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閑話 欲深き人魚達
【エメラルド】②望んではいけないもの
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さっきまで何ともなかった海中がいきなり荒れて、びっくりして『テリーの串焼き』店に向かった。
リリーおねいさん関連かな?
店内をのぞくと珍しくフィックスお兄さんが人間にゴミを見るような目を向けて囁いていた。
「馴染みの子、待ってるよ、リリーじゃなくあの子を好きになったら」
「…………あ、ああ。わか、った」
……やっぱり。リリーおねいさん関連だった。
フィックスお兄さんは嫉妬深い。
基本人間は殺さないし関心すらない。でもリリーおねいさんがあたしを生き返らせちゃってから、フィックスお兄さんは変わった。基本何事もおっとりと無関心だったのに、今のフィックスお兄さんは、水面下では策略にまみれている。
多分リリーおねいさんがやることなすこと、全部受け入れちゃうんだろうけど、そのぶん反動も凄そう。
今もあたしに目を向けて、瞳の奥では絞め殺しそうな目をしている。発情期特有の牽制だ。リリーおねいさんが死んだ者を生き返らせる力があるからしないだけで、あたしをもう一度殺したいと絶対思ってる。
「フィックスお兄さん」
「なに?」
「……ごめんなさい。エメラルド、ママさえいればそれでよかったのに、高望みしちゃったの」
……リリーおねいさんは、ママの命を救ってくれた。ずっと望んでいた未来が開けて、子を孕める体になって、おまけに人間に利用される力は無くなった。そこであたしは、これなら人間社会で普通に暮らせる、そしてリリーおねいさんは人間、側に居ても人魚として迷惑をかけることはない。もうこれは、リリーおねいさんとの出会いは運命だと勘違いしたの。
でも今日……仕事を終えて家に戻ると、ママが喉仏の骨を外していた。びっくりして問い詰めると、ママは筆談した。エメラルドがリリーさんを諦めないなら、ママは生きている資格がない、だからこれはリリーさんに返す、と。そこであたしは、自分がとんでもない間違いを犯したことに気付いた。
「人魚は、欲深い……吐き気がする」
「っ、……」
……そう、欲深い。
だからあたしは、ママの命を諦めなかった。
でもその欲に区切りをつける為に、人魚は地上に降りたったのだ。それを証明しなければ。
「リリーおねいさんには、もう、近付きません」
「そうだね。弁えていればミラに何もしないよ」
「ぅ……」
和解をするつもりが、余計に苛々させちゃったみたい。こんな時は障らぬ海王蛇には祟り無し、だ。
それから数週間後。
「リリーさん。もう一ヶ月近く見ていないわね……大丈夫かしら」
「フィックスお兄さんに監禁されてるのよ。仕事前に店の前を通り掛かると朝は必ず一階でご飯食べてたのに、今日はご飯を食べる姿も見なかったし」
「そう……」
今日はママがはやめに仕事を終えたから、『テリーの串焼き』店で晩ごはんを食べることになった。
「あの、……リリーさんの事なんですが」
ママが店員さんと何か話してる。
店員さんは顔を真っ青にして『すぐに産んで持っていきます!』と、宿に繋がった通路を走り去っていった。
「ママどうしたの?」
「年の功というかね……リリーさんの平穏も大事だけど、フィックスさんにも平穏は必要だからね。気付いて後で自分を責めるのは、とてもしんどいから」
「ママ?」
「リリーさんが平穏に暮らせるよう、エメラルドも心穏やかに暮らそうね」
「……うん。ママと穏やかに暮らすよ」
「そうね。さぁ、今日は沢山食べようね。マリアーナが卸した黒スッポンビールでも飲もうかしら」
