城下街へ移動する時には、馬車の中から外は見せてもらえなかった。
聖女が乗ってると分かったら大騒ぎになるから、と言っていたけど・・・多分、逃亡防止だ。私がこの街の地形を理解しないようにだろう。
とりあえず護衛と言う見張りは居たけれど、目を盗みながら、体を気遣う振りで、さりげなく街の人に話を聞いた。
多分私の行く治療院は、比較的治安の良い所なんだろうけど。
それでも、着ている物とか見たら、あまり良い生活では無いのが推察できた。
街の人達は笑顔だけど、何処か疲れてもいて。
これなら、『国は何をしているんだ』って言っても良さそうなのに。
みんな口々に『この国が貧しいのは、魔王のせいなんだ』と言うのが、違和感バリバリだった。
貧しいのは、魔王の所為だけじゃない。
あの城の金ピカな調度品とか、王や王妃にジャラジャラ付いていた宝石の一つや二つ売ったら、街の状態は少しは改善するんじゃ無いのって、そう思った。
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