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第137話「あっさりとした決着」
しおりを挟む「さっきまでの勢いはどうした? 『怨塊弾』!」
魔将から放たれた複数の黒い怨霊は、俺の体を喰い尽くそうとどこまで逃げても追いかけてくる。
「さっきからしつこいんだよ! 『迅雷光爆』!」
魔法で怨霊共を吹き飛ばしつつ近くの建物に隠れる。魔将と戦い始めてから既に1時間。お互い決め手がなく削りあっているが、いい加減魔力が厳しくなってきた。【無限収納】からマナポーションを取り出して飲みつつ、どうやって魔将を倒すかを考える。
「隠れてないででてこい。それとも引きずり出して欲しいのか? 『怨恨の豪波動』!!」
「! 【魔法融合】発動! 『四重精障壁《エレメンタルシールド》』!」
障壁を張った瞬間、魔将の放った黒い波動が周囲の民家を丸ごと吹き飛ばした。周囲に潜んでいたレンブラントの騎士達も波動に取り込まれ、あっという間に命を散らして倒れていく。
「…っ! この野郎!」
「……貴様との戦いも飽きたな。そろそろ終わらせることにしよう。貴様諸共全てを破壊してな!! 『શુદ્ધ કરવા માટેનો દરવાજો ખોલો……』」
魔将が頭上に掲げた両腕の先に謎のゲートが出現し、その先には見たことのない禍々しい扉が現れる。直感的にあの扉が開いたらヤバイ事が起こると分かった。
「この扉は煉獄門と呼ばれる地獄に繋がる入口だ。この扉が開いたが最後、地獄に漂う無数の怨念が発する膨大な力が溢れ出し、この国全体を破壊し喰らい尽くすのだ。今この国にいる貴様の仲間達も全てが灰燼に帰すだろう。仲間と共に逝けるのだ。ありがたく思え」
「なん…だと…」
「俺は貴様を消したあとでゆっくりと『神の欠片』を探し出し、神の封印を破壊して魔神様を復活させるとしよう。潔く散れ」
これは…ヤバイ。魔将のあの目は本気だ。本気でこの国ごと破壊して終わりにしようとしている。こうしている間にも少しずつ煉獄門が開き、破滅へのカウントダウンが進んでいく。
これはもう、あれを使うしかないのか。もしもの時のために作った対魔族用完全封印魔法。使う代償として俺の生命力や魔力、魂を削ったりしなきゃならないが、こうなってしまっては仕方がない。
俺は【無限収納】から上の部分が開くようになっている30cm角の正方形の白い箱を出し、蓋を開けてからその場に置く。この封印の箱には様々なギミックが施されており、これに封印されたらどんなに強力な魔族であろうと、その種族が魔族である限り抜けることは出来ない…はずだ。
「ん? なんだそれは?」
「俺の最後の奥の手だよ。俺の全てを賭けて、この中にお前を封印させてもらう! 【多重積層型魔族完全封印魔法】発動!! はあああああっ!!!」
「!? むおおおおっ! な、なんだこれはァァ!!」
俺の発動した魔法は魔族の者を聖なる魔力で作られた光の檻に強制的に拘束し、拘束したまま封印の箱にぶち込んで蓋を閉めるだけの簡単な仕様である。参考資料は某DBの魔○波だ。だがこの封印の箱を正常に動作させるためには膨大な力が必要になる。前もって何日かかけて注入しておけばよかったのだが、そんな暇もなかったのでこれからやるしかない。
魔将を煉獄門ごと光の檻に閉じ込め、魔力の流れを操作して封印の箱にスッポリと入れたあと、蓋を閉めてからその上に手を置き気合を入れて注入を開始する。
「ううううりゃああああああああっ!!!」
『なんだこれはぁぁぁ!! 出せ! ここから出せぇぇぇぇ!!』
箱の中からガンガンと抵抗しようとする魔将の声と箱を叩く音が聞こえてくるが気にしてはいけない。この箱の中に入った時点で魔将の力は1/10くらいまで削られる。気合を入れて箱を押さえつけ魔力と生命力を注ぎ込んでいるが、箱のモニターがまだ足りないと訴えかけてくる。
※この魔族を封印するためには魔力が足りません。 注入率:5%
※この魔族を封印するためには生命力が足りません。 注入率:4%
「まだまだああああぁぁぁぁっ!! 」
「はぁ、はぁ、はぁ、う~~りゃぁぁぁぁぁ!」
『くそがぁあああ! ここを開けろおおおお!!』ガンガンガンッ!
気合と根性で魔力と生命力を封印の箱に送り続けて3時間。限界なんてとうの昔に過ぎ去って、意識が飛びそうになりながら惰性でエネルギーを送り続けながら暫く立った時、箱の中から機械的な音が聞こえてきた。
※封印するためのエネルギーが注入完了しました。完全封印を開始いたします。
ガコンっ、プシュウウウゥゥゥゥゥゥ……キィンッ!
……どうやら無事に作動したらしい。もう、限界。ダメ…。
ぱたっ。
「――――……ド殿!! …ロード殿!!」
「―――……ん、ううっ…あと4時間……」
「完全に寝ぼけてんなコイツ。オラ、起きろボケぇ!!」
ガンッ!