「うんっ。ママ調子よさそう、日に日に食欲も出てきたし! あたし明日はママに美味しいもの獲ってくるよ! 」
「フフ。ありがとう、エメラルド」
食べ終えてまったりしていると、店員さんがテリーさんに懇願してるのが見えた。
「我々では寝室のドアを開けた瞬間殺されるので頼みます」
「そういやフィクサーナからの言伝があったな。ついでにフィックスに伝えておくか」
店員さんはリリーおねいさんに食事を運びたい、でも発情期中の海王蛇は怖いから、テリーさんを見ながらそう言っていた。凄くリリーおねいさんが心配になってあたしも同行した。
案の定、テリーさんが寝室のドアをあけるとリリーおねいさんは外に吊るされて干からびかけている干物のようになっていた。
フィックスお兄さんはあたし達を見るなり獰猛な威嚇の眼を向けてきた。テリーさんが相殺してくれなかったらテリーさん以外のこの界隈の生物は間違いなく全て死んでたと思う。
「睨まないで下さい! 人族ですから! 食べないと数日で弱って死んでしまいますよ! ここに置いときますから! 」
「おいフィックス、フィクサーナがお嬢ちゃんが生きている内にどうしても会いたいと大泣きしていたんだが……まだ生きているか?」
「リリーおねいさん死んぢゃやだぁ! エメラルドを置いて逝かないで! うわああぁあんっっ!」
◇ ◇ ◇ ◇
フィックスお兄さんの発情期が終わって、リリーおねいさんの生還パーティーを企画した。皆がリリーおねいさんが回復するお酒を持ってきてたんだけど、嫉妬深いフィックスお兄さんがずっとリリーおねいさんに指から牽制という名のマーキング……あたし達に見せつけるようにお酒をあげていた。
三つの命を持つ高位人魚でも出せない人魚の原液だ。あれは生命力そのもの。あたしが持ってきた甘々酒なんて足元にも及ばない。だから自分で飲んだ。
「リリーおねいさん今日は何してたの? エメラルド、すごく心配したの……体、辛くない?」
「え、体調はいいよ? 今日はムンタリ大陸のドラゴン都市で沈没した海賊船からお宝掘り返してた」
その言葉に飲んでいた甘々酒をブー!とリリーおねいさんの顔に噴き出してしまった。
「こら、洗浄」
「げほ、っ……リリーおねいさんって……そこまで滅茶苦茶だった、け?」
ムンタリ大陸。
おまけにドラゴン都市って……ママから聞いた……この海の醜毒の高位人魚を残らず絶滅させた古龍がいる都市じゃないの?
でも醜毒は一体だけ生き残りがいて、殺されそうになったとき古龍の番になると嘘をついて逃げ出した。そしてその古龍の弟を唆し、呪いをかけて鮫にしたのだ。
醜毒は配下の人魚に命じて、鮫になった古龍を始末しようとした。中身は古龍だから、ただの人魚なんか勝てるわけないのに。だからあの界隈は、高位人魚もただの人魚も既にいない。その事実にちょっとホッとして、すぐ自己嫌悪した。フィックスお兄さんがいるから、リリーおねいさんが誰かとどうにかなる筈がないのに、あたし以外の人魚に取られることはないと、場違いな安堵を感じたのだ。
爪を噛むとママとマリアーナさんが眉を潜めた。そして苦笑いした。
リリーおねいさんが「パーティーはお開きにします!」と言ってフィックスお兄さんと出掛けたあと、マリアーナさんに頭をガシガシと撫でられた。
「あんたをうちの子にするつもりだったからね。何かあったら護るつもりだ。でも心配なんだよ。ミラにもあまり苦労をかけるんじゃないよ」
「うん……ごめんなさい」
◇ ◇ ◇ ◇
浜辺が閉鎖されてから海を眺めるようになった。
ずっと海で働いてきたのに、泳げないようになると、海が恋しくなるのよね。
でも、心は落ち着いている。
本当に欲しいものを手に入れたから。
無いものねだり、なんてしちゃだめ。
今ある大切なものに目を向けないとね。
