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一話

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「なぜだ」

 殺気を周囲に放ちながらローブの男を見る。扉の前では担当になってしまった不運な新人がこの初めての体験に恐怖する。

「意見をしただけでしょう。良いじゃないですか」

 軽い物言いに初めてこの状態に陥ったものは驚く。当事者である公爵も真っ青になってこちらを見る。安心させるように笑顔を作る。すると殺気の海かと思うほど部屋の中は殺気に包まれる。普段戦闘をしていないもの、殺気をあてられたことのないものはばたばたと倒れていく。もちろん弱い俺も両ひざを地面につく。

「…っ」

 殺気が説かれる。肩で息をしている俺に腹心であるラスト様が近寄り立ち上がるのを手伝ってくれる。

「あなたとあえなくて機嫌がとんでもなく悪かったんです」

 立ち上がる際にラスト様が耳打ちしてくる。そういえばと思い出しながら一週間ほど研究室に引きこもっていたのを思い出す。それだけで処刑?はぁ…命は大事にしたほうがいいよ。

「離れろ」
「はい。失礼いたしました」

 ラスト様が緩くお辞儀をして俺の近くを離れる。皇帝は俺の近くに人が寄ることを特に嫌がる。そのおかげで共同研究も碌にできやしない。膝を軽く払うと皇帝に向き直る。

「意見を言うのは良いことです。この国のためにもなりますし…「もうよい。処刑をとりやめる」…ふぅ」

 安堵して地面に座り込んでしまう。

「今日は皆帰れ。最後のことはもらすな」

 皆、同様に安堵した様子で帰っていく。俺はそれを見回すと見知った顔に加えて新顔の若い者が増えている。あぁ今日からか。この城の主要な貴族を一斉に採用をする日がある。それが今日だったらしい。とてつもないものをしょっぱなから見せてしまった。申し訳ないことをしてしまった。

 あっと思い出し皇帝の方を向く。豪華な椅子にすわって無表情でこちらをじっと見ている。こわい。

「皇帝さま、すみませんね。研究に凝ってしまっていてでてこれなくて…」

 気まずさから目をそらす。目をそらした先にいるラスト様はにこにこしながら後ろに下がっていく。逃げる気だろう。でもここから走っても止められない。

 無慈悲に扉が閉まる。

「あっ」

 これでここには二人きりになってしまった。

「あはは…」
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