誰かに殴られ強制的に目を覚まされてむくりと起き上がると、俺の近くには魔導王や騎士総長、ミスティリア様もいた。
「全く、わたくしに心配をかけるなんて罪な人ですわねクロード様は」
「…あぁ、俺寝ちゃってたのか。ミスティリア様も無事みたいでよかったですよ」
俺の横には魔将を封印した箱も置いてある。さっきまでのは夢ではないようだ。
「それで、魔将の野郎はどうなったんだ?」
「この中に封印してありますよ。俺以外には開けられないと思いますけど注意してくださいね」
みんなにそう注意してから箱を確認してみると、コンソールを確認して間違いなく魔将が封印されているのが分かる。今頃この箱の中では、魔将が幾重にも張られた魔法の積層に挟まれ、身動き一つ出来ていないはずだ。一度封印されれば半永久的に解けないはずなので、安心して【無限収納】の肥やしにしてあげよう。
「こっちはこれで終わりましたけど、王都の中はどうなりました?」
「こちらも制圧は完了致した。しかしレンブラント王族の面々は全員死体で発見されている。これからどうするかは陛下にお伺いを立てなければならないな」
「分かりました。ちょっと待ってくださいね」
陛下に魔導通信機で連絡を取り、レンブラント王国の制圧が完了した事を告げる。今後どうするか尋ねたところ、王族がいなくなってしまったので帝国と魔導国、そしてクリスティア王国合同で代官を立てて国の管理していく事になった。魔将に荒らされた王都の復興作業も各国共同で順次進めていく事になるらしい。
『ご苦労だったなクロードよ。敵魔族の討伐、大儀であった』
「いえ、討伐って言うか倒しきれなかったので封印したんですけどね。でももう二度と出てこれないはずなので安心していいと思います」
『そうか…分かった。後の処理は騎士団に任せ、お前は帰還しても良いぞ』
「了解です。流石に疲れたので帰って寝ます。ではまた」
とりあえずこれで一安心だな。通信を切って騎士総長に陛下の意向を伝える。レンブラント制圧後のことは魔導王やソレイユ様も話し合っていたらしく、今後の事は大体理解しているようだ。あと、魔将を封印したから国民や騎士達は黒い侵食から解放されているぁもしれないから確認してほしい事を伝える。普通に戻ってたら拘束する意味無いからね。
「了解した。では我々クリスティア騎士団は国民達の状態を確認したあと復興作業に移る。クロード殿、ここまでの協力感謝する。貴殿はクリスティアに帰ってゆっくりと休むといい」
「分かりました。後はお願いしますね」
「ん? クロード、帰るのか?」
「えぇ。俺がこの国で出来る事はもう無いですからね。自分の家に帰って寝ますよ」
「…そうか。今回の戦いでは、俺もミスティリアもお前に随分と助けられた。この恩は必ず返すつもりだ」
「いえ、別にいいですよ。俺も魔導王陛下には助けてもらいましたし、おあいこってやつです」
実際魔導王がいなかったらヤバイ場面も何回かあったしな。ソレイユ様を助けられたのも魔導王が体を張って庇ってくれたおかげだし。
「へっ、そんな訳にはいかねぇよ。近いうちにうちの国に遊びに来いや。歓迎するぜ」
「わたくしも心よりお待ちしておりますわ。その時はわたくしのお部屋にも遊びに来てくださいね。お泊りして一緒にお風呂に入ってから同じベッドで寝ましょうね!」
「あ、あはは、了解です。学園が休みに入ってからでも遊びに行きますね」
魔導王達に手を振り別れを告げ、ソレイユ様にも挨拶して行こうと探してみる。ソレイユ様病み上がりにも拘らず帝国騎士達に何かの指示を出しているようだ。邪魔しちゃ悪いと見ていると、俺に気付くと同時に抱きついてきた。
「クロードくん!」
「ソレイユ様…元気になったみたいですね。安心しましたよ」
「うん、なんとかね。私が助かったのはクロードくんのおかげだって聞いてるよ。ホントにありがとね」
「いえ。そう言えばこれ、どうします?」
俺の手には黄色く輝く『神の欠片』が握られている。これってソレイユ様に返せるのか? 試しにソレイユ様の胸に押し当ててみると、光り輝きながらズブズブと入っていく。そのまま押し込むと、何事も無く全て体の中に入っていった。
「・・・どうやら戻せたみたいですね。体の調子はどうですか?」
「何とも無いけど…。『神の欠片』なんて何に使うか分からないけど、取り返してくれてありがとうね」
「まぁ無いよりはあった方が良いくらいに思っておけばいいのでは? 俺も良く分かりませんし。それじゃ俺は帰りますね。ソレイユ様もあんまり無理しないで休まないとダメですよ?」
「うん。わかってるよぉ。ホントに色々ありがとう。今度帝国に来たらちゃんとお返しするからね!」
「あはは、期待してます。それじゃ!」
ソレイユ様に別れを告げて転翔の羽を使って自分の部屋に転移する。今日はもうさっさと寝よう。魔力も体力ももう限界だ。後の事はまた明日ってことで…。
おまむみ~。
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