「エメラルド、まーた海眺めてたの? そんなに海が好きなら明日泳ぎ教えてよ!」
「わたしも教えてほしーい、だって海中ハンターって泳ぎが得意なんでしょ?」
「明日から浜辺も解禁されるしこの夏に泳げるようになりたいのぉ~、ね、お願いっ!」
「ごめん、明日はテリーさんが浜辺に開く店で漁をしないといけないから……明後日ならいけるけど、どうする?」
「ほんとー! やったぁ!」
「約束よ! お母さんに来年学校に上がるまでに泳げるようにならないと、海中ハンターの見習いさせるって、脅されててさぁ」
「うちもー。寝起き弱いのに。早朝から働くなんてきついよー」
「あはは、うん。約束ね」
以前、学校の見学案内で知り合った二人の人間の女の子。前は街ですれ違うたび、話し掛けられてもすぐに会話を終了させてたけど、最近はよく話すようになった。二人とも母親が酒場の経営をしていて、アルレントの船が去って落ち着いたら、今度あたしが収穫した海産物を卸す話も進めてる。これからは塞ぎこまずに人間と関わって生きていこう。ママやマリアーナさんに、心配かけちゃいけないもの。
「あー、今日も店で余ったウニ缶と桃缶食べなきゃいけなくてさー、わたしのお母さんレパートリー少ないの。いつもウニのオイル浸け。それも美味しいけどもう飽きたー」
「なら今度ウニ料理教えてあげるよ。知り合いに習った、とっても美味しい麺料理なの」
「わたし麺料理すきー」
「うちにも教えてよー」
「うん」
ママはそんなあたしの変わった姿に、これもリリーさんのお陰ね、そう言って微笑んでいた。人間はずるいから、すぐ心の隙間に入ってこようとするから、涙を見られたら利用されるから、だから人間とは極力関わろうとする考えがなかったの。
「あー、来年楽しみだね♪」
「ねー、寮ではうちら同室だもんねっ」
「誰かイビキうるさい人いる?」
「うちは歯軋りする方かなー」
「わたしは寝屁が多いってお母さんに言われたー」
「やだ、なんでこの二人と同室なのよ。今から気がやられるわー」
「そういうエメラルドこそ、寝てるとき寝言が多いわよ!」
「うそぉ?」
「この前のお泊まり会、ほーんとうるさかったんだから!」
「そうそう。『ママ、大好きー』って……なに照れてんのよ」
「…………」
人魚は殆ど寝ない。
ママも声が復活してから、殆ど寝なくなった。でもママに合わせて無理矢理寝てたあたしは、ホーリーパールを流してから普通に眠るようになったのだ。
「やだママ……あたしの寝起きはいつもにこにこしてると思ってたけど、聞いてたのね」
「はいはい、エメラルドはママっ子だからねー」
「案外寮に入ったら寂しくて泣いちゃうんじゃない? ママに会いたーい、なんて寝言でも泣いちゃったりしてさぁ」
「う、うるさいわねっ。エメラルドは、」
「あー、また自分のこと名前で言ってる。なーんかエメラルドって、最初は淡々としてて大人っぽかったけど、やっぱ子供だよねー」
「別にいいじゃない、エメラルドまだ子供だもんっ」
「あっはは」
早く大人にならなきゃいけなかったのに、子供でいさせてくれた。リリーおねいさんが、あたしを救ってくれたの。
"リリーさんが平穏に暮らせるよう、エメラルドも心穏やかに暮らそうね"
そうだね、ママ。
リリーおねいさんなんだかんだいって、アリエルやマリンやシリン、あたし達のことよく見てるから。リリーおねいさんが平和に暮らしてるところを、心を煩わせたり、心配かけたりしちゃいけない。リリーおねいさんが困っているとき、泣いてるとき、励ましてあげれるよう、リリーおねいさんの助けになれるよう、あたしもリリーおねいさんみたいに強くならなきゃ。
翌日。
「私の雄っぱいに群がる雌は全て敵です!」
「ちょ、リリーおねいさんって……そこまでヘタレだったっけ?」
リリーおねいさん関連かな?
