悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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1部 おっかなびっくり放浪編

2 行方を眩ませました

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「お嬢様!  果実水がありますよ!  あと黒パンに干しベーコンも!」
「うるさい黙れニッキー。そのまま最高速度で安全運転で走れ。私が話し掛けるまで喋るんじゃない」
「はい!」

馬車で領地に向かう途中、スキル【マリオネットの心】を取得した。
魅了にかけた人間を操り状態にする、3万Pも消費するぶっ壊れスキルだ。本名を教えてもらうことで発動できる。攻略対象者用だが、ゲームではデートのお誘いが必ず成功するだけのスキルだった。まさか操り人形にできるとわ……異世界とはいえこうやって現実世界で使うと鳥肌しか立たんわ。

しかしこれは仕方のないことだった。

『なぁ……ヤラせろよ』
『腹減ったろ?』
『俺のチンポ食わせてやる』
『服を脱げ』
『お前は領地につくまで俺のチンポをしゃぶるんだ』
『その金髪にぶっかけてやるから』
『先に尻から犯してやろう。ほら、尻を出せ』
『はぁ……解りました。貴方の名前を教えてくれたら、なんでも致しますわ』

と、先程まであまりにも御者が話し掛けてきて五月蝿かったのだ。Pの無駄遣いは居たたまれないが、本当に仕方のないことだった。

「お腹が減った……そういや舞踏会ではジュースしか飲んでなかった」

異空間魔法を発動する。
ゲームのように手の平を見ると収納の中身が頭に浮かび上がってきた。

「すごっ……感動!」

無限に物を入れられる、時間が停止した空間だ。はじめは物を入れるにも制限があったけど、課金で無制限にした。生き物は入れられない。

収納に入ってる食べ物を探ると、通常の飲食物からイベントで手に入れたコラボフードまで、色々あった。武器や装備はもちろん、手に入れたアイテム等も前世でプレイした時のまんま入ってる。

体に聖属性魔法の結界を纏わせ、馬車の揺れを緩和させる。

おおっ、アマリリスはきちんと魔法も習っていたから息をするように発動できた。

そして収納に材料さえ揃ってれば一瞬で出来上がるテンプレ料理で熱々のペペロンチーノを出してがっついた。
辛いソースも出して全体的にかける。
口一杯に炭水化物を頬張って幸せ~。アイスコーヒーで喉を潤してきな粉バニラアイスも食べた。

それにしてもドレスが邪魔くさい。
力任せに破いて脱いで、収納から出したジャージを着た。

上下まっ黒でシルバーのラインが入った採取用のジャージだ。付属効果で足が速くなる。宝石類も全て外して収納する。

ながったらしい巻き髪もヘアゴムでポニーテールにして前髪もヘアバンドですっきりさせた。

あ~、ラクだし楽しい。
腹ぱんで眠くなってきた。




小窓から朝陽が差し込む。
空気が冷たいから、まだ早朝だ。
頭皮がベタつく。欠伸をしながら起き上がり、体全体に洗浄魔法をかけた。

収納からホットワインを出して、体を暖めた。

「美味しい……ニッキー、いまどこ?」
「お嬢様!  フブル区に入りました!」

小窓から顔を出したニッキー。
汗だくだ。おつかれー。

「あー、もうそこまで?  一旦止めてくれる」
「はい!」

フブル区……領地手前じゃないか。進み過ぎだよ。
夜には私に掛けられた千里眼を解除しようか。ここまで離れたら感度は下がるはず。

「じゃ、散歩でもしてくるからニッキーは寝るなり食事するなり何処かへ行くなり自由にしてて~」
「はい、お嬢様!」

ここでさようなら。
隠密を発動。気配や匂いを消して透明化してくれるスキルだ。
ふむ。発動しても自分ではよくわからないな。
確認のため一応ニッキーの目の前で手を振ってみたが、感知していないようだ。
よしいこう。
馬車から離れて伸びをする。
辺りは馬車道が続いている。整備された道だけど人の気配はないようだ。

魔力を放出してマップ開拓。

「あー、近くに人里も何もないみたいね。ん?」

馬車道を引き返すと少し遠くにヌコン村。ヌコン鰻の名産地がある。
領地からそう離れてないし、魔獣とかはいないみたいね。

よし、向こうに見える草原に行ってみよう。


のんびり歩きながら花や虫を観察する。
プラチナ草を採取して、薬の材料になるヒールアゲハを捕まえた。中トロキノコと赤身キノコもある。収納に入れておこう。探知探索採取のスキルでレアな仙人ゴボウと長寿トリュフも見付けて掘り返した。

「貧乏性よねぇ。でもこれがやめらんないのよねぇ……あ、ニンジンウサギだ!」

普段は土の中に隠れて葉っぱのような耳だけ地上に出してるウサギだ。その身は美味しく、骨から出汁もとれ、鍋に適してる。葉っぱのような耳も入れるとシャキシャキと歯応えが合って美味しいと鑑定に出た。

「そういや私、色々取りつくしてるけど、味は知らないわ」

ゲームでは食べなくとも餓死しないし、ステータスに響くことはない。ただ料理のスキルを得るには、ゲームの中で料理をしなくてはいけなくて。なんでそんなことが必要かと言うと、ここが乙女ゲームの世界だから。攻略対象者の半数が料理のスキルがあるだけで好感度が上がるのだ。

