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一話 恋人になって欲しいと言われる

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「俺の恋人になってほしい」

 はっ?

 体力温存のために夜はスラムのボロボロの家にただ座り込んでいるとノックがされた。スラムでは普通はそんなことはしない。子供達以外は足で扉を壊して入ってくる。

「まず誰だ?」

 本当に修理が面倒なことをしてくれると思ってるがこんな丁寧なやつ知らない。フードで顔を隠しているが長身で少し見える唇も健康的な色で...こんなやつ知り合いにいたか。それに恋人?男同士でも結婚出来る国だが俺は異性愛者だ。一目惚れか?でも6歳の時以来ここら辺しか移動してないしここは誰でも入れるようなところじゃない。

「ごめん、分からないよね。兄さん僕だよ」

 男の正体を考え込んでいると長身の男はフードを外した。顔には見覚えはなかったがと呼ばれたことで確信した。

「お前、ルイか」
「そうだよ。兄さん」

 よく見ると見覚えのない顔でも昔の面影が残っているような気がした。十七年前に別れたきりだった弟。

「帰れ。立派になったんだろ?こんなとこに来ていいものじゃない。見つからないうちに早く帰れ」

 十七年前、弟は六歳の時にこの国一番の学園に行った。弟には天才的な魔法の才があったからスラムなんかにいてはダメだと思い勉強を教え学園に送り出した。その学園はエリート街道に優秀であれば平民でものれるという学園。その時、弟とはもう会わないと誓ったのだ。こんな兄がいては弟の出世に響いてしまう。学園の費用と一年分の生活費を弟宛に六年間送り続けそれからは一年分の生活費を毎年十一年間匿名で送り続けた。会わないとは誓ったものの兄としてなにかし続けていたかった。

 エリート街道にのったはずの弟がこんなとこに来るなんて。あいつらが許したのか。

「嫌だよ。僕はもう兄さんを不自由なく養えるだけのお金は手に入れたし出世も沢山した。だから僕と一緒に来て欲しい」
「ダメだ。こんな俺がいては世間体が悪い。それにやりたいことも見つけたんだ」

 少ない体力を無駄にして部屋に唯一ある机に手を置いた。

「兄さんはやっぱり優しいね。でも僕は来て欲しい」

 弟は悲しそうに目を伏せる。成長して美男になった弟の顔はそんな表情でも美しかった。

「ごめんね。兄さん」

 諦めてくれるかと思った瞬間担ぎあげられる。成長して自分より大きくなった弟に勝てる訳もなくただじたばたとすることしか出来ない。

「誰か。助けてくれ!」

 叫ぶが誰も来ない。いつもだったら誰か来るはずだがもう根回しは完璧という訳か。もうこの拉致には逆らえない。

「ルイ待ってくれ。書き置きを子供達に残す」
「...わかったよ」

 下ろしてくれたが肩には弟の手ががっしりとのっている。隙を見て逃げようにも逃げれない。久しぶりに見た弟はやせ細った体からがっしりと程よい筋肉がついた美男に成長していた。ひょろひょろの俺なんて一発で気絶させられるだろう。
 弟のように勉強を教えている子供達に''しばらく行ってくる。心配するな。復習をしておくように''と手短に書き分かりやすい机に置きその上から石をのせる。

「もう苦労させないからね」
「少し行くだけだ。ここにすぐ戻る」

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