店内をのぞくと珍しくフィックスお兄さんが人間にゴミを見るような目を向けて囁いていた。
「馴染みの子、待ってるよ、リリーじゃなくあの子を好きになったら」
「…………あ、ああ。わか、った」
……やっぱり。リリーおねいさん関連だった。
フィックスお兄さんは嫉妬深い。
基本人間は殺さないし関心すらない。でもリリーおねいさんがあたしを生き返らせちゃってから、フィックスお兄さんは変わった。基本何事もおっとりと無関心だったのに、今のフィックスお兄さんは、水面下では策略にまみれている。
多分リリーおねいさんがやることなすこと、全部受け入れちゃうんだろうけど、そのぶん反動も凄そう。
今もあたしに目を向けて、瞳の奥では絞め殺しそうな目をしている。発情期特有の牽制だ。リリーおねいさんが死んだ者を生き返らせる力があるからしないだけで、あたしをもう一度殺したいと絶対思ってる。
「フィックスお兄さん」
「なに?」
「……ごめんなさい。エメラルド、ママさえいればそれでよかったのに、高望みしちゃったの」
……リリーおねいさんは、ママの命を救ってくれた。ずっと望んでいた未来が開けて、子を孕める体になって、おまけに人間に利用される力は無くなった。そこであたしは、これなら人間社会で普通に暮らせる、そしてリリーおねいさんは人間、側に居ても人魚として迷惑をかけることはない。もうこれは、リリーおねいさんとの出会いは運命だと勘違いしたの。
でも今日……仕事を終えて家に戻ると、ママが喉仏の骨を外していた。びっくりして問い詰めると、ママは筆談した。エメラルドがリリーさんを諦めないなら、ママは生きている資格がない、だからこれはリリーさんに返す、と。そこであたしは、自分がとんでもない間違いを犯したことに気付いた。
「人魚は、欲深い……吐き気がする」
「っ、……」
……そう、欲深い。
だからあたしは、ママの命を諦めなかった。
でもその欲に区切りをつける為に、人魚は地上に降りたったのだ。それを証明しなければ。
「リリーおねいさんには、もう、近付きません」
「そうだね。弁えていればミラに何もしないよ」
「ぅ……」
和解をするつもりが、余計に苛々させちゃったみたい。こんな時は障らぬ海王蛇には祟り無し、だ。
それから数週間後。
「リリーさん。もう一ヶ月近く見ていないわね……大丈夫かしら」
「フィックスお兄さんに監禁されてるのよ。仕事前に店の前を通り掛かると朝は必ず一階でご飯食べてたのに、今日はご飯を食べる姿も見なかったし」
「そう……」
今日はママがはやめに仕事を終えたから、『テリーの串焼き』店で晩ごはんを食べることになった。
「あの、……リリーさんの事なんですが」
ママが店員さんと何か話してる。
店員さんは顔を真っ青にして『すぐに産んで持っていきます!』と、宿に繋がった通路を走り去っていった。
「ママどうしたの?」
「年の功というかね……リリーさんの平穏も大事だけど、フィックスさんにも平穏は必要だからね。気付いて後で自分を責めるのは、とてもしんどいから」
「ママ?」
「リリーさんが平穏に暮らせるよう、エメラルドも心穏やかに暮らそうね」
「……うん。ママと穏やかに暮らすよ」
「そうね。さぁ、今日は沢山食べようね。マリアーナが卸した黒スッポンビールでも飲もうかしら」
「うんっ。ママ調子よさそう、日に日に食欲も出てきたし! あたし明日はママに美味しいもの獲ってくるよ! 」
「フフ。ありがとう、エメラルド」
食べ終えてまったりしていると、店員さんがテリーさんに懇願してるのが見えた。
「我々では寝室のドアを開けた瞬間殺されるので頼みます」