そういやコラボフードとか、好感度上げるアイテムとして扱われてたけど、食べるといってもゲームの中での話だし。

収納から鯛焼きを出した。
おやつフェスティバルの釣りイベントで2万匹は釣った鯛焼きだ。売るほどある。

「……うま。朝ってなんか甘いもの食べたくなるのよねぇ~。あ、そうだ!」

収納からインビジブルタワーを出す。
現れたのは細長い透明な塔。10階建ての家だ。
これは年末の大放出イベントで配られた、課金者だけが手に入れられる家だ。モンスターは勿論、私以外は触れることはおろか、認識することもできない。

所有者は玄関のドアに手を翳すだけで中に入ることができる。

「えーと、確か冷蔵庫に……あったー!」

バレンタインイベントをクリアするため料理と作業高速化のスキルで作ったクッキーとパウンドケーキとベリータルトが大量に冷蔵庫に残ってた。腐らないよう収納に入れた。

ソファーにダイブして収納からホットコーヒーを出した。チョコチップクッキーをつまんで幸せ。

「あ~、おいし~、これでテレビがあったら最高なのにー」

1階は居間とキッチン。
2階はバスルームと寝室。
3階は畑。種はイベントで手に入れた。
4階は各ギルドへの転移門がある。
5~10階は空室だ。まだ使い道がない。


「あ、そうだ。ステータス、オープン」


アマリリス・ヒューテック
15歳 公爵令嬢
HP 999930/999999
MP 991020/999890
【スキル】
無詠唱/光神の加護/生活魔法/火魔法/水魔法/雷魔法/毒魔法/氷魔法/身体強化/隠密/飛行/魔法強化/聖属性魔法/闇属性魔法/異空間魔法/転移魔法/聖霊術(土/植物/風/幻覚)物理障壁/魔法障壁/地図/鑑定/査定/直感/料理/洗浄/山歩き/水流使い/採取/探知/探索/マップ開拓/威圧/拒絶/夜目/ダメージ減/作業高速化/マリオネットの心/毒殺/失血/窒息/溺死/凍死/暗殺

【取得可スキル】残957152354P
……▽クリック


「確か海釣りスキルもあった筈だけど……う~ん、取得可スキルには見当たらないな……あ!  そういや船持ってないと出てこないんだった……あ~ぁ……船なんて王都にいかないと売ってないじゃ~ん。あ、渓流釣りのスキルがあるっ……あ、でも川魚苦手だしなぁ……ヌコン村で鰻でも釣るかー」

考えながら生活魔法で爪を短く整える。さっき採取したとき、長い爪が邪魔だったんだよね。

こんな風に生活魔法は爪切りとか些細なものから、目覚まし機能とか、時刻や気温を調べたり天気予報にも使える。

欠伸をして2階にあがる。
そういや飛行魔法ってほんとに宙を飛べるのかな?
発動するとふわっと浮いた。おおっ、肩を前にやると前進、引くと後退、なにこれ楽しい♪
上下左右で試し飛びして、課金したマカロン型のベットにダイブ。わぁ、お菓子のいい匂い~。
一時間後に起きるよう設定して、私は目を閉じた。



ピリっと肌に刺激を感じた。
近くに魔獣か?  まだ目覚ましは鳴ってない。

30分も寝ていなかったようだ。時刻はまだ午前中。

「近くに人がいるわね……12人か」

探知を拡げる。
少し離れた場所に死体がある。ん?

隠密のまま外に出ると、いかにも荒くれ者という男達がいた。私には気付かない。急いで飛行で馬車に戻った。

「…………ニッキー?」

御者席で血塗れで倒れて……返事がない。袈裟懸けに切られてる。春とはいえ、まだ外の気温は低い。馬は滅多刺しにされていて、湯気が上がっていた。酷い……。

「おい!  荷物も何もない!  空っぽじゃねーか!」

馬車から一人の男が出てきた。
手に持つ剣は錆び付いて、まだ新しい血が付着していた。

「おかしいな。身なりのいい御者だから、それなりのもんを運んでると思ったんだがな」

ぞろぞろと男達が集まってくる。私の家の周りにいたのは、見晴らしのいいところで見張りをしていたのか。

「なら馬車を解体しよう。車輪や金具を外せ。いくらか儲けにはなる」
「チッ!  なら馬を盗めばよかった!」
「うるせー!  最初に馬を狙ったのはお前だろ!」
「でかく稼げると思ったんだよ!」

明らかに食いっぱぐれてる連中だ。ガリガリで、身なりは浮浪者以下。それに諦めたように馬の腿から肉を切り離してる。食う物もないのか。

私は隠密のまま、収納から茹で卵を20個出して、魔法で毒を仕込んだ。それを布に包み、馬車の中に置いた。

「……ん?  なんだこれ。さっきはこんなの……」
「おい見せろ!  なんだそれ!」

そっとその場を離れる。
インビジブルタワーを収納し、飛行で草原を抜けて森に入っていく。ヌコン村まで来た道を戻ろう。いや、ここは領地に入って海を渡る方がいいかもしれない。

「うぅ……気持ち悪い……死体見ちゃった……」

今になって心臓がばくばくと鳴りやまない。
そうだ、ヒロインのマーガレット・パステルの家があるナーナー丘に行こうかな。あそこは街も人もなぁなぁで平民が暮らしやすい地域だった。考えるな、考えるな。余計なことは考えるな。

私は胃が締め付けられるような、ぞわぞわした感覚を抱きつつも、それをどこか他人事のように感じながら、無心で森を飛行した。

その日の夜は流石に食欲がわかず、お風呂に入って寝た。
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