「そういやフィクサーナからの言伝があったな。ついでにフィックスに伝えておくか」
店員さんはリリーおねいさんに食事を運びたい、でも発情期中の海王蛇は怖いから、テリーさんを見ながらそう言っていた。凄くリリーおねいさんが心配になってあたしも同行した。
案の定、テリーさんが寝室のドアをあけるとリリーおねいさんは外に吊るされて干からびかけている干物のようになっていた。
フィックスお兄さんはあたし達を見るなり獰猛な威嚇の眼を向けてきた。テリーさんが相殺してくれなかったらテリーさん以外のこの界隈の生物は間違いなく全て死んでたと思う。
「睨まないで下さい! 人族ですから! 食べないと数日で弱って死んでしまいますよ! ここに置いときますから! 」
「おいフィックス、フィクサーナがお嬢ちゃんが生きている内にどうしても会いたいと大泣きしていたんだが……まだ生きているか?」
「リリーおねいさん死んぢゃやだぁ! エメラルドを置いて逝かないで! うわああぁあんっっ!」
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フィックスお兄さんの発情期が終わって、リリーおねいさんの生還パーティーを企画した。皆がリリーおねいさんが回復するお酒を持ってきてたんだけど、嫉妬深いフィックスお兄さんがずっとリリーおねいさんに指から牽制という名のマーキング……あたし達に見せつけるようにお酒をあげていた。
三つの命を持つ高位人魚でも出せない人魚の原液だ。あれは生命力そのもの。あたしが持ってきた甘々酒なんて足元にも及ばない。だから自分で飲んだ。
「リリーおねいさん今日は何してたの? エメラルド、すごく心配したの……体、辛くない?」
「え、体調はいいよ? 今日はムンタリ大陸のドラゴン都市で沈没した海賊船からお宝掘り返してた」
その言葉に飲んでいた甘々酒をブー!とリリーおねいさんの顔に噴き出してしまった。
「こら、洗浄」
「げほ、っ……リリーおねいさんって……そこまで滅茶苦茶だった、け?」
ムンタリ大陸。
おまけにドラゴン都市って……ママから聞いた……この海の醜毒の高位人魚を残らず絶滅させた古龍がいる都市じゃないの?
でも醜毒は一体だけ生き残りがいて、殺されそうになったとき古龍の番になると嘘をついて逃げ出した。そしてその古龍の弟を唆し、呪いをかけて鮫にしたのだ。
醜毒は配下の人魚に命じて、鮫になった古龍を始末しようとした。中身は古龍だから、ただの人魚なんか勝てるわけないのに。だからあの界隈は、高位人魚もただの人魚も既にいない。その事実にちょっとホッとして、すぐ自己嫌悪した。フィックスお兄さんがいるから、リリーおねいさんが誰かとどうにかなる筈がないのに、あたし以外の人魚に取られることはないと、場違いな安堵を感じたのだ。
爪を噛むとママとマリアーナさんが眉を潜めた。そして苦笑いした。
リリーおねいさんが「パーティーはお開きにします!」と言ってフィックスお兄さんと出掛けたあと、マリアーナさんに頭をガシガシと撫でられた。
「あんたをうちの子にするつもりだったからね。何かあったら護るつもりだ。でも心配なんだよ。ミラにもあまり苦労をかけるんじゃないよ」
「うん……ごめんなさい」
◇ ◇ ◇ ◇
浜辺が閉鎖されてから海を眺めるようになった。
ずっと海で働いてきたのに、泳げないようになると、海が恋しくなるのよね。
でも、心は落ち着いている。
本当に欲しいものを手に入れたから。
無いものねだり、なんてしちゃだめ。
今ある大切なものに目を向けないとね。
「エメラルド、まーた海眺めてたの? そんなに海が好きなら明日泳ぎ教えてよ!」
「わたしも教えてほしーい、だって海中ハンターって泳ぎが得意なんでしょ?」
「明日から浜辺も解禁されるしこの夏に泳げるようになりたいのぉ~、ね、お願いっ!」
「ごめん、明日はテリーさんが浜辺に開く店で漁をしないといけないから……明後日ならいけるけど、どうする?」
「ほんとー! やったぁ!」
「約束よ! お母さんに来年学校に上がるまでに泳げるようにならないと、海中ハンターの見習いさせるって、脅されててさぁ」
「うちもー。寝起き弱いのに。早朝から働くなんてきついよー」
「あはは、うん。約束ね」
以前、学校の見学案内で知り合った二人の人間の女の子。前は街ですれ違うたび、話し掛けられてもすぐに会話を終了させてたけど、最近はよく話すようになった。二人とも母親が酒場の経営をしていて、アルレントの船が去って落ち着いたら、今度あたしが収穫した海産物を卸す話も進めてる。これからは塞ぎこまずに人間と関わって生きていこう。ママやマリアーナさんに、心配かけちゃいけないもの。
「あー、今日も店で余ったウニ缶と桃缶食べなきゃいけなくてさー、わたしのお母さんレパートリー少ないの。いつもウニのオイル浸け。それも美味しいけどもう飽きたー」
「なら今度ウニ料理教えてあげるよ。知り合いに習った、とっても美味しい麺料理なの」
「わたし麺料理すきー」
「うちにも教えてよー」
「うん」
ママはそんなあたしの変わった姿に、これもリリーさんのお陰ね、そう言って微笑んでいた。人間はずるいから、すぐ心の隙間に入ってこようとするから、涙を見られたら利用されるから、だから人間とは極力関わろうとする考えがなかったの。
「あー、来年楽しみだね♪」
「ねー、寮ではうちら同室だもんねっ」
「誰かイビキうるさい人いる?」
「うちは歯軋りする方かなー」
「わたしは寝屁が多いってお母さんに言われたー」
「やだ、なんでこの二人と同室なのよ。今から気がやられるわー」
「そういうエメラルドこそ、寝てるとき寝言が多いわよ!」
「うそぉ?」
「この前のお泊まり会、ほーんとうるさかったんだから!」
「そうそう。『ママ、大好きー』って……なに照れてんのよ」
「…………」
人魚は殆ど寝ない。
ママも声が復活してから、殆ど寝なくなった。でもママに合わせて無理矢理寝てたあたしは、ホーリーパールを流してから普通に眠るようになったのだ。
「やだママ……あたしの寝起きはいつもにこにこしてると思ってたけど、聞いてたのね」
「はいはい、エメラルドはママっ子だからねー」
「案外寮に入ったら寂しくて泣いちゃうんじゃない? ママに会いたーい、なんて寝言でも泣いちゃったりしてさぁ」
「う、うるさいわねっ。エメラルドは、」
「あー、また自分のこと名前で言ってる。なーんかエメラルドって、最初は淡々としてて大人っぽかったけど、やっぱ子供だよねー」
「別にいいじゃない、エメラルドまだ子供だもんっ」
「あっはは」
早く大人にならなきゃいけなかったのに、子供でいさせてくれた。リリーおねいさんが、あたしを救ってくれたの。
"リリーさんが平穏に暮らせるよう、エメラルドも心穏やかに暮らそうね"
そうだね、ママ。
リリーおねいさんなんだかんだいって、アリエルやマリンやシリン、あたし達のことよく見てるから。リリーおねいさんが平和に暮らしてるところを、心を煩わせたり、心配かけたりしちゃいけない。リリーおねいさんが困っているとき、泣いてるとき、励ましてあげれるよう、リリーおねいさんの助けになれるよう、あたしもリリーおねいさんみたいに強くならなきゃ。
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